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「狂人が正気に戻った」ケネディ大統領の妹や12歳少年の“人格を破壊”…悪魔の治療法「ロボトミー手術」を信じた“精神科医の末路”

文春オンライン / 2024年9月21日 17時0分

「狂人が正気に戻った」ケネディ大統領の妹や12歳少年の“人格を破壊”…悪魔の治療法「ロボトミー手術」を信じた“精神科医の末路”

ロボトミー手術に固執し続けた、精神科医ウォルター・フリーマン(画像:『マッドサイエンティスト図鑑』(彩図社)より)

〈 【史上最悪のノーベル賞】患者の脳にアイスピックを突き刺す“治療法”に固執し続けた「悪魔の精神科医」の正体 〉から続く

 人格を破壊された患者の中には、ケネディ大統領の妹や12歳少年も…。精神疾患の患者の脳の一部を切る外科手術「ロボトミー」に心酔した、アメリカの精神科医ウォルター・フリーマン。3500回近い手術を行った悪魔の医師は、ロボトミー手術が禁止されてからどんな人生を生きたのか? フリーライターの沢辺有司氏の新刊 『マッドサイエンティスト図鑑』 (彩図社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/ 最初 から読む)

◆◆◆

犯罪者の矯正手段に悪用される

 ところが、巷ではロボトミーの重篤な副作用の問題が徐々に顕在化しはじめていた。

 治療を受けた患者のなかには、落ち着きを取り戻すのとひきかえに、豊かな感情や物事をやり遂げようとする意欲を失い、虚な目で廃人のようになる人が少なくなかったのである。フリーマンは、「狂人が正気に戻った」と治療の成功を強調したが、脳を切って取り返しのつかないことになったと後悔する患者やその家族があらわれた。

 のちに大統領となるジョン・F・ケネディの妹、ローズマリー・ケネディもそのひとりだ。

 彼女は23歳のときに強制的にロボトミー手術を受けさせられてから、人格が破壊され、重い後遺症を患っていた。亡くなるまで60年あまり、養護施設に隔離され、家族とも引き離されていた。

 さらにロボトミーにとって打撃となったのは、画期的な治療薬が登場したことである。それが1954年にアメリカで認可された、抗精神病薬のクロルプロマジンだ。この薬は、統合失調症などの症状に対してロボトミー以上の効果があるといわれた。ロボトミーの副作用を問題視していた医師の多くは、これ以降、急速に薬物治療へと移行していく。

 焦ったフリーマンは、新たなニーズの掘り起こしをはかった。それまでは症状が重篤な患者への最後の手段としていたものを、初期段階の治療にも有効であると拡大解釈したのだ。

 ロボトミーの患者のなかには、子どももいた。暴力的な振る舞いをするという12歳の少年を手術したこともある。彼はその後も生き続けたが、なにをするにも意欲がなくなってしまったという。ただの思春期の少年が、彼を嫌っていた義母の依頼によって脳を切られてしまったのである。

 一方、ロボトミーは矯正手段としても利用された。一部の州の精神科病院では、犯罪者や同性愛者にロボトミーが施されていた。これはフリーマンでさえ把握していなかったことだ。そうした実態を描いたのが、1962年のケン・キージーの小説『カッコーの巣の上で』である。同書はベストセラーとなり、のちにジャック・ニコルソン主演で映画化もされている。

 あらゆる問題が噴出したロボトミー手術は、多くの病院で禁止されていった。最後まで手術を許可していたカリフォルニア州バークレー市のヘリック記念病院も、1967年、ロボトミーを受けた患者が死亡したことをうけ、許可を取り消し、全米からロボトミー手術はなくなった。

 その翌年、フリーマンはふたたび全米をめぐる旅に出た。ロボトミーを行った患者を訪ね歩くためだ。フリーマンは生涯に3500回近くのロボトミー手術を行っているが、この旅で、600人の患者の消息を確認。そのうち3分の1以上の230人が退院していて、142人が入院中、235人がすでに亡くなっていた。彼はこの調査を論文にまとめ、さいごまでロボトミーの成果を世に訴えようとしていた。そして、その4年後に76歳で亡くなった。

史上最悪のノーベル賞

 ロボトミー手術は、日本も含め世界中で実施されていたが、非人道性が強く批判され、もはや実施されていない。ちなみに、モニスのノーベル賞は「史上最悪のノーベル賞」といわれていて、ロボトミー手術の被害者団体は授賞を抹消するよう何度も働きかけている。

(沢辺 有司/Webオリジナル(外部転載))

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