過剰な「中国スゴイ」論に物申す スマホ決済、無人コンビニのトホホな現実

文春オンライン / 2017年12月12日 20時30分

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©安田峰俊

 近日、講談社『現代ビジネス』上で発表されて大いに話題となった藤田祥平さんのウェブ記事「 日本が中国に完敗した今、26歳の私が全てのオッサンに言いたいこと 」。この記事を肴に、中国ライターの安田峰俊と中国ITライターの山谷剛史が引き続き語る( 前編より続く )。

ネトゲ廃人に希望はあるのか

山谷 ところで藤田さんの記事には、深センのネトゲ廃人村「三和」の話が出てきます。これって明らかに、安田さんが今年の夏ごろに現地取材して、SAPIOとか文春オンラインでバリバリ書いていた内容の後追いだと思うんですが、ソースへの言及が全然ないですよね。藤田さんの独自取材みたいに読めてしまう。たとえばこういう部分です。

>たとえば私は、三和地区という深センのスラム街に分け入った。ネットカフェで3日間ゲームをやり、1日だけ肉体労働をして暮らす「廃人」たちに、取材をするためだ。

>その地区に降り立ったとき、「人力資源市場」という看板が掲げられた、薄汚い建物の前に労働者たちがたむろしており、陽によく焼けた肌を晒した筋骨隆々の男たちが、私にあきらかな敵意の視線を向けていた。そして、私は彼らに声をかけ、カメラを向けた。驚くべきことに、取材はうまくいった。

>それどころか、おもに農村出身の彼らが国の将来に希望を抱いていること、まじめに働けばひとかどの生活ができるようになると考えていること、ゲームやアニメといった日本の文化的コンテンツに尊敬の念を抱いていることが知れた。

>ただ、そもそもこんな突撃取材ができるのは、私が20代で、失うものが少ないからだ。もしも私に子供がいれば、あんな街に入る仕事など断っていた。

安田 ですね。僕が三和について過去に書いたのは、文春オンラインだと「 中国版の「ドヤ街」はネトゲ廃人の巣窟? 三和ゴッドの暮らしを追う 」、「 中国「ネトゲ廃人村」元住民が語る“本物のクズ”の生活 」、「 「ストレスはゼロだった」中国ネトゲ廃人の帝王が語る無責任生活 」の3本です。

 最近、当時取材して仲良くなったネトゲ廃人の一人から「日本でeゲームのコーチになって食っていきたいんだが仕事先を紹介してくれ」と微信で連絡がありましたが、「日本語できなきゃムリだろ」と返信しました。

山谷 実は僕も、安田さんの三和取材のときに途中まで一緒にいたわけです。僕らが会った農村出身の三和ゴッドって、希望にあふれていると思いました?

安田 希望ゼロですね。あと、彼らって子どもの頃に留守児童(両親が出稼ぎ者で故郷の親族に預けられて育った孤独な子ども)が多い。

山谷 そうでしたよね。僕の家がある雲南省や隣の貴州省の農村部でも留守児童問題は深刻ですよ。暖を取るために屋外のゴミ箱のなかに留守児童5人がみんなで入って寝て、一酸化炭素中毒で死んじゃったり。中国の社会問題の負の面が極まれりというか。

崩壊家庭で育ち、ネトゲや風俗に極端に依存する

安田 三和ゴッドは事実上の崩壊家庭で育った人が多くて、情緒的な面でのケアを受けたり悪いことを叱られたりせず、大人の人生のビジョンみたいなのをまったく見ずに育っているんですよ。だから、計画性を持つ習慣がなくて目の前の欲望に流されちゃって、ネトゲやバクチや風俗に極端に依存する。西村賢太さんの小説のサイバー版みたいな人たちです。

山谷 救いなかったですよねえ……。明らかに発達障害なんかを抱えていそうな人も多かったよなあ。弱者への適切なケアがない社会だからなあ。

安田 本人たちの深い事情を聞くほど、心のなかに虚無と絶望が伝わってきて重かったですよね。日本のニートやネトゲ廃人とは、また別のベクトルに突き抜けた闇があって。

独自取材を堂々とパクる「意識高い系」の人たち

山谷 安田さんは三和については、ああいう場所があることを最初に発見して、現場に突撃したパイオニアなわけじゃないですか。そもそも三和ってどうやって見つけたんですか。

安田 中国人の友人から噂を聞いたんですよ。そこで、三和の住民たちのたまり場である百度掲示板の借金コミュとか龍華新区コミュをあさってQQ(チャット番号)をさらしているヤツを見つけて、本人にQQでアポ取って現地で待ち合わせて話を聞いて。あと、そいつらからもっとヤバい友達を紹介してもらって、彼らの行きつけのネカフェや女遊びをする先を教えてもらってさらに聞き込んで……と。

山谷 藤田祥平さんの例の記事って、別の人がこうやって時間とコストをかけた記事を後からつまみ食いして、自分だけがすごいものを見つけたように書いているわけです。なのに「そもそもこんな突撃取材ができるのは、私が20代で、失うものが少ないからだ」みたいな書き方をされて、正直ムカつきませんでした?

安田 全然ムカついてないですよ。むしろ嬉しい。

山谷 アイドルのインタビューみたいな答えじゃなくて、本音を遠慮なくどうぞ。

安田 いや、カマトト抜きです。ああいうふうに書かれる気持ちはわかるんですよ。自分の話ですが、実は僕も書籍デビューするずっと前の2008年に、刊行3号で潰れた超マイナーな雑誌で中朝国境取材をやったことがあるんです。15日間の取材費として航空券代込みでたった8万円だけ渡されて、26歳で生まれて初めて海外取材をしたんですが。

山谷 そういや、僕も最初の記事を書いたのは26歳だ(笑)。

安田 で、当時の僕は中朝国境分野の第一人者のジャーナリストの石丸次郎さんの本をめっちゃ読んで、行き先もほとんどトレースしたんですけど、記事中では一切言及しなくてご本人にコメント取りにも行かなかったんですよね。今としては石丸さんにごめんなさいとしか言えないんですが。

山谷 それはひどいですね。僕はそういうのないなあ。誰もやってないことしか興味がないので。中国の山寨機(パチモノ携帯)とかウズベキスタンのIT事情とかそういうのしか。

安田 山谷さんは中国ジャーナリズムの極北点にいる奇人ですから……。ともかく当時の僕の心理としては、自分は経験値が足りなくてゼロから取材先を開拓するスキルはないんだけど、ずっと遠い先に先人がいるのは悔しくて、さんざん参考にしているのにその存在は認めたくない的な気持ちがあったんですよ。で、今回自分がいざ逆の立場になってですね。「俺、えらい出世したやんけ」と。正直めちゃくちゃ嬉しい。

山谷 そういう考えもあるんですか。僕は自分の書いた記事を、今回の安田さんの件みたいに中国に詳しくない人から堂々とパクられて「自分が最初に知った」「自分はこの分野に日本一詳しい」みたいにドヤ顔で紹介されることが多くて、そのたびに腹が立っているんですが。

安田 意識高い系のビジネスの人たちですね。微博(中国版ツイッター)が流行ったら微博の自称第一人者、タオバオ(EC)が流行ったらタオバオの自称第一人者、シェアエコが流行ったらシェアエコの自称第一人者……みたいな。で、山谷さんが2年くらい前に書いた記事をパクって講演や情報商材で●●万円儲けるような人たち(笑)。

山谷 ですよ。しかもただパクるだけじゃなくて、ご本人が独自に入れてみた情報が大間違いで、なのにその記事が広く読まれたりして。自分が最初に発掘したものを無に戻されて、クオリティの低いもので上書きされるのがすごく悔しいわけです。

ライター業界という「過疎の村の青年団」

安田 まあ、僕もそういう薄っぺらいビジネス系の人たちにカネ儲け目的でやられたら、ガチギレして木刀を片手に校舎裏へ呼び出しますよ。でも、若くてかつ同業者の人だったら別になあ……。

 いまって若いライターが少なくて、2002年デビューの山谷さんや2010年デビューの僕が、ずっと「若手」とか「新世代」扱いでしょう。なんだか業界全体が「50歳になっても最年少メンバー」という過疎の村の青年団みたいですし、未来のためには若い人を大事にしたほうがいいと思うんですよね。

山谷 それはわかりますが、藤田さんの当該の記事はひどい。先行業績のつまみ食いに加えて、事実関係は間違えているし、話の飛躍が多いし、ちょっとポエム感がありすぎるでしょう。商業ベースの報道記事で、正直あれは「ない」です。

安田 随筆として読めば「若い子が(多分はじめて)海外行った!」的なフレッシュ感が溢れている感じが、荒削りすぎる部分も含めて僕は好きですけどね。例えるなら、北方謙三さんから「ソープに行け」とアドバイスされた悩める青年が、お店に行った次の日から「女の本質はこれだった!」みたいに壮大な人生哲学を突然語りはじめる的なノリ。

山谷 あまずっぱすぎる。

安田 ちなみに僕も今年、はじめてアメリカに行ったんですけど、現地で超ウキウキだったんですよ。5日間ニューヨークにいただけ、しかも米国自然史博物館で恐竜化石を見た以外は、中国人としか会ってないんですが。それでも「アメリカの真実とは~」とか、実はすげえドヤ顔で文章をものしたい欲望を心のなかで押さえ込んでいる。

山谷 海外中二病だ(笑)。実際にやったら間違いなくアメリカ屋の人たちが激怒して大炎上ですよ。

顔認証の無人コンビニに並んでいる「きんくま」

安田 激怒と言えば、山谷さんは最近、いわゆる「中国スゴイ」論に怒っていますよね。

山谷 これも主語が大きすぎると思うんですよ。もちろんスマホ決済のニューエコノミーにはスゴイ部分もあるんですが、実際に現場を見ろ、全体を見ろよと言いたくなる。例えば、顔認証機能で盗難を防止してスマホでお金を支払う「無人コンビニ」は中国スゴイ論の根拠にされることがありますが、店舗のなかを見てみましょうよ。怪しいパクリ菓子みたいなダメ商品ばかりで、トータルで見れば中国がまだまだの国であることが可視化されています。

安田 話だけ聞くと超サイバーで近未来感にあふれているのに、実際に品揃えを見ると「きんくま」が売られていたりする。あと、中国イノベーションの代表選手みたいなシェアサイクルも、現場は薄給のおっさんがオート大八車みたいなのに自転車車両を乗せて、手作業で街に再配置するガチな肉体労働で支えられている。このトホホ感も含めてリアルの中国でしょう。

結論ありきの過剰な「日本下げ」

山谷 そうですよ。実際にいくつも街を歩いて真面目に観察して、それでも本気で「中国スゴイ」と屈託なく言い切れるのかと問いたい。あと、この手の主張は過剰に「日本下げ」になるのもイヤですね。最初に結論ありきで話してるのが。

安田 前にIT系の人とごはんを食べたときに「中国はコンビニでスマホ決済なのに日本はSuicaを使っていて遅れている」という話が出て、実態を説明したことがあります。中国のスマホ決済って送金機能やワリカン機能は本当にすごくて便利なんですが、実店舗での支払手段としては意外に不便ですからね。

山谷 ですよ。スマホのロックを解除してアプリを立ち上げてQRコードを読み込んで……と。それよりもSuicaのほうが「ピッ」で済むから楽じゃないですか。少なくとも実店舗での支払手段について、スマホ決済ができる中国は日本よりも進んでいるみたいな話をする人は、スマホ決済をほとんどやったことがないはずです。中国に行かなくても、日本で同じ決済方式のLINE Payを試せばわかることですよ。

安田 「中国スゴイ」論は、スゴイ部分とそうじゃない部分をしっかり見極めて述べたいところですね。個人的に中国のスゴイ部分だと思うのは、すっごい雑なサービスでもとりあえずローンチしちゃうスピード感とクソ度胸。あと、いけそうなサービスを見たら速攻で後追い参入するところです。おかげでシェア自転車もシェア充電器も、マンボウの出産みたいな多産多死状態になっているのですが。

山谷 ですね。なにより、中国にはそういう「マンボウの出産」に平気で投資しちゃうエンジェル投資家やベンチャーキャピタルや企業がゴロゴロいるのがスゴイ。投資というか投機というか、かなりギャンブルだと思いますけど。

安田 計算の仕方はいろいろあるみたいですが、ベンチャーファイナンスは中国が7兆円くらいの規模で、日本は二千億円足らずの規模……みたいな話もありますもんね。ちなみに、深センには国外企業も含めてこの手のファンドがめちゃくちゃいっぱい集まっていて、深センだけで日本の十数倍以上の投資資金が動いているはずです。この意味ではやっぱり「深センはスゴイ」のは確かかも。

山谷 ですね。逆に言うと、特殊地域である上海や深センだけをちょこっと見て「中国とは」って語る論は、やっぱり主語がでかすぎるんですよ。1000タイトル以上あるソフトから『たけしの挑戦状』だけプレイして「ファミコンは糞ハード」と判断するぐらい軽率です。

安田 うーむ、オッサン対談にふさわしい締めだ(笑)。さておき、ありがとうございました。

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山谷剛史(やまや・たけし)/1976年東京都生まれ。中国アジアITジャーナリスト。中国雲南省昆明を拠点に、アジア各国の現地一般市民の状況を解説するIT記事や経済記事やトレンド記事を配信。「山谷剛史の「アジアIT小話」」、「山谷剛史のマンスリーチャイナネット事件簿」、「中国ビジネス四方山話」、「山谷剛史の ニーハオ!中国デジモノ」などウェブ連載多数。著書に『中国のインターネット史』(星海社新書)、『新しい中国人』(ソフトバンククリエイティブ)など。講演もおこなう。

安田峰俊(やすだ・みねとし)/1982年滋賀県生まれ。ルポライター、多摩大学経営情報学部非常勤講師。中国の歴史や政治ネタからIT・経済・B級ニュースまでなんでもあつかう雑食系だが、本業はハードなノンフィクションのつもり。著書に『和僑』『境界の民』(KADOKAWA)、『野心 郭台銘伝』(プレジデント社)、編訳書に『「暗黒」中国からの脱出』(文春新書)など。

(安田 峰俊)

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