「『普通の子になった』って言われるのが怖かった」タレント・井上咲楽が語る、トレードマークの“ゲジゲジ眉毛”を剃ったワケ
文春オンライン / 2024年11月23日 11時0分
井上咲楽さん 撮影/荻原大志
〈 「テレビに出てる人は頭がいい」と高3の秋に慶應大学受験を決意…井上咲楽が明かす、親にウソをついてこっそり受けた“試験の結果” 〉から続く
『新婚さんいらっしゃい!』(ABCテレビ・テレビ朝日系)を始め、数多くのバラエティ番組で活躍する、タレントの井上咲楽さん(24)。今年に入ってからは、NHKの大河ドラマ『光る君へ』への出演や、YouTubeチャンネルの開設、レシピ本『井上咲楽のおまもりごはん』(主婦の友社)の出版など、バラエティ以外での活動も注目されている。
ここでは、そんな井上さんが半生を赤裸々に綴ったエッセイ 『じんせい手帖』 (徳間書店)より一部を抜粋。かつてトレードマークだった「ゲジゲジ眉毛」を剃った理由と経緯に迫る。(全4回の4回目/ 最初から読む )
◆◆◆
「眉毛を剃ってみませんか?」
仕事はあるけど、停滞している。2020年はそんな1年だった。
2019年は今でも「島を回りながら虫を食べる番組すごかったですね」「地面に寝袋で寝ていたよね?」と言ってもらえることがあるくらい印象に残る番組『陸海空 こんなところでヤバイバル 虫の力だけで3泊4日 伊豆大島を歩いて1周 ヤバいいね!の旅』(テレビ朝日)に出演するなど、インパクトの強い仕事があった。
それに比べると2020年は低く安定しているというか、伸び悩んでいるというか……。
レギュラー番組もある。ゴールデンタイムのバラエティ番組に出演するチャンスもある。地方局からも仕事がくる。デビューした当初を思えば、贅沢な話だ。
それなりにスケジュールは埋まっているし、何日も休みが続くこともない。このままのペースでも2、3年はやっていけそう。
だけど、それでいいのかな?
そういう焦りの中で武器になる趣味を探したり、奇をてらった発言でバラエティ番組での出番を増やそうとしたり、はっきり言って、迷走していた。
そこに舞い込んだのが、『今夜くらべてみました』のスタッフさんからの「眉毛を剃ってみませんか」という企画だった。
私はマネージャーさんが驚くほど、深く悩むこともなく「やります」と即答していた。
眉毛>井上咲楽…誰にもわからない眉毛へのコンプレックス
街を歩いていると私を見かけた人が「なんだっけ、あの子。眉毛が太い」と言うやりとりが聴こえてくる。
井上咲楽という名前よりも、眉毛で先に世の中に知ってもらえたわけだ。
ダンスも歌もできない、面白いことも言えない。周りには「眉毛だけで呼ばれているんだろうな、この人」と思われているんだろうな……と恥ずかしかった。事実として、自分は眉毛のおかげで仕事をもらえているし、バラエティ番組でトークがうまくいかない時も「眉毛イジり」が間を埋めてくれる。
自分が実際にテレビ番組に出ている回数に比べて、いろんな人から「観ているよ」と言われる回数のギャップが大きすぎて、次第に世の中をだましている気持ちにもなっていた。
人の印象に残るのはタレントとしてすごくラッキーでありがたい話だ。
ただ、「眉毛>井上咲楽」という状況になっていることに対して、私は自分の眉毛にコンプレックスを抱くようになっていた。太い眉毛が嫌だったのではなく、眉毛に付属する井上咲楽みたいな関係性をどうにかしたかったのだ。
そこに「眉毛を剃りませんか?」という話があった。
仕事に停滞感を覚え、自分の眉毛にモヤモヤしているくらいなら、剃ることで何か変わるんじゃないか? そう思った。
ゲジゲジ眉毛を剃って変身したという話題があることで、例えば1ヶ月、2ヶ月の期間限定であったとしても仕事がめちゃくちゃ増えるなら、賭けてみたい。もしその後、バーンと出演依頼がなくなったとしても、一瞬でも移動中しか寝る時間がないみたいな忙しさを味わってみたい。
そうなる可能性があるなら、剃ってみよう。
私はそんなふうに脳内会議を繰り広げていた。
普通って言われるのが、何よりも怖い
一方で、眉毛を剃ることへの不安ももちろんあった。
ここまで読んでくださった人には隠しようもないけれど、陽キャか陰キャかで言えば、私は完全に後者だ。それが芸能界では、ゲジゲジ眉毛に2つ団子頭、派手な衣装をトレードマークにデビューした。しかも15歳で。
その子がモジモジして、人見知りで、暗かったら、誰もが扱いに困るはずだ。
だから、空回りするくらい元気で、明るいキャラクターの井上咲楽になった。この眉毛、この髪型なんだから、陽キャじゃないとねと思っていたのだ。
でも、眉毛を剃ったら、トレードマークがなくなる。
陽キャでいる必要がなくなったら、きっと陰キャな面が表に出てくるだろう。そしたら「なんかあの子、眉毛を剃ったら普通の子になったな」と言われるのではないか?
私は、普通って言われるのが本当に怖かった。
眉毛という個性がなくなっただけになってしまうかも?
実は、眉毛を剃ってから『今夜くらべてみました』がオンエアされるまでにはしばらく間があった。
当日、スタジオで流すビフォアアフターの密着取材で、初めてプロのメイクさんに眉毛を剃り整えてもらった。でも直後に鏡を見た時の正直な感想は、「変わったかな?」だった。
以前、ネットでの書き込みに「井上咲楽、眉毛を剃ったらもっといい感じになりそう」というのを見て、眉毛を手で隠して鏡を見たり、写真を撮ったりしては「別に、そうでもないじゃん」と思った時と同じ。実際に剃ってみても大きく変わった感じはしなかった。
もしかすると、眉毛という個性がなくなってしまっただけになるかも……と不安になりながら、オンエアの日を待っていた。
ゲジゲジ眉毛とさよならしたら、仕事が一気に舞い込んだ
オンエア後、ありがたいことに一気に仕事が増えた。
仕事を取るための武器を見つけよう、増やそうとしてきたのに、眉毛を減らしたら、やったことのない依頼が次々舞い込んでくる。美容雑誌、ファッション雑誌、グラビア撮影、ドラマ出演、バラエティ番組での恋愛企画……。とにかく「仕事って、こんなにいろいろ種類があるんだ!」とびっくりした。デビューからそれまでの数年間は、「どこに仕事があるんだろう?」と悩んでいたから、余計にだ。
現場の行き帰り、マネージャーさんと「世の中にはこんなにいろんなジャンルの仕事があるんだね」と話していた。
特に衝撃が大きかったのは、美容雑誌やファッション雑誌の写真撮影だった。
大きなスタジオにヘアメイクさん、スタイリストさん、カメラマンさん、それぞれのアシスタントさん、編集者さん、ライターさんが揃い、とにかくみんながやさしく褒め称えてくれるのだ。
シャッターが1回切られるたびに、カメラマンさんが「今の表情、いいですね」と言ってくれるし、髪の毛がちょっとでも乱れたらヘアメイクさんがささっと寄ってきて直してくれるし、衣装の襟元が少しずれたらスタイリストさんが直しに入って整えてくれる。
私が1人でやったら「この髪型はボサボサ……?」というスタイルでも、プロのみなさんが完成系をきっちりイメージして仕上げたもの。スタジオにはいい匂いのミストがただよっていて、撮影の邪魔にならないくらいの音量でカッコイイ音楽が流れている。
上がりの写真を見ると、見たことないくらいアーティスティックな自分が写っていた。
なんだ、この違いは! と驚いたものだ。
撮影=荻原大志
(井上 咲楽/Webオリジナル(外部転載))
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