トランプ大統領VS.金正恩委員長、なんとなく会って握手をするの巻

文春オンライン / 2018年6月14日 7時0分

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(c)getty

 世界が固唾をのんで見守ったドナルド・トランプ米大統領と、北朝鮮の金正恩委員長、なんかこう、東西対決というか、変な父と変わった感じの息子というか、凸凹コンビというか、不思議な取り合わせであります。それに先んじて、4月27日に韓国・文在寅大統領と手を繋いでキャッキャウフフしてた対談と並んで、緊張感の滾る熱湯のうえに敷いた氷の板の上で楽しくダンスしているかのような心象風景に繋がるものがあります。

トランプさんはあんまり細かいことに興味ないんだと思うんですよ

 米朝の共同声明に両国のサインこそすれ、具体的な中身はゼロで、強調していたCVID(アメリカが6カ国協議で言ってた完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)が入らず、非核化のスケジュールも、北朝鮮・金正恩体制の安全の保証についての具体的措置もないという。なんかでっかいノボリに「朝鮮半島の非核化へ努力する」ってだけの内容で、お前ら本当にそれでいいのかと部外者として心配になります。これから具体的な交渉があったり、何か付帯文書でもあるのかと期待せざるを得ないんですが、逆に言えば「まあ、トランプさんと金正恩さんだからなあ……」って感じです。

 たぶん、トランプさんはあんまり細かいことに興味ないんだと思うんですよ。先日、G7サミットで身を乗り出して説得するドイツのメルケル首相にふんぞり返って腕組みするトランプ大統領という構図の報道写真が乱舞しましたが、どいつもこいつもキャラが濃い。アベンジャーズかよ。めっちゃ力を入れて握手をするトランプ大統領に負けることなく全力で握手し返したフランスのマクロン大統領とか。基本的な構図は、アメリカと欧州のあいだの経済的、政治的な緊張関係の悪化でFacebook以下多くのアメリカ企業の個人データの取り扱いを巡る争いが話題になり、トランプ大統領は「アメリカファースト」の姿勢を崩さないので、むしろアメリカの同盟国や友好国のほうが、中国・習近平さんやロシア・プーチンさんといったキャラの濃い独裁者と仲が良いように見えてしまうわけであります。

 そのアメリカと欧州の対立において仲介者的な役割に、なぜかなっている我らがモリカケ安倍晋三総理。重要な役割を占めているはずの安倍ちゃんが、日本人的な価値観からすれば「国際社会では軽い存在にされている」ように見えます。トランプさんが北朝鮮に囚われたアメリカ人をあっさり開放させたのを見て、やっぱり核ミサイルをたくさん配備している奴が力でものを言わせるのが国際政治なんだ、核軍備できていない日本には拉致被害者が帰ってこないんだって思っちゃう瞬間です。一方、政治家としてのキャリアの乏しいトランプ大統領からは絶大な信頼を得て「シンゾウの意見が聞きたい。あなたの意見なら従う」とまで言われてしまう優れたセールスマンぶりを発揮しておるわけです。細かいことが嫌いな不動産屋が懇意の不動産鑑定士に「お前、細々してるとこまとめといて」って頼むような雰囲気で。

あたかも強盗の棟梁が改心でもしたかのような錯覚

 もうね、国際政治がバラエティー番組みたいな状況になってるんじゃないかと思うぐらい、指導者が極彩色のようなどぎついキャラばっかりで、目がチカチカするんです。いま起きていることが面白すぎて、そもそもその前いろんなこと起きていたのすっかり忘れるじゃないですか。まるで『24』とかパニック映画観てるような。目の前が危機過ぎて、それまでいっぱい人死んでたの忘れちゃう的な。

 だって、つい去年ですよ、金正男さんがマレーシアで暗殺されたの。その遠因となった、金正恩さんの叔父である張成沢さんが、国家反逆だといって圧倒的な火力の対空砲で銃殺されたのが5年前。いままで何度北朝鮮がアメリカほかと合意した、その内容が反故にされてきたことか。もちろん、日本人の価値観や社会常識で北朝鮮の独裁者・金王朝の行動の是非善悪を判断するほどナンセンスなことはありません。でも、スイスで教育を受けてきた孤独な若き独裁者が為してきたことは日本のみならず国際社会からして理解しがたく、その理解しがたい北朝鮮がミサイルの発射実験をし、核実験を繰り返してきた、それが我が日本の隣国であり、日本人を多数拉致し、いまだ返還してこなかったわけですね。

 ところが、実際にいまの日本のメディアで起きていることは、小太りのチャーミングな北朝鮮の指導者というイメージで繰り返し報道しているようにも見えます。いや、彼は独裁者ですから。それも、かなりヤバいことをやってきた。彼の本来の性格やいま考えていることは分かりませんが、ギリギリまで緊張感を高めてからパッと開放外交路線に転換したことで、あたかも強盗の棟梁が改心でもしたかのような錯覚に陥って悪行の数々を容認してしまいかねない、実に見事なトリックにハマっているかのようです。

なんとなく現状維持していったほうがいいんじゃないか

 んで、冒頭のトランプ大統領との固い握手、肩をたたき合っての友好ムード。でも、交わされた文書に具体的な解決への道筋に関する内容はほとんどなし。たぶん、アメリカの大統領と、北朝鮮の指導者が実際に会って対談をした、ということそのものが合意文書の中身以上の意味を持つとトランプさんは判断したんでしょう。どれもこれも、テレビサイズやネット放送のレベルで収まる、綺麗な絵を垂れ流すために特化した「騙すために作られた何か」に見えます。トランプ大統領も中間選挙があるし、北朝鮮を支援する中国も貿易戦争や南シナ海での軍拡を捌くにあたって北朝鮮問題は放置できないし、みんな事情があるんですよ。

 一連の北朝鮮関連で起きた問題を一個一個並べて真面目に検証するのも馬鹿馬鹿しいのかもしれませんが、みんな心の奥底で「この問題を解決するために努力するより、なんとなく現状維持していったほうがいいんじゃないか」って思ってるんじゃないですかね。だって、北朝鮮ですよ。共産圏の東ドイツだって、ベルリンの壁が壊れたから統一ドイツは統合に大変な苦労を乗り越えてきたわけです。ドイツ人は偉いねほんとに。でも韓国が朝鮮民族の統一が悲願だとして、先進国の一員である韓国人と同じレベルにまで北朝鮮人を教育し、人工衛星から見て夜真っ暗なぐらい電気すらないインフラを整備し、どうにかするための投資をどうするのかは、相当考えないといけないでしょう。非核化のための資金は韓国と日本が負担する、とトランプさんは言いました。ツケが日本に回ってくるのかと思いつつも、日朝で外交して拉致問題ほか前進がない限り日本はカネを出す必要もないわけです。事実上没交渉の北朝鮮と日本が話をできるように水向けをしているのがトランプさんだ、と言えば好意的過ぎるでしょうか。有難迷惑というか。

衣が大きすぎるエビフライ

 北朝鮮が本気で路線変更している可能性は低いにせよ、うっかり本当に非核化が進んでしまうとそれはそれで面倒です。 日本は拉致問題があるとはいえ、拉致問題と非核化と北朝鮮経済開発とがセットで話が降ってくることになりかねません。結局は朝鮮半島の安定にもっとも関心を払う中国が開発資金を貸す仕組みを作るのでしょうが、今回合意した朝鮮半島の非核化に在韓米軍の撤退は含まれるのかとか、在韓米軍にうっかり本当に撤退されたとき、米中対立の最前線が我が日本列島となり、まーーた日本不沈母艦論が出てしまうのかと思うとゲンナリ致します。

 面倒くせえ。面倒くせえよ北朝鮮問題。東アジアの安全保障を考えるにあたって、しっかりと日本国民の返還を北朝鮮に飲ませることができるかどうかは重要な課題ですけど、エビを食べたいのについている衣が大きすぎるエビフライみたいになっていて、これでは日本の拉致被害者は「日本が軍備に後ろ向きだったばっかりに、いつまでも帰ってくることができない」という話になってしまう。

 逆に、北朝鮮が約束守らなくてトランプ大統領がマジおこ状態になったら先制攻撃も起きかねない。「おまえ、非核化に努力するって言ったよな(時期も内容も合意文書には明記してねえけど)」って言いがかりをつけられる可能性は充分にある。だって、いままで北朝鮮は何度も国際的な合意を反故にして、時間稼ぎをするのが国是でしたからね。のど元過ぎたらビキニ環礁上空でミサイル発射ついでに大気中核実験でもやりかねない。でも、私には「いままでさんざん合意を破ってきた北朝鮮」を知ったうえで、敢えて緩い合意をし、期待感を高めておいて、ちょっとしたことでトランプさんが「北朝鮮は約束を破った。お前らより俺の方がたくさん核兵器を持っている」って蹴っ飛ばすことぐらい考えていると思うんですよ。そっちのほうが、バラエティーショーとして盛り上がるから。 そうなれば朝鮮半島統一どころか日本の核兵器開発への道筋までできかねない勢いです。 

おうお前、いま立ち退けばいい物件斡旋してやるからよ

 もうここまで来ると、国際政治が学問の世界であーだこーだ分析するより、その辺の不思議な性格の不動産屋のオヤジが地上げしたい駅前の雑居ビルに入ってるやんちゃ御曹司にいちゃもん付けてる構造に近いと思うんですよ。おうお前、いま立ち退けばいい物件斡旋してやるからよ、みたいな。

 その中小企業のおっさんマインド丸出しの不動産屋の出入り業者が我らが安倍ちゃんだって思えば幾分気が楽になるんじゃないですかね。どうせろくでもない方向にしかこの問題が転がらないと割り切って、それでいて、一喜一憂せず、過去に起きたことはなるだけ忘れず、イメージに振り回されないようにじっと成り行きを見守りながら、いま私たちに必要なことは何かを見定めることなんじゃないでしょうか。

 まあ、歴史的な会談まで漕ぎ着けた、ってだけで、トランプさんの剛腕は凄いなって思うんですが。あくまで結果論ですが、理知的で平和主義でもあったオバマ前大統領では絶対に為し得ないような、米朝首脳会談まではできちゃったんだから。それが、世界のためにどれだけ良い出来事だったのかは別としても。

(山本 一郎)

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