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「簡単に別れられちゃうのは悪いことじゃない」恋人同士のままで子供を持つ選択をしたコムアイ&太田光海が、日本で感じた“違和感”

文春オンライン / 2024年8月31日 11時0分

「簡単に別れられちゃうのは悪いことじゃない」恋人同士のままで子供を持つ選択をしたコムアイ&太田光海が、日本で感じた“違和感”

アーティストのコムアイと映像作家・文化人類学者の太田光海

〈 妊娠8ヶ月でペルーに渡り、アマゾンで出産…コムアイと太田光海が明かす、村での出産を決めた理由と“誹謗中傷”の真相「出産は、自分が動物になると…」 〉から続く

 アーティストのコムアイ(32)と映像作家・文化人類学者の太田光海(34)。

 2023年7月にアマゾンの村で出産をした彼らに、夫婦ではなく恋人同士で子供を迎えるスタイルを選んだ理由、育児の分担、日本で子育てするうえで感じた違和感などについて、話を聞いた。(全3回目の3回目/ 最初 から読む)

◆◆◆

恋人同士のままで子供を持つスタイルを選んだ理由

ーー先程、「恋人同士という形のままで子供を産みますみたいなことを話した時も、ちょびっと炎上したんです」とおっしゃっていましたが、おふたりが恋人同士のままで子供を持つスタイルを選んだ理由についてお話を聞かせてください。

太田光海(以下、太田) まず、僕の立場から話をすると、僕自身の親が事実婚で。正確に言うと「ペーパー離婚※」というやつなんですけど。ちゃんとした結婚式は挙げず、両親が音楽をやっていたから、友人を集めてライブ・パーティーみたいなもので祝ったそうなんです。だから、ウェディングドレスを着て式を挙げてとか、披露宴や二次会があって、といった発想のない家庭環境だったんですよ。

 そういう環境で育ったので、結婚にこだわりがなくて、社会で当然視されている結婚にまつわる文化や概念みたいなものにもともと違和感を抱いていて。

※実質的な夫婦関係を継続したまま書類上の離婚手続きを行うこと

ーー太田さんは海外で暮らしていたそうですが、その影響などは。

太田 ありますね。フランスとイギリスにそれぞれ4年ほど、高校時代にはオランダにも1年間住んでましたけど、特にフランスは婚外子などがまったく問題視されない社会でしたから。そもそも現地の僕ら世代の若者は「結婚とか、いちいちめんどくせえわ」みたいなムードもすごくあったので。

 そういうなかで20代を過ごした結果、結婚にこだわらなくていい恋愛や人間関係のあり方が、自分の中に染み込んでいたというのは間違いなくあります。

ーーコムアイさんは。

コムアイ 同性婚を認めていないこととか、どちらかが名字を変えないといけないとか、今の婚姻制度がとても古いものに感じるっていうのはあります。でもぶっちゃけると、すごいシンプルで。関係が破綻しているのに、結婚していることが歯止めになっているから別れないでいる人も結構いるじゃないですか。離婚に時間がかかったり、慰謝料の取り合いになっている話も聞くし。なんか、そういうのがめちゃ怖くて。籍を入れてなかったら、もっと簡単に別れられちゃう。それって悪いことじゃないなって。

 じゃあ、なんで私たちが一緒にいるのかというと、相手のことが好きだし、一緒にいたいから。それでしか成り立たないフラジャイルさ、脆さのほうが安心感がある。お互いに信頼を築けなかったらポロッと別れちゃう、いつでも別れられる設定にしておいたほうが、甘んじずに、私は相手を大切にできるかなと思って。離婚したくないからじゃなくて、一緒にいたいから、子供を一緒に育てたいから、という理由で向き合いたいなという気持ちです。

「夫として」「妻だから」とは言わない、言ってほしくない

太田 人間関係って、常に動いているものじゃないですか。僕が親友だって思ってる人でも、1年前はしょっちゅう会っていたけど、最近はちょっと会えてないとか、細かい動きがある。そうやって、離れたり、近づいたりするものなんですよね。

 でも、結婚となると「はい。あなたたちは、ここから先ずっと一緒だよね」という感じになってしまう。もちろん、離婚も別居もできますけど、いつまでも一緒でないといけないって考えが強いですよね。

ーー縛られる気がする?

太田 一言で言うと、結婚してしまうことで相手との間の日々の張り合いみたいなものが自分のなかになくなってしまうような気がするんです。僕は、今この瞬間に僕の人生を全力で投資してるんで。

 たとえば、いま家の外に出て車に轢かれて死んでも、「まぁ、いいか」と思える人生を送りたいんです。動き続けている現実の中で、自分は自分にきちんと向き合えているのか自問自答しながら生きていたい。それが僕が生きている実感が得られるためのひとつの基盤で、結婚することでそこに妥協が生まれてしまう気がするんですよ。

 縛られる気がすると訊ねられましたけど、そこに関して言うと、妻、夫という言霊の力がすごく強い。「夫として、より一層責任感を持って」みたいなことを言ったり、言われたりするじゃないですか。

ーー「らしさ」みたいな。

太田 そうです。僕は「夫として僕は」的なことはコムちゃんに言わないですし、コムちゃんにも「私はあなたの妻だから」とかあまり言ってほしくない。夫、妻というワードに蓄積された歴史みたいなものを自分の中に入れないことで、僕は自分の身体だけでいられる。そういう状態でも、子供のこともコムちゃんのことも大事に思ってるし。

ーーそうした関係のお2人が子供を持ったわけですが、お子さんの姓はどのように。

コムアイ 日本では、母親か父親のどっちかにするしかないですね。ペーパー離婚の場合は父親の姓を子供に付けることもできるけど、私たちみたいに籍を入れてない場合だと自動的に母親の姓になっちゃいます。

太田 僕は輿の名字がカッコいいと思っていて(笑)。

コムアイ たしかにカッコいいよね。でも電話で予約するときはいつも聞き返されるから、面倒くさいよ(笑)。 

コムアイ 光海君のご両親は事実婚だから、兄妹で名字が違うんです。

太田 そうなんです。ひとりずつ、親の名字を継いでいるので。そのせいで嫌な思いをしたことは子供時代から一度もないし、家族の繋がりにとってネガティブな影響があったこともないです。強いて言えば、携帯の「家族割」とかを申請するときに若干めんどくさかったとかくらい。

一緒にいる相手は恋をしてる相手

ーーお互いをパートナーみたいに捉えているところは?

太田 最近は便宜上、パートナーって言っちゃうことが多いし、僕自身も言うことがあるけど、実はパートナーという言葉は好きではないです。ビジネスパートナーとか、そういう文脈で使われる印象が強くて。

コムアイ たしかにドライな感じはする。

太田 コムちゃんは魅力ある一人の人間であり、恋している相手だからこそ一緒に居るわけで、それを「相方です」みたいなノリで回収したくないんですよね。

 そこもフランスに住んでいたことで多分影響を受けていて。フランスって、結婚しても夫婦ではなく、恋人としての関係を続ける人たちが多いんです。さっきも言いましたけど、婚外子も珍しくないものだと思われていますし。ほんと、恋愛感情がなくなったら、ササッと離婚する人が多い。「恋愛感情はないけど、結婚してるし、このままで」という人は、あまりいない。

 フランスにはPACSというパートナーシップ制度があって、結婚と同じような税制上のメリットも受けられるけど、離婚するときのお互いの同意の義務とかがなくて。しかも里親になることもできる。だから近年は結婚とPACSを選ぶ人の数が同じくらいになってるんです。そういうなかで20代前半を過ごしたこともあって、一緒にいる相手は恋してる相手としか考えられない。

家事分担は決めずに、効率悪くても一緒にやったりも

ーーお子さんが生まれて1年が経ちますが、育児は分担してやっていますか?

太田 「これはあなたの役割です」といったことは決めてないです。お互いの状況を見ながら、やれるほうがやってますね。

コムアイ そうだね。効率悪くても一緒にやったりもするしね。

太田 一緒に料理するとか買い物するとか。

コムアイ オムツ替えも2人でやったりとかして。

 どこかで力を抜ける人じゃないと子育ては大変だろうなと思いました。基本的には、可愛いと楽しいが爆発してて問題ないんですけど、とにかくずっと動き回っていて目を離すと物をぶちまけたりゴミとか虫を食べたりするので(笑)。

 だから楽しいを上回ってちょっとしんどいかも、ムカつきそうかも! ってなりそうな時は、だいぶ手前で放ったらかし始めます。そうしたら光海くんがスッと見ててくれるので。抱っこも常にしてもらってますしね。

太田 うちはベビーカーを持ってないので外では抱っこ紐を使ってるんですが、そのときの抱っこは90%僕ですね。仕事柄、機材とか重いものを運ぶのは得意な方なので(笑)。コムちゃんにはやっぱりおっぱいをあげるという大役があるし、それ以外の部分で僕が担えることは多めにやらないと、と思ってます。

コムアイ おっぱいあげ終わったら、はい! って渡してます(笑)。

 役割分担もしないし。不思議と、分担しなくてもどっちかがやるから今のところ問題ないです。「明日打ち合わせがあるんだけど、その間見ててくれる?」みたいな、ダブルブッキングにならないように話したりはします。

太田 お互いが異常に忙しくなって子育てに手が回らなくなるような仕事量が降ってくるってことは今のところはないですけど、もしそうなったとしても、自分たちが壊れないようにやり方を考えますし、「できません」って言うこともあると思います。

改めて、自分の親とは違う親になるんだな、と

ーーでも、そうしたスタンスで子育てができるのは、おふたりがフリーランスであるからですよね。

コムアイ そうなんですよ! ほんと、そう思います。

太田 だから、僕らみたいな働き方をしていない方たちは、得られる制度的メリットはすべて享受して当然だと思いますし、それを「周りに迷惑が掛かるから」みたいに気にすることなく享受できるような雰囲気にしていかないと。

コムアイ ドイツでは3年ぐらい育休があるらしいですが、日本も、せめて1年くらいは2人がかりでのんびり赤ちゃんと遊びながら過ごしても大丈夫なようになってほしいなって思いますけどね。双子だったら、親が3人必要なんじゃ?! と思いました。

ーー家族観や育児に対する考え方は、家庭環境が反映されていたりしますか。

コムアイ うちの実家はサラリーマンの家庭なので。両親はクラシックな結婚式を挙げてるし、父親は同じ会社に新卒から定年まで勤めて、母も専業主婦で。小さい頃は、「私もお嫁さんになるんだー」と思ってたと思います。でも、放任主義だったんですよね。とにかく、自由に生きなよって言ってくれたので、生き方も価値観も変えながらここまで来ちゃったんです。

 だけど、母親になるのはすごく怖かったです。うちの母はお母さんや主婦を楽しんでいたかもしれないけど、娘として「母になるということは、これだけのことを求められるのか」「母親って、こんなにいろいろ我慢しなきゃいけないの?」みたいなものをいっぱい目にしてきて。

 私は専業主婦になりたいタイプじゃないだろうと思いながらも、どこかで「母親になる=うちの母のように生きる」と考えているのが抜けなくて。でも今はそんなの吹っ飛びましたね。改めて、親とは違う親になるんだな、と。それを見つけていくのが楽しいです。

太田 コムちゃんをはじめ、ある種の旧来型でない発想を持っている女性たちは、日本社会で男性と恋愛関係になったりすると、まずゼロからその人を教育しないといけない状況に立たされちゃうことが多いと思うんですよ。「え、なんで夫婦別姓とか必要なの?」とか「夫婦って、子どもの世話って、普通こうじゃない?」みたいな男性や相手の家族に対して、無理解にさらされながらも少しずつ知識を伝えていかないといけない状況に立たされることが多いと思うんです。

 僕の母親はフェミニストで、「お母さんたちは自分の人生を生きるべきです」ってことを提唱する活動もしていて。そんな母親から、いうなればフェミニスト的男子教育を受けているので、そういう状況が生じにくいかなとは思います。子供の頃は家庭教育と社会の価値観の間のギャップに苦しんだ時期もありましたけど、今は自分のバックグラウンドに本当に感謝してますね。

東京では、人が人にやさしくできる余裕がなくて、傷付いている

ーーいまはブラジルにお住まいですけど、日本での子育てをしてみて大変だと感じることはありましたか。

コムアイ 児童手当とか医療費無料とか、お金のサポートは充実してきてるなと感じるけど、都心で暮らすと文化的にちょっとみたいなことはありますね。

太田 よく炎上するじゃないですか。「ベビーカーを押してたのに、エレベーターで誰も通してくれなかった」なんて投稿したら、逆に「調子に乗るな」とバッシングされたり。

コムアイ 「子持ち様」っていうのがトレンドに入ってて「怖っ」と思った。障がい者の人たちに対しても本当にひどい。

太田 「優先するな」っていうね。少子化で、子供の泣き声とか聞く機会もないし、子供がふざけるのを目にすることも少なくなって、子供に対して耐性のない社会だなというのは常々思います。

コムアイ 東京は、特にそれを感じる。人にやさしくできる余裕がなくて、傷付いているんだと。私もそういう時期あったし。

ーー子供も萎縮してしまいそうですよね。

太田 日本社会って、すごく強力だけど外の世界では通用しない倫理観がいっぱいあるじゃないですか。儀礼が細かくルール化されていて、圧もあるから、そこからはみ出すのが怖くなっちゃう。僕はそれが嫌で、自由に生きられる人間になりたいから、いろんな国に住んで、何言語も身につけて現地に溶け込みながら、いろんな倫理観を取り込んできたんです。

 アマゾンでは素っ裸の子供がギャーギャー走り回っていても「別にいいじゃん」って感じで。かといって、「表参道で立ちションしてもいいよ」と子供に言えるかと言ったらまた別の問題ですけど(笑)。僕らの子供は、どこの国に行っても特定の倫理観に押しつぶされないような力強さが備わってくれればなって。

コムアイ 周りを気にし過ぎるのは、ちょっとね。

太田 日本にずっと住んでたら、そうなっちゃうとは思うよ。

多様なことが当たり前の場所で子育てをしたい

ーーいずれは、日本で子育てを。

太田 いやあ……。

コムアイ 正直、今は考えてないです。あと学校に入ったりしたら、いろいろバレて「アマゾンで産まれた子でしょ」って噂されてしまうだろうし。だから、私の知名度が低いところで育てたほうがいいのかなって。

太田 そんなことでいじめとかが発生する構造自体、他の国にはないと思う。もちろん場所によるけど、日本ほど違いをあげつらうことはない。

 だって、母親がカメルーン人で父親がインド人で、国籍はフランスで、育ったのはアンティル諸島っていう「どんだけ大陸を移動してるの?」みたいな人が、世界にはわんさかいるんですよ。

コムアイ だから、多様なことが当たり前の場所で子育てするのが希望です。どうやって学費を稼ぐかはまだ何も考えてないですけど(笑)。

当然?奇跡?…出会うべくして出会ったふたり

ーー言い方が難しいですが、これまでの話を聞いていると、コムアイさんと太田さんは日本においてはアウトサイドな位置にいますよね。それを考えると、おふたりがめぐり逢ったのって当然だとも奇跡的だとも思います。

太田 あえて言うと、僕みたいな安定しない職業で、長髪、ひげで、海外を転々としちゃうような男性って、いわゆる結婚市場みたいな場所では非常に点数は低いんですよ(笑)。恋愛関係としてはいいけど、出産、子育てとなると、「考えられない」みたいな。

 自分のそういう立ち位置は自覚していたので、自分としては付き合っている人に「家族を持ちたい」的なことを言えるわけないと思っていたし、言わないようにしてたんですよ。でも、どこかに自分と同じような発想を持っていて、海外を転々とすることが好きで、安定にこだわらない女性がいたら一緒になればいいのかなという。そんな望みの薄い期待はあったけど、日本人とは無理かなって。

コムアイ そうしたら、日本にいました(笑)。

太田 そう、「いたやん」ってなって(笑)。

コムアイ 日本の固い考えからすると、できてないことが私たちにはいっぱいあるんですけど、「それがお互いに心地よかった」みたいに感じられる関係ですね。

写真=橋本篤/文藝春秋

(平田 裕介)

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