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アルバム『イマジン』レコーディングでジョン・レノンと連弾…知られざる天才スタジオ・ミュージシャンの“悲運の肖像”《映画『セッションマン:ニッキー・ホプキンズ ローリング・ストーンズに愛された男』》

文春オンライン / 2024年8月31日 6時0分

アルバム『イマジン』レコーディングでジョン・レノンと連弾…知られざる天才スタジオ・ミュージシャンの“悲運の肖像”《映画『セッションマン:ニッキー・ホプキンズ ローリング・ストーンズに愛された男』》

ニッキー・ホプキンズ ©THE SESSION MAN LIMITED 2024

 ザ・ローリング・ストーンズ、ザ・フー、ザ・キンクス、ジェフ・ベックをはじめとする60年代~70年代に数多くのアーティストのレコーディングに参加した伝説のセッション・ピアニスト、ニッキー・ホプキンズ。闘病生活を送りながら30年以上にわたり数々のミュージシャンと共演した“最高のセッション・マン”の物語に、生粋の洋楽ファンのジャーナリスト・相澤冬樹も感涙!

◆◆◆

 ストーンズに愛されたって? 彼らだけじゃないよ。ビートルズも、キンクスも、ザ・フーも、60年代ブリティッシュ・ロックのレジェンドたちから引く手あまただったんだ。セッション界の“グランド・スラム”と呼ばれたもんさ。あの持病さえなければなあ……。

ミック・ジャガーが仰天したピアノ

 ニッキー・ホプキンズ。バンドや歌手の求めでスタジオ録音に加わるセッション・ピアニスト。30年間で250枚以上のアルバムに参加した。ヒット・ナンバーは作詞作曲で完成ではない。ニッキーは曲に魔法をかける天才だった。彼のピアノがいかにずば抜けていたか、伝説のミュージシャンたちが熱く語っている。

 ザ・フーのギター、ピート・タウンシェンド。

「早業のブルーズ・ピアノがどこから来たのか、まったく謎だった」

 キンクスのギター、デイブ・デイヴィス。

「シンプルでベーシックだけど駆り立てられるような色気。ニッキーは邪魔にならずに要素を溶かし込む能力があった」

 だが何と言ってもここは、14枚のアルバムをともに作ったローリング・ストーンズだろう。ギターのキース・リチャーズとボーカルのミック・ジャガーは、初めてニッキーの演奏を観た時、驚いて互いに顔を見合わせたという。

「ピアノがとんでもなくて仰天したよ。白人の小柄な青年がミシシッピかシカゴの酒場にいるような演奏をするんだ」

「とてもメロディックなクラシック風のパートも、素晴らしいゴスペル風の演奏も得意で、ブルーズもうまかった」

 脱退した元ベースのビル・ワイマンの姿を見られるのもうれしい。

「ニッキーが突然リフを思いついたり、メロディラインを持ってきて曲が一変する」

 キースはニッキーとの関係について、曲の半分くらいを自分で作り、残り半分をニッキーが作ってくれたと明かしている。

「全体の中のどこにピアノの音を入れるか、彼は本能的にわかっていた。ニッキーは自分のすごさを自覚してなかったと思う。ちょうどいいタイミングの勘は完璧だった」

 ストーンズのピアノと言えば「6人目のストーンズ」と呼ばれたイアン“ステュ”スチュアートがいる。デビュー時に主に外見上の理由からプロデューサーの判断でメンバーから外れたが、その後もセッション・ピアニストとしてバンドを支えた。「ブルーズを弾かせれば右に出るものはいない」と評されたが、それ以外には興味を示さなかったという。そのステュとニッキーについてキースが語るシーンはストーンズファンには聴きどころだ。

「(ニッキーは)ステュの腕前どころか彼の夢すら超えるようになった。ステュは関心もないような曲だから『できるのはニッキー・ホプキンズだけ』と言ったんだろう」

ビートルズ4人全員のソロアルバムに参加

 映画にはニッキーの貴重な演奏シーンが散りばめられている。ジョン・レノンのアルバム『イマジン』の収録場面では、ジョンとニッキーが1台のピアノで連弾するお宝映像がちらりと映るので見逃せない。ニッキーは解散後のビートルズ4人全員のソロアルバムに招かれ、2度目のグランド・スラムと称された。セッション中心だから表舞台での演奏場面は限られるが、数少ない映像を補うのが彼をリスペクトするピアニストたちによる再現プレイだ。

 その代表がストーンズの『シーズ・ア・レインボー』。5色のiMacが踊るように動く1999年のテレビCMで使われた名曲だ。全編をニッキーのピアノが彩るが、中でもイントロが曲を引き立てる。セッション・ピアニストのパディ・ミルナーが「とてもエレガントで美しいピアノだ」と語りながらメロディを奏でる。瞬時にCMの映像と音楽が蘇る。ニッキーのプレイのどこが素晴らしいのか、随所でプロが実演を交えて解説してくれる。ビートルズの『レボリューション』でも、間奏でニッキーが聴かせるソロを再現。見事にキマっている。

 他にも思わぬところで懐かしのミュージシャンに出会える。ジョー・コッカー『ユー・アー・ソー・ビューティフル』でのニッキーについて「メロディのセンスが天才的なんだ」と語っているのはピーター・フランプトンではないか! 70年代に『ショー・ミー・ザ・ウェイ』が大ヒット。僕ら世代のロックファンにはおなじみだ。それにしてもずいぶん姿が変わったなあ。

 思わず「おお~っ」と声を上げたのは、アルバム『ジャミング・ウィズ・エドワード』が紹介された場面だ。エドワードはニッキーのあだ名。ストーンズの名盤『レット・イット・ブリード』を録音する際、キースがへそを曲げてスタジオを出ていってしまった。残されたメンバーが、スタジオにいたニッキーとライ・クーダーとともに行ったジャムセッションだ。遊び半分でユル~く演奏しているところがかえってレア感がある。ニッキーのピアノがミックのブルースハープと絶妙に絡み合い、高校生のころから大好きだった。でも、なぜニッキーのあだ名がエドワードなんだ? そこが謎だったが、理由を本人が語っている。バンド経験があればなるほどとうなずくだろう。貴重な“特ダネ”証言をぜひ映画で確認してほしい。

難病に制約されたアーティストとしての活躍

 ニッキーは音楽活動初期の若い頃からクローン病という持病に悩まされてきた。安倍元首相の潰瘍性大腸炎に似ているが、大腸だけでなく消化器全体に炎症が起きうる。原因不明で根本的な治療法がなく、消化器の一部を切除する手術を繰り返した。圧倒的な才能に恵まれながら、ソロアーティストとしての活躍は難病により制約された。縁の下の力持ちに徹していたが、日の当たる場面もあった。アート・ガーファンクルがロイヤル・アルバート・ホールで行ったコンサートで休憩に入る際、ピアノで参加していたニッキーをこんな具合に紹介したのだ。

「伝説のニッキー・ホプキンズが自作の曲を弾きます」

 そこで彼は『The Homecoming』という曲を披露した。アメリカから故郷イギリスに戻った際の喜びを表している。仲良しだったアートの厚意だったのだろう。

 1994年1月17日、ニッキーが滞在中のロサンゼルスを巨大地震が襲う。阪神・淡路大震災のちょうど1年前だ。相当なストレスだったに違いない。転居後、叫び声をあげるほどの耐え難い痛みの発作で救急搬送され、入院中にこの世を去る。享年50。

 ニッキーは生前、自分は“ショパンの生まれ変わり”だと周囲に語っていた。ショパンの曲をよく聴き、ピアノで弾いていた。

 目立ち過ぎずバンドによく馴染む天才セッション・ピアニスト、ニッキー・ホプキンズ。その才能を、共演した数多のロックスターたちの愛あふれる証言とともに味わう作品だ。

『セッションマン:ニッキー・ホプキンズ ローリング・ストーンズに愛された男』

監督・脚本・製作/マイケル・トゥーリン/2023年/イギリス/87分/配給:NEGA/©THE SESSION MAN LIMITED 2024/9月6日(金)より、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

(相澤 冬樹/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル)

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