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「2035年にHV販売禁止」方針を打ち出すEU、“日系メーカーつぶし”に日本はどう対応するか

Business Insider Japan / 2021年7月20日 6時20分

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2017年のフランクフルトモーターショーにて。プリウスのプラグインハイブリッド車(PHV)が展示されている様子。 Grzegorz Czapski / Shutterstock

欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は7月14日、気候変動対策に関する包括的な法案の政策文書(コミュニケーション)を発表した。

とりわけ日本の報道で注目されたのが、2035年までにEU域内の新車供給をゼロエミッション車(温室効果ガスを排出しない自動車)に限定するという野心的な方針だ。

トヨタ自動車など日系メーカーが得意とするハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)は、このゼロエミッション車から除外される。

つまりEUは2035年以降、いわゆる電気自動車(EV、正確にはBEVと呼ばれる二次電池式電気自動車)と燃料電池車(FCV)しか新車の登録を認めないという考えを鮮明にしたわけだ。

製品のライフサイクル(生産から廃棄までのプロセス)を考えた場合、HVやPHVの温室効果ガス排出量はEVやFCVに劣らないどころか、むしろ優れるとも言われている。

にもかかわらず、EUはHVやPHVを域内の市場から「排除」するのは、日系メーカーつぶしにほかならないというのが、日本での大方の受け取られかたではないだろうか。

そうした側面は残念ながら否定できない。

日本はHVの普及で温室効果ガスの削減を志向し、一定の成果を見ている。他方でEUは、燃費が良い軽油を用いるディーゼル車の普及で同様の効果を目指したが、いわゆる「ディーゼルゲート」(主要な欧系メーカーによる温室効果ガス排出削減不正問題)を受けて、この戦略は完全にとん挫した。

フォルクスワーゲンのディーゼル排ガス検査不正を伝えるBBC フォルクスワーゲンのディーゼル排ガス検査不正を伝えるBBCの報道(記事は2015年当時のもの)。 撮影:編集部

EV化そのものは世界的なメガトレンドだ。このトレンドで主導権を握るという観点からも、欧州委員会は2035年までに域内市場からHVやPHVを排除する方針を示したわけだ。

EV化は気候変動対策の一手段であるにもかかわらず、それを「自己目的化」している裏には、欧州委員会の技術覇権に対する、一種のエゴイズムが存在する。

EU内でも議論が交錯する「ガソリン車」の排除

欧州委員会が今回示したのはあくまで「政策文書」であり、これをもとにEU加盟各国の議会とEUの立法府である欧州議会での協議・調整を経て、最終的に立法化される。

そのため、現在出ている欧州委員会の素案がそっくりそのままEU法として効力を持つことはまずありえない。加盟国の意向が強く反映された形で修正されることになる。

欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長 欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長。 REUTERS/Yves Herman

ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長の凛とした会見の姿からは、EU首脳陣のEVシフトに関する強い意志がうかがえる。

しかし、加盟国の温度差はかなりバラついているというのが本当のところだ。

例えばフランスの場合、ルノーのコンパクトEV「ゾエ(ZOE)」が好調なこともあり、2035年以降もPHVを新車として登録できるよう求めている模様だ。

それに所得水準が低い中東欧諸国の場合、価格が高いEVの普及が容易には見通せない状況にある。

また、EVの場合、充電ポイントの整備が必要不可欠となるが、それも財政に余力がない中東欧諸国では進んでいない。EU復興基金からの財政支援が見込めても、それだけでは充電ポイントの整備など進まない。

renault_zoe ルノーのコンパクトEV「ZOE」。オートカージャパンは、英国での補助金を含めた価格は2万8495ポンド(約432万円)と報道している。最大航続距離は394km。 出典:ルノー

産業界も欧州委員会の方針に反発している。ドイツ自動車工業会(VDA)のヒルデガルト・ミュラー会長は、欧州委員会が政策文書を公表する直前の7月7日に行われた記者会見で、ガソリン車の製造ラインが失われることで20万人近い雇用が失われる可能性などを指摘、急速なEVシフトを掲げる欧州委員会に対して慎重な見解を示した。

高い球をあらかじめ投げて、そこから現実的な解を探る。交渉戦術にあたっての常とう手段ではあるが、各国のスタンスの違いや自動車メーカーの反応を見ていると、フォン・デア・ライエン欧州委員長らEU執行部が投げた球は、「いささか高過ぎた」印象は否めない。

そのため、立法化までの道のりには、かなり紆余曲折がありそうな予感を禁じ得ない。

「保護貿易」であるという批判に抗えない側面も

一種の強制力を伴わなければ、事態は大きく変わらない。EU執行部はそのように考えているのだろう。

しかしそのことは、EU域内市場で行われるゲームのルールが大転換することを意味する。言い換えれば、このルールに適応できなかったプレーヤーは、漏れなくゲームから排除されることになる。今回の自動車市場での出来事は、その端的な事例だ。

約5億人近い人口を持つEUは、中国とインドに続く世界で3番目に大きな市場だ。その市場で経済活動を行いたいなら、EUのルールに従わなければならない。

一見するともっともらしい主張のように聞こえるが、これはEU自身が重視する自由貿易の原則と照らし合わすと、整合性が取れないどころか、むしろ矛盾する性格をはらんでいる。

本来、車種の選択はユーザーに委ねられるべき事柄だ。EVへの過度な傾斜は消費者の豊かな生活の低下につながりかねない。

また欧州委員会は、EVの基幹部品である車載電池について、その生産から再利用までを実質的に域内のメーカーに限定させようと目論んでいる。いわゆる欧州バッテリー同盟(EBA)構想であるが、これにも問題がある。

現在、車載用バッテリーの多くが日中韓の企業によって供給されている。産業育成や経済安全保障といえば聞こえは良いが、EBA構想は日中間の企業をEU市場から排除しかねない側面がある。

いずれにせよ、EUの一連のEVシフト戦略は、形を変えた保護貿易を志向するものであると、諸外国から批判されても致し方がない性格を持つ。

米中市場からの「欧系メーカー排除」の懸念

EU域内の厳しい競争条件を域外にあえて輸出することで、域外の競争環境を改善する。つまりEU域内の厳しい気候変動対策に域外国をコミットさせることで、世界的な気候変動対策を促す。もちろん、そのうえでの技術覇権はEUが握る。

そうしたルールメーカーとしての復権に野心を燃やすEUだが、その目論見通りにコトが運ぶかはなお不透明だ。

最も憂慮される事態は、分厚い新車需要を抱える米中がEUへの対抗措置としてそれぞれ独自の規制を導入、市場から欧系メーカーを実質的に排除しようとする展開だ。

それこそ環境をタテにした貿易戦争が展開されることになる。もちろんこれは最悪のケースだが、程度の差はあれ、そうした方向に向かっていくおそれは否定できない。

この点に関しては、中国以上にアメリカの動きを注目すべきだろう。

バイデン民主党政権になり、EUとの関係は改善した。しかし、トランプ前大統領の支持者を中心に、アメリカでも保護主義的な考え方に理解を示す有権者は少なくない。

EUの試みに対する反対世論が盛り上がれば、アメリカでも与野党の立場を問わず対抗措置を模索する動きが強まりそうだ。

EUは本来、多国間協調を重視する。しかし現状のEUの立ち振る舞いは独善的ともいえ、平和裏な国際合意につながるとは考えにくい。

自動車産業は間違いなく日本を代表する産業だ。EV化が世界的な貿易紛争につながることを避けるために、日本は官民を挙げてEUに対し、これまで以上に強く訴えかけていくべきではないか。

(文・土田陽介)

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