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お化け屋敷でも痴漢にあっても「キャーッ」が言えない 30歳女性・中学校教諭の悩み

文春オンライン / 2024年9月23日 17時0分

お化け屋敷でも痴漢にあっても「キャーッ」が言えない 30歳女性・中学校教諭の悩み

中野信子さん ©文藝春秋

〈 バッグや傘、髪型を真似する不愉快な隣人… モヤモヤに中野信子が出した“答え”とは? 〉から続く

 みなさまのお悩みに、脳科学者の中野信子さんがお答えする連載「あなたのお悩み、脳が解決できるかも?」。今回は、「「キャーッ」が言えません」という難題に、中野さんが脳科学の観点から回答します。(全3回の2回目。 #1 、 #3 を読む)

◆ ◆ ◆

Q 「キャーッ」が言えません──30歳女性・中学校教諭からの相談

――私の悩みは悲鳴を上げられないことです。私は現在、中学校で音楽を教えています。先日、音楽室のピアノの鍵盤蓋を開けるとカマキリがいました。生徒たちが私を驚かそうとしたのです。ハッと息をのんだのに、周りの人の目には私が平然としているようにしか映らないようです。だから生徒たちはガックリしていました。生徒たちは何とか私にキャーッと言わせたくて、急に物陰から現れたり背後から押したりしますが、いつも私がスンッとしているので、そろそろ私を構うのをやめてしまうのではないかと思うと寂しいです。

 そもそも物心ついた時から悲鳴を上げた記憶がありません。お化け屋敷でも、電車で痴漢に遭ったときも声が出なかったです。これでは危険な目に遭っても人に伝えられません。私のようなSOSを発信する能力がない人間は生き延びることができないのではないか、いずれ淘汰されてしまうのではないかと心配です。

 私も「キャーッ」が言えないタイプです。ピアノにカマキリがいたら、愛らしいなと思う方かもしれません(理系あるある)。

 あなたは音楽教師でいらっしゃいますから、人間の声帯について解剖学的な勉強もされて、私たちはどのように発声するか、よくご存じだと思います。読者の皆さんのためにざっくり説明しますと、喉の奥の気管の入り口辺りに左右から突き出た1対のヒダがある。

 これが声帯です。声帯は呼吸をする際は開き、声を出す際は閉じて、そのすき間を空気が通ると声帯が震えて音が出る。声帯の閉じ方で振動数が変えられるので、いろいろな高さの音を出すことができます。この音を口腔内で共鳴させて、私たちは発声しているのです。

私たちは意外と声が出ないもの

 本当に驚いたとき、本当に助けが欲しいとき、私たちは意外と声が出ないものです。というのも、声帯が緊張して震えさせることもできず、さらには「息を呑む」というとおり、一瞬呼吸も止まります。呼吸が止まったら声帯に空気が通りませんから声を出すことはできません。

 極端な例をお話ししますが、溺れる人は声を上げられず、ただ静かに沈んでいきます。なぜなら、発声するための息を吸うこともできないからです。手を振って合図することも困難です。両手は、水をかくので精一杯になってしまうからです。助けを呼べないまま、水面を必死にかいて疲れ果て、やがて深部体温が奪われ、最後には力尽きて沈んでいくのです。溺れた時に採るべき行動は、人を呼ぼうとしたり、焦って水をかいたりすることではなく、静かに浮いて待つことです。けれども多くの人は冷静さを失い、自ら生き延びる道を絶ってしまうのです。

「音」や「声」はSOSを発信するツールではないのかも

 危険な目に遭ったとき、人にそれを伝えるのももちろん大事ですが、冷静に判断して落ち着いて振る舞うことが生き延びるための策としてはよい場合もあります。普段からキャーキャー言えないということであなたのご先祖さまは助かってきたのかもしれません。そもそも自分は声が出せないということを知っているだけでも、ほかに採るべき方法を冷静に考えられるでしょうし。

 また、あなたにとっては「音」や「声」は楽しむために発するものであって、SOSを発信するツールではないのかもしれません。「いずれ淘汰されてしまうのでは」と心配されていますが、あなたが今、生きていること自体が既に淘汰の結果なのです。数十万年に及ぶ人類史の勝利者として、もっと自信を持ってください。

text:Atsuko Komine

〈 「多様な価値を認める寛容な大人を演じていたつもりが…」武田真一(56)アナの“悩み” 〉へ続く

(中野 信子/週刊文春WOMAN 2024夏号)

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