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「韓国での家業が倒産して、両親は全財産1万円で来日しました」 サウナ「adam・eve」経営者が“タレントのマネージャー”を辞めて家業を継いだワケ

文春オンライン / 2021年11月13日 17時0分

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「5秒前、3!2!1!キュー! さあ始まりました、シブスタ月曜日!」

 生放送がはじまる。ルーティンになっているとはいえ、この瞬間はいつもフロアに緊張が走る。番組のアシスタントプロデューサーのボクはひとたび問題が生じればすぐに人身御供になれるように、スタジオのバックヤードにある小さいモニターを、駆け出しのマネージャーである文(ムン)と一緒に今日も見つめていた…。

 夢や希望を抱いて17年前に芸能界で出会った二人は現在、中小企業の経営者になった。

 筆者とオーナーとは初対面ではない。出会った当時はサウナのオーナーと客としての関係ではなく、アシスタントプロデューサーと駆け出しのマネージャーという間柄だった。

 片やテレビ東京の夕方の生番組のアシスタントプロデューサー、片や番組MC人気タレントのマネージャー。当時は働き方改革なんて言葉はなく、お互い家にもあまり帰れない目まぐるしい日々を過ごしていた…。17年経った今、ボクたちは大人になれたのだろうか。

 オロポ(オロナミンCのポカリスエット割り)発祥の地であり、さまざまな人種や国籍、タトゥー、刺青を受け入れるサウナ、西麻布adam・eve(アダムアンドイブ)。社長の文沢圭(ムン・テッキュ)の人生もまた、波乱万蒸だった。

在日コリアンとして生まれ

「父が韓国で行っていた家業が倒産して、両親の知り合いを頼って日本に働き口を探しに来たのが始まりです。父は最初に日本に来た時、全財産1万円。でも免税店でタバコ買うんですよ(笑)。買うんかい!って感じなんですけど(笑)。当時1カートン2000円くらいで、残り8000円。嫁と子供もいるし、これからどうしようかな…って喫茶店で煙草を吸っていたら、状況がネガティブすぎて、逆に気持ちがポジティブになり『これ以上悪くなることはないから、なるようになるでしょ』って、とにかくなんでもやってやる!という感じになったそうです。すごい狭い場所に家族3人で暮らしていましたが、まだ幼かったので貧乏だと理解できていなかったのは幸いでしたね。その後は両親ともに知り合いのツテでとりあえず仕事は見つかって」

 スタートから映画の様な波乱の船出。

 幼かった文は日本語がしゃべれず、子供ながらに苦労したという。

「最初は日本語が全く喋れなかったんですよ。いきなり小学校に入ったので、大変でした。昔って転校生は全校集会で挨拶してたんですね。当時『おはようございます』だけは言えたんで、先生からそれだけ言いなさいって言われて。全校生徒の前でマイクを向けられて『おはようございます』って言ったら、校長先生が質問したんです。『どこから来たんでしたっけ』とかそんな感じの質問だったと思うんですけど。僕は何言っているかわからないし『おはようございます』しか言えないので、もう一回『おはようございます』って言ったら、この子言葉わかんないんだってなって。それでいじめられました。

 西麻布という土地柄、大使館関係の外国人のお子さんや韓国人もいっぱいいたので『韓国人だ』といじめられたわけではないのですが、言葉がわからない子が入ってくると、からかいの対象にはなりますよね。当時、両親とは韓国語で喋っていたのですが、親としては早く日本語を覚えてほしいという思いがあって、できるだけ家でも日本語を使うように促されました。必死だったので、半年ぐらいで不自由ないぐらいにしゃべれるようになりました。子供って凄いですよね。

 その後はもう言葉の苦労は全くなくなりましたが、逆に韓国語のスキルがみるみる落ちてしまいました。家ではいまだに母親は僕に韓国語で話しかけ、僕は日本語で返しています」

 韓国から裸一貫来日し、家族で苦労しながらも懸命に暮らしていた文一家。両親に共通していたのは“サウナが大好き”ということ。それは、東京でも有数のサウナ施設創業の火種になるには十分だった。

「来日して4年くらいたった平成3年のことでした。麻布十番の『韓日館』という焼肉屋さんがあるビルの地下に、女性専用の『サウナEve』というお店を開業させるんです。女性専用でしたので、母が経営をしていました。当時は女性専用のサウナは少なくて、その頃は『ルビーパレス』さん、ロアビル『VIVI』さん(現在は閉店)があるくらいでした。なので、界隈のマダム達からかなりご好評いただいて。その中で奥様方が『家族で来れる所があったらいいんじゃない』というお話をされて、父親も自分が入れるところを作りたかったそうで、じゃあ男性用もということで平成7年に、別々ですが男女が入浴できる『adam・eve』が開業しました。両親は二人とも、今でいうサウナーのはしりです(笑)」

 麻布十番の女性専用サウナEveから西麻布の男女サウナadam・eveへ、両親は数年で事業を拡大していった。一方で、息子である沢圭は、初めからサウナ事業を継承したわけではなかった。

芸能界の灼熱熱波

「高校、大学とアメリカに留学して、卒業後は東京に戻ってきました。それでお店を手伝っていたとき、うちは場所柄芸能関係のお客様も多いんですが、ある芸能プロの代表の方から『ちょっとうちの会社の雑用を手伝ってよ』ってお誘いを受けたんです。そうしたら、あれよあれよという間に現場マネージャーになってしまいまして(笑)」

 今でいえばOJTということになるのだろうが、芸能界に入りたての若者がいきなり人気タレントの現場を任されるプレッシャーはさぞかし大きかったはずだ。

「その時はもう考える余裕もないぐらいの忙しさで。芸能界に入りたてで、もう何もわかりませんでした。タレントさんに色々教えてもらうぐらいの経験のなさだったんで。3年ぐらいやらせていただいて、大変なりにやりがいもあったんですが、27歳になって年齢的にも将来の方向性を決めないといけない時期になり、先代の父と話をしました。先代の気持ちとしては、やっぱりここを継いでほしいということだったので、先代の会社に入社しました。若かったから方針転換できたのだと思います。今の歳で判断を迫られていたら、相当悩んでいたと思います」

 27歳、人生野望に満ち満ちる年齢だが、育ててくれたadam・eveへの恩を返したいという想いで文は家業を継ぐことを決意する。

「子供のころからお風呂はずっとここだったし、留学できて自分の好きなことをやれたのも、全部ここがあったからなので。その歳なりに責任を感じて、他人に任せるわけにはいかないと考えました。ただ、当時はあまりにも韓国のことを知らなかったことと、韓国語を完全に忘れていたこともあり、正式に継ぐ前に、一回韓国へ行ってほしいと先代に言われてですね。1年間ぐらいサウナ文化を見つつ、韓国で生活をしました。

 街の小さな銭湯のようなサウナから、大型の施設までを見たんです。韓国も昔は銭湯に行く感じで毎日街のサウナに行ったりしてたんですけど、今は施設の数も減ってきましたね。若い人たちはサウナに行くとしても、イベント的に友達とたまにご飯食べてサウナ行くみたいな感じになっていますし。帰国し、正式に取締役になり、5年前に代表に就任させていただきました」

親子でのサウナ巡りから得たヒント

「父親は僕が小さい時に色んなサウナに一緒に連れて行ってくれたんですけど、その時に施設に対して、『こういうのがあったらいいな』とか『浴槽の深さはこれぐらいがいいな』とか考えていて、それを体現したそうです。例えばその時代、韓国式のアカスリをする施設はうちを含めて数軒くらいしかなかったので、サウナだけではなく、韓国式のアカスリマッサージもいいんだよという口コミも沢山いただきました。それからスチームサウナを始めた時に、普通のスチームだとありきたりなので、通常より高温に設定して、ヨモギとか他の薬草も色々入れて始めたら、これもご好評をいただいて。両親が、自分たちで入る時にスチームサウナにもうちょっとパンチが欲しいなと思ったらしいんです。ちなみに男性の方がちょっと温度が高めなんですけど」

 adam・eveの心地よさの秘訣、それは客がサウナに何を求めているかを施設側が一番理解していることなのだろう。

「父は他界したので取締役会長である母と相談しつつ、古いものは古いもので残しながら、お会計システムなどを改善していきました。『adam・eve』という色を残しつつ、男女それぞれの良さをどう育てていくかは常に考えています。基本的には、男女ともに、休憩室は家にいる雰囲気を目指していますね。最近のすごくおしゃれなサウナもいいとは思いつつ、僕自身そういうところに行くと、ちょっと緊張しちゃうんですよね(笑)。おしゃれすぎると『グデーッ』とできないというか。サウナでととのって、休憩室で気を失うぐらいでいいと僕は思っているので、照明の色合いとか暗さとかにはこだわってます。本当に気の休まる場所が西麻布にあるというのも、かっこいいんじゃないかなと思っていますし」

 

 オロナミンCのポカリスエット割り、通称オロポ。サウナーなら誰もが愛するこのドリンクの起源はadam・eveだった。

オロポ誕生秘話

「元々女性専用サウナのEveで、オロナミンCにヤクルトを入れる飲み物があったんですよ。おいしいんですけど、汗をかいた後だとちょっと甘みも強いし、量も水分補給にしては足りないと。そうしたら父が『じゃあオロナミンCにポカリスエット入れちゃったら?』って言いだして。水分補給をしているときに、もうちょっと甘くて炭酸があってもいいんじゃないのかなということで、実際にオロナミンCにポカリ入れて飲んでみたら『これすごくおいしいね!』ってなったらしいんです(笑)。

 でも既存の製品を混ぜただけなので、僕らが発明したんですと大々的に言うのはちょっと忍びないというか。都市伝説的にみなさんの間で発祥の地という認識だけあれば、僕らはそれで十分です(笑)」

浴室からの電話注文システム

「以前はしっかりサウナで汗を流していただいて、食堂で冷えたジョッキで飲むというのがルールだったんです。でも若い方がサウナに少しずつ目覚め始めまして、限界までいられるか我慢大会的な感じで入られる方が増えてきたんですね。しっかり水分補給しないとサウナは危ないので、『水分補給しましょう』という注意書きも貼ったんですけれども、それほど効果もありませんでした。それで、あるとき、だったら浴室内でドリンクを飲めたらいいんじゃないか、いっそインターホンを付けて、飲み物をいつでも注文できるようにしようと思いついたんです。メニューにある飲み物でしたら、お酒以外はなんでも注文できます」

 サウナーならご存じの方も多いと思うが、刺青の入った客を見かけることも珍しくないadam・eve。 後編 ではその背景に迫っていく。

INFORMATION

adame・eve  https://www.adamandeve.biz/  
住所 東京都港区西麻布3-5-5
お問合せ 03-5474-4490 イブ
     03-5474-4487 アダム
メールアドレス adam.and.eve@lagoon.ocn.ne.jp
ご予約 03-5474-4455
営業時間 年中無休

「うちはビールが売れない。みなさん名物“オロポ”を頼むんです」 刺青、タトゥーを“断らない”西麻布の老舗サウナが乗り越えた“経営危機” へ続く

(五箇 公貴)

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