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「先生に膝に乗るように言われて…」30年前の同級生が次々証言し、わいせつ教諭の性加害は認定された《敗訴から大逆転、最高裁で確定》

文春オンライン / 2024年9月25日 17時0分

「先生に膝に乗るように言われて…」30年前の同級生が次々証言し、わいせつ教諭の性加害は認定された《敗訴から大逆転、最高裁で確定》

石丸さん ©文藝春秋

〈 《性被害裁判 異例の逆転勝訴》わいせつ男性教諭の“嘘”を暴いた「クラスメートの新証言」 性被害から20年 〉から続く

小学生時代、担任だった男性教諭から性暴力を受け、後遺症に悩まされてきた石丸素介さん(41)。この元男性教諭を相手に裁判を戦ってきたが、一審では証拠不十分として敗訴。だが、「文藝春秋 電子版」での「 実名・顔出しの告発記事 」がきっかけとなり、二審では同級生たちが証人として名乗り出た。結果、30年ほど前の性被害の事実を認め、後遺症の損害賠償として慰謝料・利息合わせ約4000万円の支払いを命じる画期的な判決が下った。この判決は9月20日、最高裁で確定した。

 

子どもの性被害に対する歴史的判決に至るまでの過程を、「文藝春秋 電子版」の記事から一部紹介する。

■連載 秋山千佳「ルポ男児の性被害」
第1回・前編  「成長はどうなっているかな」小学校担任教師による継続的わいせつ行為《被害男性が実名告発》
第1回・後編  《わいせつ被害者が実名・顔出し告発》小学校教師は否認も、クラスメートが重要証言「明らかな嘘です」

第8回・前編 「《異例の逆転勝訴》性被害から20年、クラスメートの新証言がわいせつ男性教諭の数々の“嘘”を暴いた」

第8回・後編 「《賠償金約4000万円》法廷でも被害者の人格を攻撃 わいせつ男性教諭に画期的判決が下った“3つの理由”」

◆◆◆

「3人でお風呂に入りました。普通に」

 小学校時代の担任による性被害から後遺症を発症した石丸素介。

 外出もままならない病状のなか、裁判を続け、実名告発に踏み切った。

 そんな彼の覚悟に突き動かされて、級友だった鈴木大樹が法廷の証言台に立った。

 石丸の代理人弁護士・今西順一からの主尋問が始まる。

 

 鈴木は、担任だった奥田達也(仮名)をどのような先生だと認識していたか、という今西の問いに答えて言った。

「スポーツができて男子児童と距離が近く、スキンシップが多い先生だと認識していました」

 さらに、先に証人として立った級友・柳和樹の証言を補強するように、体罰についても言及していく。

 被告席の奥田はそんな鈴木に目もくれず、無表情に戻っている。だが、今西が「スキンシップが多い先生というのは具体的にどういうことですか」と質問した瞬間、とっさに顔を伏せ、目を閉じた。

 鈴木が、公にしようと決めてきた“真実”に言及しはじめた。

「先生に膝に乗るように言われて、太もものあたりを触られました。半ズボンを穿いていたので、太ももをさするような感じで触られました」

 奥田が刑事事件で有罪判決を受けたことは知っているか、という問いにはこう答えた。

「ネットニュースで知って、やっぱりな、と思いました。僕も自宅に呼ばれたことがあったからです」

 小学校高学年時、鈴木は学校で奥田のパソコン入力作業を手伝う機会がしばしばあり、その際に声をかけられた。日頃から触られることが多く、1人で行くのが直感的に不安になった鈴木は、その場にいた級友の男子Cを無理やり誘って、奥田の車に乗った。

 奥田の自宅マンションに着くと、奥田は教え子2人を風呂場へと促した。

「3人でお風呂に入りました。普通に入って出ました」

 鈴木は淡々と証言を続ける。

「Cくんはテレビゲームをしていて、先生が椅子に座って、僕が膝の上に乗るような形になりました。その時に、先生が僕のパンツの中に手を入れて、陰茎を触ってきました」

 鈴木自身が奥田から性被害を受けた一人だったのだ。その行為が仔細に述べられていく。それは奥田の逮捕報道を見た2017年に蘇った記憶だった。その際、母親にだけ打ち明けていた。

 奥田がため息をつき、天井を仰いだ。

 鈴木は「スキンシップの多い先生だったので、その延長線上のことかなと。1人ではなかったので怖くはなかったです。(帰宅後に親に話は)しなかったです。本当に日頃のスキンシップの延長線上だと思って、気に入ってもらえたのかな、と思ったくらいでした」と被害当時の心境を語った。行為の意味がわからなかったのかと今西に確認されると、「そうです」と頷いた。

 当時の石丸については、こう証言した。

「先生のお気に入りという印象です。膝に乗せられている時、石丸くんが無表情だったのを一番覚えています。なんでなのかな、と思ったので記憶に残っていることです」

鈴木はとっさにマスクを剥ぎ取った

 奥田が再び立ち上がり、鈴木への反対尋問の口火を切った。

「一緒にお風呂に入ったなんて記憶は一切ないです。ズボンの中に手を入れて触ったみたいなことは信じられないです。私はそんなことをした記憶はないですよ、絶対に!」

 裁判長が「質問をしてください」と注意する。

 奥田は激しい語気のまま言った。

「あなたは本当にそうだったと“確信”しているわけですね?」

 鈴木はとっさに自身の顔のマスクを剥ぎ取り、奥田を射抜くような目つきで答えた。

「はい」

 怒りが緊張に勝って無意識に取った行動だった。

 奥田はその迫力に押されたのか、しどろもどろになった。

「正直言って驚きました……最後に会った時、笑顔いっぱいで奥田先生と呼んでくれたあなたに、私がそんなことをしたということ自体が信じられないし、一切していないので、何とも言いようがないです」

 裁判長から「質問をしてください」と繰り返し注意され、奥田は力を振り絞るように言った。

「本当に事実ですか? 私は一切していない、絶対に、絶対に!」

 裁判長から「ご記憶のままお答えください」と促され、鈴木が答えた。

「はい。僕は奥田先生のことはすごく好きだったんですが、やられたことは事実です」

 奥田は再び石丸に責任転嫁するような人格攻撃を始めたが、鈴木が冷静に制止した。

「今日は石丸くんが過去にされていたことと、僕が過去にされたことを話しにきただけですので」

 反対尋問は終わった。

 閉廷後、柳と鈴木は法廷の外に出ると、感想を述べあった。

「めっちゃ緊張した。昔は大人対小学生で絶対的存在だったけど……」「もっと理路整然と質問するのかなと思ったのに、話にならなかったね」

 表情を緩める2人に、石丸の母・厚子が頭を下げる。

「本当に立派に証言してくれて。最初は緊張していたのが、途中でスイッチが入って、こんなこと言われてたまるかという感じでしたね」

 柳が厚子をいたわるように応じる。

「話が違うと腹が立ったのと、あとは石丸くんへの人格攻撃でしたからね。そんなこと聞かされても別に何とも思わないし」

 鈴木も厚子に柔らかな表情を向けた。

「僕は幼かったから、先生にやられたことの意味がわからなくて、可愛がられているというスキンシップ感覚だったんです。石丸くんは僕から見ても大人でしたから」

 厚子は繰り返し頭を下げた。

「本当にありがとうございました。素介もいずれ会ってお礼を言いたいと話しています」

 2人は揃って首を振り「お礼だなんていいんです、応援しています」と笑顔になった。

 

 鈴木は他に、別の級友男子だったDにも協力を要請していた。

 Dが石丸同様に奥田から“可愛がられている”印象があったため、被害に遭った可能性があると考えたのだった。実は石丸も中学時代、奥田がDを抱きかかえている様子を目撃したことがある。

 Dは法廷での証言こそ叶わなかったものの、弁護士・今西の聴取に応じた。その内容が、事情聴取報告書として裁判所に提出された。

 その報告書では、Dが小学4~6年生時に月1回程度、1人で奥田宅へ招かれ宿泊することもあり、入浴時に互いの陰部を触ったり洗ったりさせられたこと、同じベッドで寝て陰部を触られたことなどが詳述されていた。

 以上の法廷内外の柳と鈴木の尽力により、奥田が担任を受け持った小学5、6年のクラスで、石丸の他に少なくとも男子3人が性被害に遭ったと話していることがわかったのだ。

 対する奥田は今年2月、答弁書を裁判所に提出。柳の証言を「オーバーに嘘を絡めて述べる」、鈴木に至っては「偽証」だと反論した。これで裁判は結審した。

 そして3月、石丸が逆転勝訴する判決が下ったのだった。

この判決が画期的であるポイント

 4月。石丸は久々にグレーのスーツを引っ張り出し、母・厚子とともに今西の事務所を訪れた。判決の報告を受けるためだ。出迎えた今西も2人と同様、晴れやかな顔だった。

 今西は判決文のコピーを2人に手渡すと、報告に入った。

「裁判所がよくここまで判断したなという点がいくつかあります」

 1つは、損害額(後遺症慰謝料)の大きさだ。

 2002万円、利息を含めての総額は約4000万円になる。

 もう1つは、除斥期間(法的権利が消滅する期間)の起算点だ。今西が言う。

「除斥期間は通常、不法行為の発生時を起算点として20年とされます。それだと本件は既に越えているので損害賠償請求が認められないわけですが、この判決では、起算点が精神科を初めて受診してうつ病と診断された日となっているのです。性被害事案でそのように除斥期間を起算するという法的判断をしたのは、非常に大きな意味があると思います」

 この点について、判決文には、以下のように記されている。

『本件わいせつ行為によって精神疾患を発症して後遺障害を負ったことによる損害賠償請求権については、その損害の性質上、加害行為が終了してから相当期間が経過した後に損害が発生するものと認められるから、除斥期間の起算点は、加害行為である本件わいせつ行為の時ではなく、損害の発生の時と解するべきであり、その時期は、その後遺障害の原因である精神疾患による精神的・身体的な症状が医師の診療を受ける程度に悪化した時期と認めるのが相当である』

 判決が確定すれば、性被害により後遺症が発生した場合、除斥期間の起算点は「後遺障害の原因である精神疾患による精神的・身体的な症状が医師の診療を受ける程度に悪化した時期」とするという画期的な裁判例が残ることになる。

 厚子が「弁護士さんは相談を受けて受任するかどうかを決める時、まず判例を探すんですよね?」と聞く。

 今西が頷く。「判例がないと無理ですと断る人も多いです。でも今後は今回の判決に勇気をもらって、過去の性被害の救済に活用しようという弁護士が出てくるかもしれません」

 静かに聞いていた石丸が身を乗り出した。自身のような性被害に遭った人がためらわず相談できる社会にしたい、というのが実名告発の動機だったからだ。(文中敬称略)

※本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています。(「 《賠償金約4000万円》法廷でも被害者の人格を攻撃 わいせつ男性教諭に画期的判決が下った“3つの理由”
」)

■連載 秋山千佳「ルポ男児の性被害」
第1回・前編  「成長はどうなっているかな」小学校担任教師による継続的わいせつ行為《被害男性が実名告発》
第1回・後編  《わいせつ被害者が実名・顔出し告発》小学校教師は否認も、クラスメートが重要証言「明らかな嘘です」
第2回・前編  中学担任教師からの性暴力 被害者実名・顔出し告発《職員室で涙の訴えも全員無視》
第2回・後編  《実名告発第2弾》中学担任教師から性暴力、34年後の勝訴とその後「ジャニー氏報道に自分を重ねる」
第3回・前編  《実名告発》ジャニー喜多川氏から受けた継続的な性暴力「同世代のJr.は“通過儀礼”と…」
第3回・後編  《抑うつ、性依存、自殺願望も》ジャニー喜多川氏による性暴力 トラウマの現実を元Jr.が実名告発
第4回・前編  「なぜ今さら言い出すのか」性被害を訴えた元ジャニーズJr.二本樹顕理さん 誹謗中傷に答える
第4回・後編  「ジャニーさんが合鍵を?」元Jr.二本樹顕理さんを襲った卑劣な“フェイクニュース”
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第5回・後編  《母は髪がどんどん抜け、妹からは「キモい」と…》性被害後の家族の“拒否反応”の真実 41歳男性が告白
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第8回・前編 「《異例の逆転勝訴》性被害から20年、クラスメートの新証言がわいせつ男性教諭の数々の“嘘”を暴いた」

第8回・後編 「《賠償金約4000万円》法廷でも被害者の人格を攻撃 わいせつ男性教諭に画期的判決が下った“3つの理由”」

(秋山 千佳/文藝春秋 電子版オリジナル)

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