「容姿の衰えをくよくよするなど軟弱者!」佐藤愛子100歳の“おしゃれ道”
文春オンライン / 2024年9月26日 6時0分
佐藤愛子さん ©文藝春秋
佐藤愛子さんはおしゃれな100歳――週刊文春WOMAN2024春号、夏号と2度のインタビューでお目にかかり、実感した。色合わせやさりげないスカーフ遣いなど学びたいテクもたくさんあり、次はファッションについてのインタビューをとお願いした。だが残念なことに、酷暑で体調が不安定とのこと。それでは、と夏号に続き、同居する娘の響子さんと孫の桃子さんに「佐藤愛子のおしゃれ道」を語っていただくことにした。『 週刊文春WOMAN2024秋号 』より一部を抜粋して紹介します。
着物は買うのに流行りのバッグは絶対買ってくれなかった
響子 洋服はあつらえるのが好きでしたね。近所の方や三越にも頼んでいましたが、よそいきは専ら「小林マダム」という方に。マダムの家が田園調布にあり、私も子供の頃連れられていきました。坂の上の瀟洒な洋館で、毛足の長い白の絨毯にバイオリンと楽譜立てが置いてありました。
桃子 70年代の漫画みたい(笑)。おばあちゃんは服も好きだけど、情熱で言うなら断然、着物だよね。
響子 大変な「着物警察」ですから(笑)。首が埋もれるくらいもこもこした白いショールを憎んでね。ニュースで成人式の振袖姿が映るたびに「やめてくれーっ」って。
桃子 紅白歌合戦を見ている時もうるさい、うるさい(笑)。私は椎名林檎さんが好きなのだけど、彼女が着物で登場すると、仕立てや着方がどうこう言うんですよ。
響子 石川さゆりさんは楽しみにしているんですよ。今回はどんな着物だろうって。
桃子 石川さんは帯締めを斜めにされますよね。祖母は「あれはおしゃれだ」と言って、なぜか着物警察に引っかからない(笑)。
響子 京都から呉服屋さんが、年に3、4回来ていました。四畳半の和室に反物を並べて、呉服屋さんとのやりとりそのものを楽しんでましたね。自分には年齢的に合わないけれど気に入った反物があると私用に買うんです。でも私はいらんのですよ。『なんとなく、クリスタル』の世代なんですから。
桃子 着物じゃないね(笑)。
響子 だから着ないの。すると「せっかく買ったのに」って怒りだす。クレージュの弁当箱型のバッグが流行っていて、欲しかったけどそういうものは絶対買ってくれない。着物は何百万もするのを買うのに。今回の取材は母のファッションがテーマと聞いて、これだけは言いたいと(笑)。
忘れられない「着物の匂い」の思い出
ーー雑誌『美しいキモノ』(1992年夏号)は「私のきものワードローブ―夏の抽斗―」というタイトルで、佐藤さんと愛用の着物を紹介している。着物姿の佐藤さんの写真が5点、他に着物と帯などの写真が10点近く。「以前は原稿を書くときもきものでした」と語っていた。
響子 70歳くらいまでは、座卓で書いていました。冬は着物を何枚も重ねて着ていたから、脱いでいくとはだけた胸元から母の匂いが立ちのぼってくるんです。小さい頃の冬のお風呂の思い出です。
桃子 春と秋には、虫干しするんです。応接間から庭に紐を3本くらい渡して。ちょうど自分の部屋の下なんで、着物の匂いが上がってきて「虫干ししている」ってわかります。
「美しいおばあさん」になるための並々ならぬ努力と気配り
ーー『わが孫育て』に佐藤さんはこう書いている。〈自分が七十を遥かに過ぎてみてわかったことが、「美しいおばあさん」になるには並々ならぬ努力と気配りが必須条件だということである〉。『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』には、〈八十歳を越えているのに、六十代に見えるという(それを自負している)いつも元気イッパイのK子さん〉が出てくる。
響子 お化粧に熱心な同世代には厳しいですね(笑)。母と同世代のお知り合いに「昔モテた」と自ら語る方がいて、おしろいがどんどん厚くなっていったんです。もう亡くなられましたが。
桃子 その人のことは、辛辣だった(笑)。
響子 年齢に抗うより、「構わない」ことに価値を置いているんです。精神力とか精神的な強さとか、そんなことをよく言います。
桃子 容姿の衰えをくよくよするなど、軟弱者だという考えで。小さい頃から、「心に錦をまといて身に襤褸(らんる)をまとう」と言われていました。襤褸っていうのはボロのことだよって。
響子 お説教が好きだから(笑)。世間の価値観に対してのお説教を私たちにするんです。
桃子 でも、フェイスシャドウを買ったんだよね。
響子 ノーズシャドウね。私が小学生の頃、薬局の化粧品売り場で母が、「鼻を高くするようなものって、何なんでしょう?」と聞いたんです。「人に頼まれたもんでね」と言い訳しながら。
桃子 あの人に頼む人はいないと思う。
響子 そこですすめられたノーズシャドウを買って帰り、気づいたら減っていて。「ママが使ってるのね」と言ったらゲラゲラ笑って、「鼻高化粧しなくちゃね」って。自分の顔のここが嫌というのは誰しもあって、母には鼻だった。
桃子 濃い赤の口紅を選んだり、セルフプロデュース能力が高いところはあると思います。まだ祖母がもっと若かった時、もし自分が老耄(ろうもう)して、写真取材を受けていたらその時は止めてと母に言っていたんです。老耄した自分を世間に晒したくないからって。それもその一環だと思います。
響子 誇り高くありたい人なんです。
●濃紺地に井桁を表した小紋を母のシナさんから受け継いだ話、3、4日かけて行った虫干しや畳紙に「天皇陛下」と書いた驚きの理由、着物をリフォームしたワンピースをお召しの写真、そしてお電話でうかがった佐藤愛子さんとの一問一答など、記事の全文は『 週刊文春WOMAN2024秋号 』でお読みいただけます。
娘・杉山響子
すぎやまきょうこ/1960年生まれ。玉川大学文学部卒。両親の離婚後は、母の佐藤愛子と暮らす。
孫・杉山桃子
すぎやまももこ/1991年生まれ。立教大学文学部卒。現在は「青乎(あを)」として、映像や音楽作家として活動。
さとうあいこ/1923年大阪府生まれ。甲南高等女学校卒業。1969年『戦いすんで日が暮れて』で第61回直木賞受賞、2000年、65歳から執筆を始めた佐藤家3代を描く『血脈』の完成により第48回菊池寛賞受賞。2017年旭日小綬章を受章。
聞き手・文 矢部万紀子
(矢部 万紀子/週刊文春WOMAN 2024秋号)
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