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街のそば屋にラーメンがあるのはなぜ? 知られざる「中華麺をそばつゆで」の世界

文春オンライン / 2021年10月26日 11時0分

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丸政そばの「黄そば」と野沢菜天

 昨今、そば屋のラーメンがうまいと話題になっている。出汁がかつお節や昆布など和風で昭和時代のノスタルジックなテイストに郷愁を覚える。増田薫氏がイラスト漫画「 今日は蕎麦屋でラーメンを 」で明快に紹介されているので参照されたい。

 そこで今回は少しひねって、「中華麺をそばつゆで」というテーマについて考察しようと思う。「ひらまよさん」こと作家の平松洋子先生のタイトルみたいなのはどうかご容赦ください。

そば屋に中華麺が置かれた理由

 街のそば屋にラーメンが登場したのは大正時代だといわれている。本格的にそば屋でラーメンを提供するようになったのは、戦後GHQが大量の小麦粉を持ち込んだ以降である。ラーメンの大ブームが起きて、「なんでラーメンがないんだ」とお客さんにせがまれての結果だと思う。つまり、昭和20年代後半から30年代に、そば屋にはすでに中華麺とそばつゆは同時に存在していたわけである。

 終戦直後はそば粉・小麦粉は全くといっていいほど不足していた。昭和24年、姫路駅の立ち食いそば屋「えきそば」では、粉不足をしのぐためにそば粉にこんにゃく粉を入れた麺を販売。その後、そばとラーメンの中間のような黄色い麺を製造したところ人気を博した。それが「えきそば」で今も大人気の「黄(きい)そば」のルーツである。現在は中華麺にそばつゆをかけて提供している。関西では中華麺にそば(うどん)つゆをかけた「黄そば」を提供するところが多い。

関西の黄そばと鳥中華が2大勢力

 中華麺をそばつゆで食べることのできる代表的な店といえば、前述の姫路駅の「えきそば」、立ち食いではないが名古屋の「長命うどん」(こちらは麺のワンダーランドです)、山梨県小淵沢・長坂・甲府北口・韮崎などにある「丸政そば」(1956年創業)などである。「丸政そば」ではそばつゆに合う中華麺を開発し、2013年頃からそば・うどんの他に「黄そば」を販売している。

 また、「麺王県」と勝手に認定している山形県にはそば屋に「鳥中華」という大人気のメニューがある。これもかつお節や昆布出汁をベースに鶏がら出汁を利かしたほぼそばつゆに近いつゆに中華麺を入れ鶏肉を併せたもので、山形名物「冷し鳥そば」と同じくらい人気となっている。

「中華麺をそばつゆで」食べる方法は2つある

「中華麺をそばつゆで」食べるには、大きく2つの方法がある。まず1つは「かけ中華」である。かけそばのように温かいそばつゆに中華麺を泳がすタイプである。そして、もう1つは「ざるそば」のように冷たい中華麺をせいろに載せて、冷たい辛汁あるいは温かいつけ汁(かもせいろを想像してください)につけて食べるタイプである。これを「もり中華」と便宜上命名しておく。

東京近郊で「かけ中華」その1

「東京界隈で食べることができる店はないの?」と心配する方もいらっしゃるかもしれないが、大丈夫、ちゃんとあります。

 銀座の数寄屋橋交差点近くの銀座4丁目にある「よもだそば 銀座店」の自動券売機には、「ラそば変更券50円」というボタンがある。普通のそば・うどんのメニューを買ってこの変更券を買うと、そば・うどんを中華麺に交換してくれるというサービスだ。つまり、すべての麺メニューを中華麺にできるわけである。温かいそばも冷たいそばもすべて変更可能。なお日本橋店には現在、そのサービスはない。

 さっそく訪問し「ゲソ天ラそば」を注文してみた。中華麺は注文後に茹でるので2分程度待つ。

 その中華麺は細麺で、そばつゆにマッチしている。何となく麺に甘さを感じる。そばつゆとの相性は抜群である。もちろん違和感など皆無である。実は冷しで食べると、これがまた抜群のうまさである。どうしても定期的に食べたくなる一品だ。

東京近郊で「かけ中華」その2

 鳥中華のメニューが大人気になっている立ち食いそば屋がある。明大前駅構内にある「高幡そば」である。京王電鉄系の株式会社レストラン京王が経営する「高幡そば」は高幡不動駅構内でも営業している。

 こちらの鳥中華はマスコミでも何度か取り上げられており、一部のマニアには大人気メニューになっている。店は京王線明大前駅の構内にある。店の入り口に「鳥中華」のPOPが大きく配置されている。

 店内に入り券売機を見ると温かい「鳥中華」(570円)の他に「冷たい鳥中華」(570円)を発見したので、思わずボタンを押して注文してしまった。明大前で山形の味に出会える喜び。

 さて待つこと1分。煮込んだ鶏肉に三つ葉、ねぎ、たぬき、刻み海苔、ナルトがのって豪華絢爛。つゆをひとくち。冷たいそばつゆにほんのり鶏出汁が香る。中華麺はシコシコツルツルで甘みを感じる。

 これに黒胡椒をかけるか七味をかけるかはお客さん次第。そこで黒胡椒をかけたのだがこれが「うまいっ」。堪らないうまさだ。立ち食いでこんなにうまいメニューがあるのかというレベル。このメニューを開発した方は天才だと思う。お店の方に聞くと「冷たい鳥中華」は年中食べることができるそうだ。明大前駅利用の方がうらやましい。

東京近郊で「もり中華」を

 さて、最後(トリ)は足立区宮城にある「砂場」の「かもせいろ(中華麺)」である。舎人ライナー「足立小台」あるいは都電荒川線「小台」から歩いて約20分はかかる。

 結論からいうとここの旨さは驚愕のレベル、大衆そば屋の頂点といってもいい存在だ。そばの達人から「はよ行け」と促されていたのだが、今回ようやく訪問することができた。「砂場」は創業70年というから恐れ入る。元気な女将さんと寡黙で恰幅のいい大将、そして大女将の3人で切り盛りしている。

 朝は6時から営業開始。緊急事態宣言などの時短要請がない限り、酒も朝から飲める。入店すると壁一面にメニューが貼り尽くされている。そば・うどん・中華麺すべて自家製麺。温かいそばうどんの部、冷たいそばうどんの部、ご飯の部、中華麺等の部、定食の部などと区分けして掲載されている。中には「焼肉そば」なんていうメニューもある。

 そしてその中につけめん・せいろメニューの区分けがあり、「せいろそば」、「かもせいろ」、「カレーせいろ」などが並ぶ。そば・うどん・中華麺でもOKと書かれている。さっそく、「かもせいろ(中華麺)」(650円)を注文した。

 待つこと数分。登場したせいろには自家製の中華麺がどっさりと盛り付けられている。かも汁はすごい量で返しは濃いめで、その中に鴨肉がゴロゴロ入っていて、火の通り具合が絶妙である。つゆをひとくち。かも肉のあぶらの香りと十分に利いたかつお出汁が融合した、実に奥深い味である。

 そのつけ汁に自家製の中華麺をつけて食べると、これはまたなんという涅槃感だろうか。やや太めの麺のコシと甘みがかも汁と相俟って、今まで食べたことのない味の扉を開いていく。しかもこの「かもせいろ」650円である。あり得ない良心的値段である。昭和時代に舞い戻ったような大衆そばの良店に出会えた時の喜びは何とも言えない。

探求はまだまだ続く

 さて今回の「黄そば」と「鳥中華」で始まった「中華麺をそばつゆで」の旅もそろそろ終わりである。このスタイルの料理は、街のそば屋でも提供しているところも多いと聞く。もちろん山形そばの店に行けば、「鳥中華」はたいてい食べることができるし、行きつけの街のそば屋でラーメンが置いてある店ならメニューを探せば見つかるかもしれない。もしなくてもお願いすれば作ってくれるところもあると思う。是非、実食レポを期待する次第である。

INFORMATION

よもだそば 銀座店
住所:東京都中央区銀座4-3-2 銀座白亜ビル 1F
営業時間:7:00~20:00

高幡そば 明大前店
住所:東京都世田谷区松原2-45-1 京王線明大前駅改札内
営業時間:平日・土6:30~22:00、土7:00~20:00、日祝7:00~19:00

砂場
住所:東京都足立区宮城1-19-3
営業時間:6:00~15:00、17:00~20:00
定休日:日祝

(坂崎 仁紀)

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