松坂大輔のナゴヤ登板を、中日ファンはどう迎えるべきか

文春オンライン / 2018年3月18日 11時0分

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4月3~5日の巨人戦での公式戦デビューが予想される松坂大輔 ©文藝春秋

 こんなニュースが舞い込んできた。米国時間3月11日、場所はアリゾナ州ピオリア。その日、大リーグのマリナーズに約5年半ぶりに戻ってきた44歳のイチローは、復帰戦となるオープン戦に1番・左翼で出場した。

 1回、そのイチローが慣れ親しんだ背番号「51」で打席に立つと、スタンドのファンはスタンディングオベーションで迎えたという。ことわっておくが、まだ、オープン戦である。

「アメリカの文化に粋というものはあまりないけど、こういうのはそう。これはもう、人の思いに応えたいという気持ちが生まれますよね」

 イチローは感激してこう話したという。粋とは、江戸時代の美意識の一つとされる。「あの人は粋だねぇ」と言えば、身なりや振る舞いでそれほど自己主張しているわけでもないのに、洗練されていてかっこよさを感じる人を指す。光り物をやたら身に着けたり、誰かのマネをしたファッションをするでもなく、内面からにじみ出てくる美しさとでも言うのだろうか。

 いずれにせよイチローは、国としての歴史が浅く、何かにつけ大雑把で賑やかな人が多いように思う米国で、粋な文化と出会ったことがほとんどなかったのだろう。

 そんなアメリカの人たちが、たかがオープン戦にもかかわらず自らにスタンディングオベーションを送ってくれた。渡米18年目を迎えたイチローは、想定外の「粋」な祝福に面食らったのだ。

松坂大輔の中日デビュー戦での願い

 ここまで書けば分かってくれると思う。私が思い描いて理想とする松坂大輔のドラゴンズ公式戦デビューは4月3~5日の巨人戦で、松坂も「そこを目指している」と口にしている。チームにとって今季初となる本拠地ナゴヤドームでの3連戦。そのような晴れ舞台の先発マウンドに立ったとき、名古屋のファンには総立ちとなって松坂に拍手を送ってほしいのだ。

 僭越ながらこのようなお願いをするのには、松坂に対する贖罪と感謝の思いがある。

中日番記者が抱いた松坂大輔への贖罪と感謝

 1998年のドラフトで西武が日本ハム、横浜との競合の末に松坂を獲得した時、私は率直に言って松坂が中日に入団しなくて良かったと思った。

 その年の夏の甲子園で準々決勝のPL学園を相手に延長17回250球を投げ抜いた横浜高の松坂は、翌日の準決勝(対明徳義塾)にもリリーフ登板し、決勝では京都成章をノーヒットノーランに抑えて優勝した。明らかに肩を酷使している。中日ではかつて銚子商業で甲子園を制した土屋正勝投手が、入団後にひじや肩を故障し、プロ通算11年間で通算8勝しか挙げられなかった。そんな負の思いが頭に浮かび、松坂のプロでの活躍には疑問を抱いていた。

 ちなみにこの年のドラゴンズのドラフト1位は福留孝介、2位は岩瀬仁紀だった。松坂の指名回避は、それはそれで正解だった。

 ただ、プロ入り後の松坂は他球団のスカウトも不安視していた右肩限界説を一蹴した。1年目に16勝を挙げ、2年目14勝、3年目は近年のプロ野球ではあり得ない240回という投球回数を記録して15勝をマークする。松坂を見くびっていたことを恥じた私は、それからというもの、贖罪の意識を抱き続けている。

松坂への感謝の気持ち

 感謝の気持ちは、松坂が大リーグのレッドソックスに入団した2007年のことだった。東京中日スポーツの記者として渡米した私は、取材以外に託されたことがあった。東京新聞と東京中日スポーツが共催する学童軟式野球大会開会式のパフォーマンスで、松坂のサインボールをヘリコプターから投下したい。よって、そのためのサインボールを手に入れてほしいというものだった。

 当時の松坂は鳴り物入りで入団したためレッドソックスのガードは必要以上に固く、取材の約束を取り付けるのさえ困難だった。実際、新聞社の事業のためにサインボールを提供することにチームは懐疑的で、難航が予想された。ところが松坂の方から「子供たちのためなら喜んで」と言ってくれたことからレッドソックスも承諾し、晴れて私はミッションを完遂することができた。

 松坂大輔とは、このような男なのだ。野球を愛し、投げられる可能性がある限りは打者をねじ伏せることを追い続ける。

 私は名古屋に1985年から11年間住み、うち7年を中日スポーツのドラゴンズ担当記者としてすごした。その経験からいえば、名古屋に「粋」という文化はなかったように思う。他人と違ったことをするよりも、周囲との協調を重んじているように感じた。

 参勤交代でさまざまな地域の人が入り交じっていた江戸の町人文化と違うのは当然で、それはそれで素晴らしいことだ。

 ただ、そのような名古屋だからこそ、時には粋なサプライズで松坂を感激させてあげたい。名古屋を愛するドラゴンズファンの皆さん、そうは思いませんか?

(ヘンリー鈴木)

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