1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

《大口病院点滴殺人》法廷中が仰天した“白衣の堕天使”死刑回避のワケは「出会い系依存、声優ライブ通い、母娘関係…」

文春オンライン / 2021年11月10日 13時42分

写真

“白衣の堕天使”の初公判を傍聴するために並ぶ人々 ©︎文藝春秋

《主文、被告人を無期懲役に処する》

 11月9日、横浜地裁で家令和典裁判長は“白衣の堕天使”に対してこう言い渡した。この判決に、現場では多くの司法記者が困惑したという。

「今回は“主文後回し”だったんです。主文には被告に対して下される刑罰が記されていて、通常の判決公判ではまず主文が読み上げられ、その後になぜその刑が下されるのかについての説明があります。ただ、重い刑罰が下されるときには、被告人が動揺してその後の話を聞けなくなってしまうからなどといった理由で、主文が後回しにされるんです。

 ですから主文後回しになった時点で、多くの裁判担当記者は死刑なんだと思ったはずです。そもそも検察からは死刑が求刑されていましたし、これまでの判例を考慮しても死刑判決が妥当です。だから《無期懲役》と聞いたときには慌ててしまい、判決を言い渡されたときの被告の様子を見逃してしまいましたよ……」(社会部司法記者)

 司法記者らを困惑させたのは、「大口病院点滴連続殺人事件」への判決だ。この事件については、文春オンラインもこれまで何度も報じてきた( #1 、 #2 、 #3 、 #4 、 #5 )が、今一度事件の概要を振り返ってみよう。

48人死亡 戦後事件史に残る重大事件

 2016年7月以降、横浜市神奈川区の旧大口病院の終末期フロアで2カ月あまりの期間に、48人もの患者が相次いで亡くなった。犯人として捜査線上に浮かんだのが元看護師である久保木愛弓被告(34)だ。捜査は難航したが、亡くなった入院患者のうち男女3人の点滴に消毒液を混入して中毒死させたとして、事件発覚から1年9カ月後に逮捕された。

 久保木被告は警察の取り調べに対し、「20人くらいやった」と供述しており、戦後の事件史に残る重大事件として、世間の注目を集めた。そして今年10月1日から、久保木被告の裁判員裁判が複数回にわたって開かれた。

 争点になったのは、「久保木被告の責任能力の程度」についてだ。

 検察側は犯行当時の久保木被告について、《完全責任能力はあった》と主張。《軽度の自閉スペクトラム症でうつ病ではあったが、犯行への影響は遠因にすぎず、犯行の意思決定及び実行の過程に精神障害が及ぼした影響は極めて小さい》として、《死亡した患者の遺族の対応をしたくない》という《身勝手極まりない動機に酌量の余地はない》と死刑を求刑した。

 一方の、弁護側は別の医師の鑑定を根拠に、被告人は《心神耗弱》であったと反論。《犯行当時は自閉スペクトラム症ではなく、統合失調症に罹患しており、前駆期の症状が犯行に影響を与え、動機を達成する手段として、目的に不釣り合いな死という結果をもたらす、殺害という手段を選択した点に統合失調症の症状が強く影響していた》として、《無期懲役》を求めていた。

久保木被告に“歩み寄っていく”判決文

「判決は、まず量刑の説明から始まったのですが、それぞれの主張に対して、検察に軍配が上がったんです。裁判官は《犯行手段を選択し、自身の犯行が発覚しないように注意して各犯行に及んでおり、自身の行為が違法なものであることを認識しつつ、合理的に各犯行に及んでいる》として、《自閉スペクトラム症の特性がありうつ状態であったことを精神の障害とみるとしても被告人の行動制御能力が著しく減退はしていなかった》と説明しました。

 これを聞いた司法記者の中には、慌てて法廷を出て本社に電話をし、『想定通り死刑になりそうです』と報告した人もいたようです」(別の司法担当記者)

 しかしながら、判決文は久保木被告に歩み寄っていった。

 自閉スペクトラム症の特性のある久保木被告については、《複数のことが同時に処理できない》《対人関係等の対応力に難がある》など《看護師に求められる資質に恵まれていなかった》。これを自覚していた久保木被告は、事件の起こる前年6月、母親に仕事を辞める相談をしたが《ボーナスが出るまでは続けたほうがよいのではないか》とアドバイスされ、辞める決断ができなかった。

 そのような中で、《一時的な不安(死亡した患者の遺族対応)軽減を求めて担当する患者を消し去るという短絡的な発想にいたり犯行を繰り返した》。《このような動機形成過程には被告人の努力ではいかんともしがたい事情が色濃く影響しており、被告人に酌むべき事情といえる》としたのだ。

“久保木寄り”の判決文に傍聴席は動揺

 判決文が久保木被告寄りになっていくにつれ、傍聴席にも動揺の空気が流れだした。そんななか、冒頭のように無期懲役の判決が下されたのだ。

「しかも裁判官は《被告人質問では償いの仕方がわからないと述べていた被告人が、最終陳述では「死んで償いたい」と述べ、前科前歴がなく更生の可能性も認められる》と指摘しました。だから《死刑を選択することには躊躇を感じざるを得ず、生涯をかけて自身の犯した罪の重さと向き合わせることにより、償いをさせるとともに、更生の道を歩ませるのが相当であると判断した》と。

 これではまるで、自分たちの裁判で久保木被告が更生への一歩を踏み出したからもう大丈夫、と言っているようです。正直、被告人質問から最終陳述のくだりは納得できません」(前出・社会部司法記者)

 この社会部司法記者は「争点となっていた完全責任能力を認められたのに、なぜ死刑にならなかったのでしょうか」と首を傾げる。

「“生きづらさ”を考慮しても死刑が妥当」

「死刑は一般的に2人以上を殺した上で、動機や被害者の遺族感情などさまざまな指標を元に判断します。最近では裁判員裁判の影響もあり、殺したのが1人でも死刑判決が出るケースも増えている印象です。

 久保木被告は判決で言われている通り、身勝手な動機で被害者に壮絶な死を強いたわけです。しかも本当の被害者は3人どころではないですからね。久保木被告のこれまでの“生きづらさ”を考慮しても、責任能力があると認定されれば、死刑が妥当であるように思います」

 これまでの公判を振り返ると、久保木被告の《対人関係等の対応力に難がある》とされる性質についての証言はいくつかあった。弁護側の情状証人として法廷に立った臨床心理士は、久保木被告の面談で聞き取った“孤独な少女時代”について証言している。

出会い系で男性と会って自尊心を満たした

 幼少期は母親に叱られることを恐れ、学生時代も仲のいい友人ができずに孤立していたという。看護師の専門学校に入ってからは、患者と上手くコミュニケーションが取れない、患者の状況に応じた観察記録が書けないなど、自閉症スペクトラムの性質ゆえの苦難があったようだ。

「病院に就職してからも現場で上手く対応できず、ストレスをためていたようです。それで寮の壁を蹴って穴をあけたりしていたと。印象的だったのは、出会い系サイトを利用していたことでしょうか。男性と会うと褒められるため、それで自尊心を満たしていたようです。ほかにも1人で声優のライブに行っていたこともあったようです。確かにそういったエピソードからは、久保木被告の孤独や困難が浮かび上がる面もあります。ただ、久保木被告が犯した罪を考えると、それで罪が軽くなるとは思えませんよ。

 無期懲役を言い渡された後、家令裁判長に『わかりましたか』と聞かれたときの久保木被告の『はい』という返事は、いつもボソボソ小さな声でしゃべる中でもっとも明るく、元気があったように感じたのは気のせいでしょうか……」(前出・社会部司法記者)

 想定外の極刑回避について、遺族も混乱している。亡くなった西川惣蔵さん(当時88)の遺族はこうコメントしている。

「3人を殺害したという事実や、完全な責任能力があることなどはすべて認められたのに、謝罪を述べたことや、公判の最後に死んで償うと述べたこと、被告人の経歴、性格などから無期懲役の選択がなされたという判断には納得がいきません」

 この事件に関してはまだ一審が終わったばかり。今後の展開に注目が集まる。

(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

ミッション中・・・

10秒滞在

記事を最後まで読む

ミッション中・・・

10秒滞在

記事を最後まで読む

10秒滞在

記事を最後まで読む

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください