森 絵都さんが20歳の自分に読ませたい「わたしのベスト3」

文春オンライン / 2018年1月14日 11時0分

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©文藝春秋

 人生で一番本を読んでいた二十歳の頃、私が最も読まなかったのは恋愛物だった。人の恋愛なんて、とすかしていたわけだが、今にしてみれば人の恋愛からこそ学ぶべきだったのだ。渦中にいるときには見えないものも、他人の渦中を傍から見ている分にはとてもよく見える。

『ふたご』 は中学生の夏子が長きに亘って月島という男に振りまわされ続ける話だ。互いに対する感度が高すぎて、その刺激が危うさを喚んでしまう。惹かれ合うのに寄り添えない。そんな相手と若くして巡り会った幸と不幸がここにある。

 救われるのは、夏子が音楽を介して月島と歩む術を得たこと、そして月島に何をされても自己憐憫に浸らない強さを持っていることである。人は許し許されて生きているというのは幻想であって、往々にして、人は特定の誰かを一方的に許し続けたり、一方的に許され続けたりしながら生きている。許し続けなければならない相手と出会ってしまったら、それはもう、しょうがない。それを本能的に悟り、受け入れている節のある夏子は賢い女性だが、自らを誤魔化すことなく冷静に見つめるその眼差しが切なくもある。

『お菓子と麦酒』 は逆に自由奔放な女が男を振りまわす話で、角度次第でピュアなお人好しにも頭の悪い俗物にも見えるヒロイン、ロウジーの造形が秀逸。余裕ある大人の視線で綴られた軽妙な恋愛小説だが、一方で、この作品には作家という人種の業の深さ、いやらしさがこれでもかと(こちらが真のテーマではないかと疑うほどに)織りこまれている。あなたももうすぐこういう人たちの仲間入りをするんだよ、と二十歳の自分に教えてあげたい。

『狂うひと』 はとにかく凄味のある一冊で、決して許さない女と許されない男の果てしないバトルが、ただの浮気をエンターテイメントの域にまで押しあげている。巻きこまれた愛人が気の毒でならないが、若い人への警告の書としてはまさに最適。

◆ ◆ ◆

『ふたご』藤崎彩織/文藝春秋

『お菓子と麦酒』サマセット・モーム/角川文庫

『狂うひと』梯 久美子/新潮社

(森 絵都)

文春オンライン

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