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スラム化が促進するアパートの“空室”問題 それでも郊外のアパートが増え続けるのはなぜか

文春オンライン / 2021年11月30日 6時0分

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写真はイメージです ©️iStock.com

 2014年に私が拙著 「空き家問題」 (祥伝社新書)で警鐘を鳴らした、国内で増加を続ける空き家の問題は、多くのメディアで取り上げられ、社会問題として認知されるようになった。2015年には空き家対策特別措置法も立法化され、自治体などから特定空き家に認定された空き家に対しては、所有者の私権を一部制限して最終的には行政代執行によって問題となっている空き家の撤去を行うことまでができるようになった。不動産について私権がおそろしく強い日本で施行されたことは画期的ともいえるものだった。

現在も増え続けている空き家

 だが、その後も空き家の軒数は減少することなく現在も増え続け、2018年には全国で848万戸の空き家が存在し、総住宅数に占める割合は13.6%、つまり国内の住宅の7~8軒に1軒が空き家の状態になっている。

 空き家が増加する要因は、昭和から平成初期にかけては、地方から大都市圏への人口の流入によって、地方で空き家が急増したのが最初だった。平成以降は、人口が減少に向かい高齢化が進んだこと、大都市圏でも都心居住の動きが鮮明になったことから、大都市圏の郊外部でも空き家が増加し始めたことが空き家問題を複雑化し悩ましいものとしている。

 こうした人口動態やライフスタイルの変化が空き家問題をもたらしたことは確かだが、いっぽうで日本の空き家問題は、日本の住宅市場の構造的な問題を含んでいるものと理解しておいたほうがよい。構造的な問題とは、住宅市場において相変わらずたくさんの新築住宅が供給されていることである。2020年度の新設住宅着工戸数は81万2千戸。コロナ禍の影響もあって前年度よりも8.1%の減少となったものの、年間80万戸の大台を維持している。

 内訳は持ち家26万3千戸、貸家30万3千戸、分譲23万9千戸。分譲住宅の内の10万8千戸がマンションである。このうち着目すべきなのが、貸家である。ここで示す貸家とはその多くがいわゆるアパートである。アパートといえば、学生から単身者、あるいはカップルが住むケースが多いものと考えられるが、日本の全体人口に占める若年層の割合は縮小の一途をたどっている。にもかかわらず毎年、数多くのアパートが供給されているのが実態だ。

高齢の地主がアパートを建設する理由

 この背景には、高齢化した地主の相続対策がある。土地を多く所有している大都市圏郊外の地主や都市農家の多くが高齢化と事業承継の問題を抱えている。都市農家においては、農業をやめてしまうと農地は宅地として高額の固定資産税が課される。いっぽうで農家の息子や娘は、多くがサラリーマンになっていて農業を継ぐ意思はない。放置しておいて相続しようものなら多額の相続税が発生してしまう。彼らの多くは現金収入が豊かにあるわけではないため、金融資産は少ない。これでは税金を納めようがないのだ。

 ということでアパート建設によって節税をしてこの問題を回避しようということになる。相続の場合、土地は路線価評価、建物は固定資産税評価となることから、アパートを建設することで、相続評価額は時価よりもかなり低く評価される。さらにアパート建設に伴う借入金は、相続財産評価額から直接控除できるために相続税を圧縮する有効な手段となっているのである。

実需が欠落した発想

 この発想には実需という観点がものの見事に欠落している。投資をして賃貸用不動産を所有するということは、当然のことながらこれを運用していかなければならない。運用のノウハウもない多くの地主の不安に対して、アパート会社は賃料保証を謳い、アパート建設のメリットを強調してきたが、保証期間の短さ(約10年程度)、中途での保証料下げ、保証継続にあたってのリニューアル工事の自社への発注等の確約など過酷な条件が、一部で社会問題となっている。

 同じ地域、エリアにおいて複数のアパート会社の営業マンが複数の地主に対して同じような勧誘をする結果、短期間で多くの、同じような規格のアパートが建設される。そして、多くのニーズはなさそうな郊外エリアにアパートが林立することになる。あたりまえだが競合条件は厳しくなる。新築アパートが建ち上がると、既存のアパートの住民が引っこ抜かれて、既存アパートには空室が大量に発生する構造が全国のいたるところで生まれている。

空き家戸数の半数は、賃貸用の空き家

 こうした結果起こるのが貸家における空き家問題だ。848万戸の空き家のうち、賃貸用の空き家は432万戸と、空き家戸数の実に半数を占めるに至っている。節税が目的化して、需給バランスに目を向けない貸家建築は、日本の住宅事情を歪んだ構造にしているのである。

 相続における不動産の評価体系を改めないかぎり、目の前の対策で頭がいっぱいになった地主たちによるアパート建設は止まることがないであろう。アパート建設業者も、これまでの成功の方程式が通用する限りにおいては、どこまでもこの戦略を採用し続けるであろうことは想像に難くない。

需給バランスが崩れ、賃料の大幅な下落へ

 未来に待ち受けるのが、老朽化したアパートとアパート内での空き住戸問題である。新築アパートが供給されるいっぽうで、需要側である若年層の人口は今後さらに急減する。需給バランスが崩れることは、賃料の大幅な下落を意味する。空室率の上昇は、アパートのスラム化を促進する。空き住戸の多いアパートは住んでいても気持ちが悪く、治安も悪化する。住環境の悪化を嫌う住民は他の新しいアパートに移り、懐に余裕のない住民だけがアパートに残る。当然賃料の引き上げには応じる余裕はないし、その気もない。住民層も若年から、もはや世の中の動きから取り残された高齢貧困層などに替わっていくだろう。

 空き家問題の未来は、メディアが取り上げてきたボロボロになった一軒家やごみ屋敷状態の家の行方だけでない。撤去すればカタが付くだけの問題ではないのだ。これからの未来は、ひたすら作り続けている貸家=アパートがスカスカになっていく空きアパート問題なのである。

(牧野 知弘)

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