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「あのシーンは吉高さんも柄本さんもホントに疲れたと思う」大石静が明かす“『光る君へ』を辞退しよう”と思ったとき

文春オンライン / 2024年9月22日 11時0分

「あのシーンは吉高さんも柄本さんもホントに疲れたと思う」大石静が明かす“『光る君へ』を辞退しよう”と思ったとき

吉高由里子演じるまひろ(紫式部) ©NHK

およそ千年前に生まれた『源氏物語』。作者のまひろ(紫式部)と藤原道長のソウルメイトとしての関係、そして平安文化や権力闘争を描いた大河ドラマが大石静さんの『光る君へ』だ。同作の執筆、そして45年連れ添った夫との別れについて“連ドラの申し子”大石さんが語ったインタビューの一部を『 週刊文春WOMAN2024秋号 』より抜粋して紹介します。

――大河ドラマ『光る君へ』の第31回で、ついに『源氏物語』が誕生しましたね。まひろ(吉高由里子/紫式部)の中に物語が降りてきた瞬間を「色紙がはらはらと舞い降りてくる」という演出で表現されていたのが印象的でした。

大石 あれはチーフ演出の中島由貴さんのイメージです。彼女らしさがよく出ていたのではないでしょうか。私が脚本のアイデアを思いつくときは、上から降ってくるというよりも下からポコッ、ポコッと湧いてくる感覚です。

 でも、『ふたりっ子』(96〜97年)や『セカンドバージン』(10年)を書いていたときなど、ごくたまに「天から命じられて書かされている」と感じることがあって、そのときは上からパワーをもらっている感じがしました。『光る君へ』は、今のところまだ天から命じられている感じはないですが。
 

――自宅で『源氏物語』を書いているまひろの隣で、書き上がった原稿を藤原道長(柄本佑)が柱にもたれて読んでいるシーンは、二人の位置も完璧で美しかったです。

大石 道長が敏腕編集者みたいでした。あのシーンの撮影は吉高さんも柄本さんも、微妙な所を表現しないとならないので、ホントに疲れたと思います。

 物語を生み出すシーンというのは、観念的なものじゃないですか。動きもあまりないし、登場人物も二人だけだし、「視聴者の皆さんが退屈してしまったらどうしよう」と不安でしたが、私も監督も演じた二人も、渾身の力を振り絞ったと思います。私達の想いが視聴者の皆さんに伝わったならうれしいです。
 

――まひろが『源氏物語』を「私のために書いている」というセリフにもグッときました。

大石 人生は自分のためにあるものですからね。「ついでに人の役に立てばラッキー」なのだと思います。どんなことでも「己がためが人のため」だということに、意外と気づいてない人が多いんだなと思います。

『源氏物語』は、「紫式部が夫を亡くしたあとの寂しさを埋めるために書いた」という説を唱える研究者も多いのですけど、今回、時代考証を担当されている歴史学者の倉本一宏先生は「道長のバックアップなくしては、こんな膨大な物語は書けなかった」とおっしゃいました。当時、紙は究極の贅沢品で、上質な紙を大量に手に入れることは、貧しい下級貴族には絶対に不可能なことでした。高級な紙を大量に提供できるのは道長しか考えられないのです。

ガチガチの一夫一婦制は日本の風土にあまり合っていない

――『光る君へ』の中で、大石さんが最も平安時代的だなと感じるカップルは?

大石 まひろの弟・惟規(のぶのり)(高杉真宙)の乳母だったいと(信川清順)と、その恋人の福丸(ふくまる)(勢登健雄)です。いとは、まひろの父・為時とも男女の関係があったのですが、為時が越前に行っている間に、福丸とくっついて、為時が帰ってきても別れないのです。為時もそれを許していますし、福丸には他にも妻がいて、そちらと掛け持ちなのですよ。千年前だな~、本当にプリミティブだな~と思いませんか? 実に根源的でパワフルでステキです。

――「姫様を守るために独身でいる」と言っていた従者の乙丸も、越前から彼女のきぬ(蔵下穂波)を連れて帰ってきて、急に家族が増えましたよね。

大石 平安時代は、そういう欲望をみんなが普通に認め合っている世の中だったのでしょう。本来人間はそういう動物なんじゃないでしょうか。現代だって研究によれば男女の仲は4年が限界だと聞いたことがあります。人としての興味も性への興味も4年。4年周期で相手を替えていくのが一番健康的で生き生きと暮らせるそうですよ。

 人間はそういう生き物なのに、明治政府が国民を管理するためにキリスト教的一夫一婦制を採用し、配偶者以外によそ見することが、ものすごい罪悪になってきました。

 個人的には、ガチガチの一夫一婦制は日本の風土にあまり合っていないと思います。しかも『週刊文春』が不倫を暴き始めてから、恐ろしい時代になりました。まあ『週刊文春』が暴くのは勝手だとしても、その後のキャンセルカルチャーはどうなのでしょうか。文春に乗せられる人々にこそ問題があると思います。ちょっと婚外の恋をしただけで、生涯をかけた仕事を失わせるようなやり方は、おかしくないですか。

 本当は、平安時代のような性的に奔放な生き方を人間のDNAは望んでいるはずです。今はそれを封印しているから、「こっちが我慢しているのにいい思いしやがって」と、ヒステリックに不倫を叩く人が増えているのかもしれません。「もっとみんな自分を解放しておおらかになればいいのに」と『光る君へ』の脚本を書きながら、時々思うんですよね。

平安時代の陰陽道は最先端の科学

――『光る君へ』には、安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)が予言や雨乞いをしたり、甥の伊周(これちか)(三浦翔平)が道長を呪詛するシーンなども出てきますね。

大石 これも倉本先生の教えなのですが、平安時代の陰陽道や祈祷って、今の気象予報士に近いというか、当時としては最先端の科学だったそうです。今見ると「占いでしょ」となりますけど、祈祷も病気を治すための科学だと思ってやっていたと思うんです。

 とはいえ、私自身も誰かが死ぬ場面を書くときはお線香を焚きますし、邪気を感じたときは粗塩とお酒を入れた湯船に浸かったりするタイプで、不思議な力を持つ人にも何人か会っています。

 とくに衝撃的だったのは、20代の頃、タップダンスを習っていた先生。レッスンのあと先生が「大きな火事と飛行機事故がある」と呟いた翌日、赤坂のホテルニュージャパンで大火災があり、その翌日、羽田沖で日航機墜落事故が起きたんです。

 40代の頃に会った台湾の占い師もすごかった。霊感を研ぎ澄ますために自ら目を潰しちゃったという人で、先生の前に座った瞬間、カタコトの日本語で「アナタの夫は肺の病気」と言われたんです。その後すぐ夫は肺炎で死にそうになって……。そのときの肺炎は治ったのですが、のちに夫は肺がんで死にました。

 2022年の秋、『光る君へ』の脚本の第2回を書いている頃に余命宣告をされました。最初は介護しながら書こうと思ったのですが、死にゆく人の傍ではどうしても書けなくて、仕事がストップしてしまいました。

「夫の命が来年3月まで持つようなら、大河の仕事を辞退してほかの人に託そう。私が一人で最後まで書くなら、そのデッドラインは年内12月までだ」と思っていたら、夫はそれがわかったのか12月に逝きました。私に大河を書かせるために早く逝ったんだと思います。

――大石さんが舞台女優をされていた20代の頃に、8歳上の舞台監督と結婚されたんでしたよね。

大石 はい、甲状腺のがんの手術をしたばかりで病弱だった私と結婚して、「家のことはやらなくていいから、自分の好きな仕事をやりなさい」と、背中を押してくれた夫には恩義があり、「あなたの最期は私が最善のプロデュースで看取る」と以前から言っていたのですが、その約束は果たしました。

 夫婦として添い遂げたって感覚を持ちましたね。色々あったけど45年も共に暮らし、相性はよかったように思います。夫婦には、片一方が必ず先に逝くという宿命があります。人生とは苛酷な修行の場だなと、しみじみ思いました。

●藤原道長のお墓を訪ね「この脚本はやるべき仕事なんだ」と感じ、体がヒュッとなったというエピソードや、かつてのオーディションで見た佐々木蔵之介さんの背中、源氏物語のテーマである“密通”についてなど、インタビュー「大石静は“誰がため”に『光る君へ』を書いたのか」の全文は『 週刊文春WOMAN2024秋号 』でお読みいただけます。

(大石 静/週刊文春WOMAN 2024秋号)

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