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「松本さんと僕にしか分からない」朝ドラ主題歌、ツアーメンバーの一新…60歳になったB'z稲葉浩志が抱いた“危機感”とは?

文春オンライン / 2024年9月23日 6時0分

「松本さんと僕にしか分からない」朝ドラ主題歌、ツアーメンバーの一新…60歳になったB'z稲葉浩志が抱いた“危機感”とは?

岡山県津山市出身の稲葉浩志 ©時事通信社

 来週月曜、9月30日からスタートするNHKの連続テレビ小説『おむすび』では、主題歌にB'zの書き下ろしの新曲「イルミネーション」が使われる。

『おむすび』は橋本環奈演じる平成元年生まれのヒロインによる“平成青春グラフィティ”になるという。B'zは昭和の終わりの1988年に松本孝弘と稲葉浩志(こうし)によって結成され、平成に入るとヒット曲を連発し、CD総売上は現在までに約8300万枚を超えてぶっちぎりの日本一である。CDがもっとも売れた時代である平成を象徴するアーティストとして、今回のドラマへの起用はまさにふさわしい。

還暦を迎えたボーカル・稲葉浩志

 そのB'zで作詞とボーカルを担当する稲葉浩志は、きょう9月23日、60歳の誕生日を迎えた。稲葉はB'zの活動の一方で、1997年の『マグマ』以来、ソロアルバムも折に触れて発表し続けてきた。今年6月には10年ぶり、6枚目となるソロアルバム『只者』をリリースし、これに合わせて全国ツアーも行った。今回のツアー中の先月13・14日には、自身の故郷である岡山県津山市でもソロでは初めてライブを開催し(B'zでは7年前に行っている)、2日間で全国から約1万6600人と会場の津山文化センターの座席数を大幅に超えるファンが現地に詰めかけ、会場周辺でイベントを楽しんだという。

 最新のソロアルバムのタイトルとなった「只者」は通常「只者ではない」という具合に打ち消しの語をともなって使われるが、それをあえて単一でタイトルにしたのがキモである。稲葉がこれを思いついたのは、昨年、デビュー以来の代表的な詞をまとめた『稲葉浩志作品集「シアン」SINGLE & SOLO SELECTION』(KADOKAWA、2023年)に収録するインタビューで自分のことを振り返るうち、次のようなことに気づいたからだという。

アーティストとしての普通さにコンプレックスがあった

《僕は自分の、いわゆるアーティストとしての普通さにすごくコンプレックスがあったんですけど、そうやって喋ってるうちに、どこをひっくり返しても普通なんだってことを再認識したんです。そしてもう逆に、それでいいなって今さらながら強く思うようになったんです。(中略)そしたら、僕、タイトルを考えるのにいつも四苦八苦するんですけど、でも今回は〈只者が作った曲を集めました……みたいな感じでいいじゃん〉って、思いついちゃったから提案したんです》(『音楽と人』2024年7月号)

 奇をてらったわけではなく、本当に自分を普通だと思っているところに稲葉浩志という人の実直さがうかがえる。そもそも稲葉は自らの意志で作詞を始めたわけではない。B'zの結成に際し、ギタリストでありプロデューサーである相方の松本から任されたのだ。

つらくてどこかに逃げようと思った初期の出来事

 日本のロック史をひもとけば、はっぴいえんどの松本隆やサザンオールスターズの桑田佳祐など、豊富な読書体験や独特の言語センスを持った人たちが日本語によるロックを開拓していった。しかし、稲葉には先人たちのような素養が初めからあったわけではない。子供の頃は、学校の国語は苦手だったし、小説も最後まで読めたためしがなかったという(前掲、『シアン』)。

 それだけに最初は苦労した。1stアルバム『B'z』(1988年)のときはわりと自分の好きに書けたが、2枚目の『OFF THE LOCK』(1989年)ではディレクターをはじめスタッフたちからダメ出しを繰り返され、つらくてどこかに逃げようかと思ったほどだという。そこでしつこく問われたのは、歌詞のディテールだった。詞に出てくる人物についても「独身なの?」などと細かく訊かれたという。それもあとから考えれば、ディテールを書かずとも、最小限の言葉の組み合わせで一つの文と同じぐらいの内容を想像させる歌詞を書くための訓練だったとわかる。

 このあと稲葉は、3rdシングル「LADY-GO-ROUND」(1990年)で「こひしかるべき」などと和歌に使われた古語を採り入れ、独自のスタイルにたどり着く。本人によれば、これはTUBEの前田亘輝がかつて四字熟語だけで曲をつくったことからヒントを得たという(佐伯明『B'zグローリークロニクル 1988-2013』エムオン・エンタテインメント、2013年)。そうした着想も、ディテールについてしつこく問いただされる経験がなければ得られなかったに違いない。

ロックサウンドに「小市民的な言葉」を乗せて

 ハードロックに古風な言葉を乗せる試みは、同じく1990年の5thシングル「太陽のKomachi Angel」につながり、B'zのブレイクの端緒となった。同曲では稲葉が「Komachi」に続けて叫ぶ「エーンジェール」のフレーズが強烈に耳に残るが、その後もB'zのヒット曲のタイトルや詞には「ギリギリchop」(1999年)や「ultra soul」(2001年)など、言葉の組み合わせの妙というべきものが目立つ。

 エッセイストの阿川佐和子は稲葉との対談(『週刊文春』2004年9月9日号)で、《稲葉さんの詞は素直。「さよならなんてすぐに言わないで、さよならしたら僕はどうなるだろう」なんてロックにはなかったでしょ(笑)。その辺が聴いてる人がグッとくるんじゃないかと》と評した。これを受けて稲葉は、《ロックの持つダイナミックなサウンドに、僕の小市民的な言葉が乗っちゃったから新鮮だったんじゃないですか》と返している。

 阿川がここで引用したのはB'zの「HOME」(1998年)の歌詞だが、同曲も含めて稲葉の詞には、女性が去っていくシチュエーションが多く、逆に主人公が去っていくパターンはあまりない。その理由を前掲の作品集『シアン』のインタビューで訊かれた彼の答えは、《たぶん、自分が去っていく歌を歌うと嫌われるんじゃないかなと思ったんです(笑)》、《当時はファンの人に女性が多かったこともありますし、強い曲調に強い言葉で相手に『さよなら』を言ってしまうと、ファンの人に向けて歌うのはどうかという気がして(笑)》と、これまた素直すぎるものであった。

 作詞も続けていくうち苦痛ではなくなった。いまや《ときによっては、作詞がガス抜きになることもあるし、歌うかどうかを別にして、何かを文字にしてみるだけでストレスがなくなることもあるし、歌詞を書く作業に助けられていますね》と語るほどだ(『anan』2024年7月24日号)。

横浜国立大学に在学中、教育実習に行ったものの…

 稲葉は高校を卒業するとき、教師から「おまえは流れやすい性格だから気をつけろ」と忠告されたという。実際、教職を取ろうと横浜国立大学の教育学部に入ったにもかかわらず、結果的に音楽の道に進んだので、その忠告は《あながち間違ってなかったかもしれない(笑)》と本人も半ば認めている(『週刊文春』前掲号)。大学時代には教育実習でまず小学校に行き、子供たちと一緒にいるのは面白かったものの、職員室ではすごく嫌な雰囲気を感じたという。さらにその後行った中学校でオリエンテーションが終わると校長室へ呼ばれ、稲葉が髪を伸ばしていたのを「それ何とかならないですかね」と言われた。これに反発した彼は結局、教師になるのをやめてしまったのである。

 大学卒業後は家庭教師などのバイトをしながら、いくつかのバンドを掛け持ちしていたほか、音楽制作会社のビーイングが運営するボーカルスクールに通い、ときどきレコーディングのためコーラスで呼ばれたりもしたという。しかし、歌うのは好きだったものの、将来に向けて明確なビジョンが描けずにいた。そこへ声をかけてくれたのが、すでにビーイングに所属していた松本孝弘だった。

ボーカリストを探していた松本が、稲葉を見て即決

 松本はもともと、ギタリストとしてTM NETWORKをはじめ多くのアーティストのスタジオワークやツアーサポートなどの活動をしていたが、このころには、自らの音楽を表現できるバンドをつくろうと構想していた。そこで、バンドのフロントマンとなるボーカリストを探していたところ、稲葉がビーイングに預けていたデモテープ(ビリー・ジョエルの「オネスティ」などを歌ったという)を聴き、写真を見て即決したという。

 こうして1988年4月に松本は稲葉と初めて会うと、数日後にはスタジオに二人で入ってデモテープをつくり始めた。それからまもなくしてレコード会社から声がかかり、9月には最初のシングル「だからその手を離して」と前出のアルバム『B'z』をリリースしてデビューを果たす。稲葉からすると、すぐにデビューが決まり、うれしいとか《そういう感情を持つ間もなく、流されてました(笑)》という(『週刊文春』前掲号)。

松本のビジョンについていくのに必死だった

 松本のビジョンははっきりしており、オリジナルの曲だけで90分以上ステージをこなせるよう、ライブはアルバムを少なくとも2枚出すまではやらないと決めていた。実際、ライブ活動を始動させたのはデビューの翌年、1989年5月に前出の2ndアルバム『OFF THE LOCK』を出してからだった。現在も作品づくりと並んでB'zの活動の柱である「LIVE-GYM」と称するライブは、このとき東京・名古屋・大阪で初めて開催された。

 B'zのステージデビュー自体はその少し前、三重県の合歓の郷(ねむのさと)で開催されたTM NETWORKのイベントだった。そこでB'zは5000人ほどの観客を前にオープニングアクトを任された。松本は後年、このときを振り返って、《横で僕はギター弾きながら稲葉を見てて、“これは絶対にいけるな”と思いましたよ。TMのクルーの人たちも“すごく良かった”って言ってくれたし》と、手応えを感じたことを明かしている(『月刊カドカワ』1998年1月号)。

 当の稲葉は、松本のビジョンについていくのに必死だったようだ。のちに振り返っていわく《それは僕にしかわからない辛さだったかもしれないですね。逆にビジョンを持ってるほうは、それがわかってもらえないもどかしさみたいな辛さがあったかもしれないけど》(『週刊文春』前掲号)。

二人が衝突しない理由

 それでも二人が衝突することはいままでなかったらしい。《僕たちは、他の人となら衝突することも提案としてやっているのかなと思う。ぶつかり合うというより、こういう感じなんですよね(指を交互に絡ませる)。自分の担当する部分に関する意識が強いですから》とは、結成20年に際してのインタビューでの稲葉の発言だ(『AERA』2008年6月23日号)。

 25周年を迎えたときには、松本が《いい意味でせめぎ合いがずっとあって、これまで続けてこられたんじゃないかな》と顧みれば、稲葉も《何かしらリスペクトする部分がお互いにないと続けていけないと思うんですけど、ステージをやるたびに、これだけ長くやっていても、何かしら違う面が見られるんですよ。単純にすごいな、うまくなってる、とかね(笑)。そういう瞬間があるから、ずっとやっていられるんだと思います》と語っている(『AERA』2013年9月23日号)。

「松本さんと僕にしか分からない」「誰も入り込めない」

 2019年には、それまで家族のように結束してきたツアーメンバーを一新したが、それも《僕らは2人で始めて、2人でここまで続けてきたバンドなんで。松本さんと僕にしかわからない、言葉にできない何かがあるんですよ。それは誰にもわからないものだし、誰も入り込めない。だからこそこういう経験を積極的にして変化を求めていかないと、本当のダイナソーになっちゃう》というふうに稲葉は説明した(『音楽と人』2019年7月号)。

 ここに出てくるダイナソーは、2017年リリースのB'zの同名アルバムとその表題曲にちなんでいる。もちろん恐竜を指すが、稲葉はこの言葉をむしろ「時代遅れ」という意味合いで作詞中に思いついたという(B'z・佐伯明『B'z ザ・クロニクル』幻冬舎、2018年)。

 B'zは昨年、Adoに「DIGNITY」を楽曲提供し、今年に入ってからはPerfumeなどをプロデュースする中田ヤスタカと組んでTM NETWORKのトリビュートアルバムで「Get Wild」をカバーするという具合に、年少の世代のアーティストとの仕事も目立つ。それも自分たちのスタイルに安住したらすぐに古びてしまうとの危機感からなのだろう。

「全力でもがいてみようかな」老いへの考え

 稲葉自身は老いについてどんなふうに捉えているのだろうか? 2019年リリースのB'zのアルバム『NEW LOVE』収録の「トワニワカク」では、永遠に若くありたいという歌詞を書いた。これについて稲葉は、実際にそういう気持ちはあるのかとインタビューで問われ、《まあ、考えが行ったり来たりするんですけど、若くありたいって思うと同時に、枯れていくのもいいじゃん、って逆に思ったりもするんですよ(笑)。この仕事してると》と答えている(『音楽と人』2019年7月号)。

 もっとも、一方では、たとえこんなふうに枯れたいと思ってもそのとおりの姿にはなれるわけではないとして、それならば逆に《もがいたりあがいたり、そうやって頑張ってる姿が若く見えるでしょ。自然に枯れていくのなら、それまで懸命に、全力でもがいてみようかな、って》とも語った(同上)。いまから5年前、50代半ばの発言である。その前年、2018年のツアー中には喘息を発症し、ステージで思うように声が出せないという事態もデビュー以来初めて経験していた。

 今夏、稲葉は還暦を前に、女性誌『anan』で表紙に登場するとともに、20ページにもわたり写真とインタビューによる特集が組まれた。精悍な顔つき(小室哲哉は稲葉を「あのカッコよさは国宝級だね」と評したという)はあいかわらずだが、目尻の皺などに、いい感じで年を取っているという印象を受けた。その姿は、自然に枯れていく途上にありながら、それに抗い続ける稲葉浩志のまさに現在形なのだろう。


*「HOME」(作詞:稲葉浩志、作曲:松本孝弘)
*「LADY-GO-ROUND」(作詞:稲葉浩志、作曲:松本孝弘)

(近藤 正高)

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