キズナアイのプロデューサーが考える「サブスク時代に音楽はどう存在すべきか?」

文春オンライン / 2018年12月16日 9時30分

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Yunomiさん

Future Bass(フューチャーベース)と呼ばれる最先端の音楽ジャンルを主とした音楽クリエイターとしてキズナアイにも楽曲を提供する傍ら、DJとしても活動するYunomiさん。音楽の先頭をゆく人は、音楽産業の未来をどのように考えているのか?

中田ヤスタカさんと「何か一緒に大きいことしたいね」って

――このたび、アソビシステム(きゃりーぱみゅぱみゅらが所属する事務所)に入られたそうですが、サウンドクリエイターとして「移籍」されたのはどうしてなんですか。

Yunomi 一言で言えば、アソビシステムには中田ヤスタカさんがいるからです。今でこそPerfumeさんやきゃりーぱみゅぱみゅさんの楽曲を手がける「中田ヤスタカ」さんですが、僕にとってはCAPSULEさんが初めての出会いで、2008年のアルバム『MORE! MORE! MORE!』を聴いて以来、憧れの人でした。そんな中田さんと縁ができて「これから何か一緒に大きいことしたいね」という話ができるようになった。それを実現するためには中田さんがいる事務所に“所属”することが一番いいと考えたんです。

――中田さんの音楽に触れるまで、どんな音楽遍歴だったんでしょうか。

Yunomi もともとロックが好きだったんですよ。小6ぐらいから親父のギター、やっすーいやつですけど、それをさわり始めて、中学でエレキを買って、高校でバンド組んでっていう、まあ割と普通の流れだったんですけど……。

はじめてお金が発生した仕事は……

――ご出身は札幌ですけど、高校の文化祭でステージに立つこともあったんですか。

Yunomi  文化祭、あんまりよくなかったんだよなあ……。僕らが出る前の年の先輩がステージで暴れちゃって、うるさい音楽って目の敵にされてしまった。だから生ドラム禁止だったんです(笑)。エレキドラムで代用して演奏はしましたけど。

――大学でも音楽は続けられたんですよね。

Yunomi  軽音楽部で続けてました。オリジナル曲の作曲して、スコア書いて、メンバーに渡す担当もしていたんです。そこでなんか使命感というか、自分の人生で最優先すべきものはやっぱ音楽なんだよなって、音楽やりたいなって。みんなが就活してるのを見ながら、そう思ったんです。それで、音と向き合いたいって思って、音楽の専門学校に入り直して音響とか、PAとかレコードエンジニアリング的な勉強をしました。そして、卒業してから本格的な打ち込み音楽の世界に入ったんです。それまではロックだったんですけど、レディオヘッドを聴き込んだあたりから、エレクトロニカミュージックのほうが好きになっていったんですよね。

――それで好きな音楽を「仕事」にしていくわけですが、お金が発生した最初の仕事は覚えてますか?

Yunomi 先輩のバンドの録音かな。予算がないからスタジオ録音できないって言うんで、16チャンネルのMTR(マルチトラックレコーダー)使って、マイク立てて、レコードエンジニア的な仕事をしたんですけど、パンクバンドだから大変でした(笑)。しかも「このほうが音を全身で感じられる」とかいう理由でメンバーがみんな全部脱ぐんです。 全裸ですよ。それが最初の仕事かな……(笑)。

いつまで僕は人に合わせるだけの音楽を作ってるんだろう

――最初の仕事は作曲じゃないんですね。

Yunomi 作曲でお金いただいたのは、それから3年後くらいです。それまでにも専門学校のボーカリストに曲のアレンジをしたりしてましたけど、あくまで勉強の範囲内でしたし。お金が発生した最初の楽曲提供は、北海道のご当地アイドルへのものです。

――これで音楽の仕事を続けていけると思ったのは、いつ頃からなんですか。

Yunomi 挫折ばかり、コンペにも落ちてばかりだったので、そう思うまでには結構時間かかりました。いつまで僕は人に合わせるだけの音楽を作ってるんだろうって自問自答が続いたんです。でも、無名のトラックメーカーが自分の音楽表現をアップしたところで、なかなか聞いてもらえない。その状態から「抜けたな」って思えたのは、この「Yunomi」っていうコンセプトが浮かんだときです。

本名とは違うアーティスト像を打ち立てた理由

――Yunomi名義を考えついたときってことですか?

Yunomi そうですね。それまで何が辛かったって、自分の作品が否定されたときに、自分そのものが否定された感覚に陥っていたんです。「お前には才能がない」「こいつみたいにいい曲作れ」って言われれば言われるほど、自分の存在価値を考えちゃってへこむ一方。ところが「Yunomi」っていう別人格、本名とは違うアーティスト像を打ち立てればいいんじゃないかって考えてやってみたら、一気に肩の荷が降りたんです。

――一種の生き方の発明ですよね。

Yunomi 臆病者の発想なのかもしれないけど、たとえYunomiが成功しなくても傷つかないって思えるようになった。ちなみにYunomiっていうのは日本的なもので、カワイイものをイメージしてつけた名前です。

レーベルはハッシュタグみたいなもの

――Yunomiさんは自らのレーベル「未来茶レコード」の運営もされています。今、音楽業界が大きく変化していますが、この時代のレーベルってどんなあり方を目指せばいいか、お考えはありますか?

Yunomi もはやレコード会社としてのレーベルという考え方はしにくいんじゃないかなって思っています。アーティストが「レーベルに所属する」っていう概念が、なんかピンとこない。今は個人でやるか、それとも組織でやるか、そういう時代になっていると思うんですよね。その意味で、レーベルというものはハッシュタグみたいなものになってきている気がします。

――ハッシュタグみたいなもの。

Yunomi 特にサウンドクリエイターの世界はある種のタグをつけることで、こういうサウンドはこういうジャンルなんですよって「名付け」をするようになっている。たとえばKawaii Future Bass(カワイイ・フューチャー・ベース)っていう、キラキラしたエレクトロニックサウンドのジャンルがあるんです。このジャンルを最初に作ったUjico*くんが、このジャンルのトップにいて、Kawaii Future Bassの曲を作る他のクリエイターはそこに、まああえて言えば「所属」しているっていう。別に会社でも組織でもないけど、クリエイターは個人個人でレーベル的な「ジャンル」を基盤として活動しているという感じですかね。

キズナアイに「過去」を歌ってもらいたかった

――Yunomiさんはバーチャル・ユーチューバーのキズナアイさんにも楽曲を提供し、プロデュースもされていますよね。

Yunomi キズナアイも一つのレーベル的存在ですね。キズナアイにはキズナアイ的な楽曲、キズナアイのカラーやルールに沿った音楽が求められる。その意味では、僕もキズナアイというレーベルに参加するアーティストの一人なんだと思っています。

――提供された2曲のうちの1曲「new world」は歌詞もYunomiさんが書かれたということですが、過去を思い出すことを歌っていますね。キズナアイに過去を歌わせるという狙いは何だったんですか?

Yunomi キズナアイは未来の象徴だからこそ、過去を歌ってもらいたかったんですよね。過去を振り返らないと未来は描けない。でも彼女は人間という存在が辿ってきた長い歴史、過去をきっと知らない。でもそんな未来の先導者にこそ、人間を未来へ引っ張っていくためにも、過去というものを知ってほしかった。そんな願いを込めています。

この時代に「音楽を所有する」ということ

――1月には「DOWNLOAD CARD SUMMIT 2019」にも参加されるそうですが、このダウンロードカードの意義をどんなふうに考えているんですか?

Yunomi 音楽を「所有」するっていう意味では意義が大きいと思ってます。音楽のマーケットでの配信型が始まってずいぶん時間が経ちましたけど、僕はデジタル配信って明確に2つに分けて考えなきゃならないと思っているんです。一つはサブスク(サブスクリプション)で、これはSpotifyやApple Musicなどといったサービスですよね。要するに音楽を聴く「権利を有する」ためのサービス。もう一つは楽曲をダウンロードしてHDに保存する「音楽の所有」。で、人ってやっぱり所有欲があるはずなんですよ。サブスクは解約すると聴けなくなるけど、所有すればデータは残るし、なるべくいい音で所有することもできる。

――問題はどう、その所有欲を動機付けるかですよね。

Yunomi ですよね。「ファンだったら中古で買ったり、借りたりせずに新品を手に入れよう」っていう僕らが中高生の時にあった空気感がこの時代でどう熟成されていくのか。受け手にはサブスクで聴けるならいいや、作り手にはサブスクで再生回数回ってるなら利益も発生するんだしいいやって考え方もあるでしょう。でも、クリエイターとしては、できるだけいい音――つまり容量の多いファイルで聞いてほしい、ジャケットの美しさやかわいさも楽しんでほしいみたいな思いも強いわけです。だから、うーん……難しいですね。所有欲と音楽の品質が掛け合わさったちょうどいいところ、「所有の中央値」を探っていくのが、音楽産業にとっての引き続きの課題なのかなって思っています。

写真=三宅史郎/文藝春秋

INFORMATION

■DOWNLOAD CARD SUMMIT 2019

https://downloadcard.jp/

「ダウンロードカード」を提供する事業者が手を取り合い、リスナーが音楽をより楽しめる環境づくりを目的として開催する、お楽しみの1週間。2019年1月12日~1月19日まで渋谷地域で開催。

(「文春オンライン」編集部)

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