スポニチ発「日馬富士事件」仁義なき情報戦を読み解く

文春オンライン / 2017年11月24日 7時0分

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 超ド級の新聞読み比べ物件だった。「日馬富士、貴ノ岩に暴行」事件である。

 横綱(日馬富士)はどう償うか。相撲協会はどう対処するか。本来ならこれで終わる話だが、新聞読み比べという点では他にも読みごたえがあった。

“日々、情報戦がおこなわれていた”のである。

アイスピックを持っていた人物の食い違い

 例えば「アイスピック」について。まずスポーツ報知。

《日馬富士が暴行を加えた際、カラオケのマイクや端末機、灰皿まで振りかざしたが、アイスピックも含まれていたという証言がある。関係者によると、ビール瓶と素手で殴打した後も怒りは収まらず。側にあったアイスピックを持ったところで、同席者が慌てて止めに入ったという。》(11月16日)

 翌日の毎日新聞。

《関係者によれば「貴ノ岩がアイスピックで反撃しようとしたらしい」という情報もある。 》(11月17日)

 新聞によってアイスピックを持っていた人物がちがうのだ。

 つまり証言者が「たくさんいる」。互いの陣営に有利になるような情報戦がおこなわれていたと考えればわかりやすい(「ビール瓶」も同じ)。

貴乃花親方への強い視線

 情報戦というキーワードで今回の事件を振り返ると、第一報は11月14日のスポーツニッポン。1面で「ビール瓶で殴打 日馬 暴行疑惑 貴ノ岩頭蓋骨骨折」。ここからすべてが始まった。

 しかし日馬富士に向けられた視線が、翌日になると被害者の師匠である貴乃花親方にいく。とくにタブロイド紙や夕刊紙。

「貴親方 協会に反乱か」(夕刊フジ 11月15日)

「貴乃花親方の陰謀」(日刊ゲンダイ 11月15日)

「日馬暴行全容と貴親方の不可解」(東スポ 11月15日)

「夕刊フジ」「日刊ゲンダイ」「東スポ」はそろって貴乃花に焦点を変えた。事件発生直後に警察に被害届を提出していたが、後日の協会の事情聴取には「わからない」と答えた貴乃花。その謎について3紙とも「協会の現体制への不満」「来年の理事選を見据えての行動」という論旨だった。

「ある親方」が匂わせるもの

 3紙にはそれぞれ「ある親方」という人物がコメントしている。

《「普通、トラブルがあったら協会に説明するのが筋。それを貴乃花親方は自身が評論家を務めているスポーツ紙が報道するまで当たり障りのないことしか言わず、いきなり警察に被害届まで提出している。これに多くの親方衆が『順序が逆だろう!』と怒っている。》(日刊ゲンダイ 11月15日)

 記事中の「ある親方」は「第一報を報じたスポニチと貴乃花の関係」を行間で匂わせている。こんな騒ぎになったのは貴乃花側が関係の深いスポニチにリークしたからだと。

 しかし、逆から見ればこの「ある親方」は相撲協会側の人間だ。「スポニチ&貴乃花親方」が先行する情報戦に対し、他紙にコメントすることで協会が巻き返しを図っているとも読める。どちらもマスコミを通じて自分たちの正義をぶつけ合っているのだ。

 もし貴乃花親方が(報道の通りに)相撲協会に不信感があるなら、弟子が暴行された事実調査を協会に任せたくないのは予想できるし、協会で浮いているというのが本当ならマスコミに公表することで世間を味方にするしかない。対する協会は「そのやり方はおかしい」という情報を出し続けるしかない。これはやはり「戦い」なのである。

「診断書」に注目してわかったこと

 今回、私が注目したのは「診断書」だ。

 それは貴ノ岩ではなく、「加害者」日馬富士の診断書である。

 事件が報道された3日目から休場した日馬富士。私はてっきり事件の責任をとって休場したのだと思った。しかし休場理由は「怪我」なのだという。

「左上腕骨内側上果炎、左尺骨神経痛で約6週間の加療を要する」との診断書を提出した。

 約6週間の加療……?

 いっぽう貴ノ岩の診断書はどうだったか。

《貴ノ岩は秋巡業後の11月5日から9日まで福岡市内の病院に入院して、13日に日本相撲協会に診断書を提出した。病名は(1)脳しんとう(2)左前頭部裂傷(3)右外耳道炎(4)右中頭蓋底骨折、髄液漏の疑い。全治2週間程度で、状態が安定すれば、復帰が可能という。》(スポニチ 11月14日)

「ビール瓶で頭を殴られた貴ノ岩」は全治2週間で、当日の朝も稽古していた日馬富士は6週間の加療。「日馬富士はホントにそんな大怪我なの?」と思った。しかしすぐにハッとした。

 これは「診断書なんていくらでも大げさに書けるんだぞ」という日馬富士の捨て身のメッセージだったのではないか?

 そんな想像すらしてしまうほど、双方の出した診断書は不思議だった。

錯綜する「診断」

 貴ノ岩の診断書に関しては朝日新聞がそのあとスクープ。

「県警への診断書 骨折なし  貴ノ岩側 協会提出分と異なる 」(11月17日)

《大相撲の横綱日馬富士(33)が幕内貴ノ岩(27)に鳥取市内で暴行した問題で、貴ノ岩側が日本相撲協会と鳥取県警に提出した二つの診断書の内容が異なることが16日、関係者への取材でわかった。》

《協会への診断書は頭部の骨折などで全治2週間などと記されているが、県警への診断書の症状はこれより軽く、骨折は含まれていないことも明らかになった。》

 話を戻すと、日馬富士の暴行はアウトである。これは大前提。

 しかし「診断書」の攻防を見ても、今回は壮絶な情報戦であったことは間違いない。

 読み比べの甲斐があり過ぎたのである。

(プチ鹿島)

文春オンライン

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