なりふり構わぬ社会保障費の抑制−社会保障あれこれ vol.3

けあZine / 2014年11月17日 7時0分

来年度の介護報酬改定に向け、財政制度等審議会において財務省から思い切った提案が行われ、話題を呼んでいる。社会保障費抑制の既成事実化が進む文脈のなかで、介護保険もその例外ではないことが明らかになってきたといえよう。

既成事実化が進む社会保障費抑制

 昨今、社会保障に対する財政当局の締めつけがすさまじい。財務省は、安倍首相が本心ではやりたくないのではないかと推測される平成27年10月からの消費税率の10%への引上げを何としても実現するべく、そのことが不可避であることを国民に理解してもらうために、国もまた既にあらゆる努力を払っていることを示すために、あるいは万一消費税率の引き上げが延期された場合の財政的な痛手を少しでも減らすことなども考慮に入れて、社会保障改革国民会議や経済財政諮問会議などを周到に操りつつ、さまざまな社会保障抑制策の既成事実化を進めているようだ。

 実際、10月8日(水)の財政制度等審議会財政制度分科会に提出された財務省主計局資料を見てみると、大がかりなものからみみっちいものまで、生煮え・思いつきのようなものから昔から云っているお馴染みのものまで、制度的合理性のあるものから制度の経緯や論理を無視した筋悪のものまで、スローガンだけで実効的な方法を伴わないものから制度さえ変えれば確実に財政効果が上がるものまで、社会保障費抑制策の総ざらいと云ってよいほどの網羅振りである。
参考:財政制度分科会 資料1 社会保障1(総論、医療・介護、子育て支援) http://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia261008/01.pdf



 元来、財政当局は強固な壁として、予算要求する各省の前に立ちはだかったものであった。その壁は、単なる財政の論理にはとどまらず、わが国社会の基本的な在り方や各制度の論理も踏まえた部厚いもので、各省との政策論議にも中身があったように思う。だが特に最近、彼らが打ち出す抑制策のなかには国の負担を減らせるのであれば何でもよいといった、従来の制度を支えた論理など眼中にない、形振り構わぬものが増えてきたように感じる。しかし“社会保障費抑制策”も、小手先の財政対策ではなく、制度の論理をしっかり踏まえ、社会保障改革の見取り図のなかに正しく位置づけられるものでなければ、その傷口から病巣が拡がり、制度が壊れてしまうおそれがある。

 そういう観点も踏まえながら、本稿では、「社会保障1」と題された上記資料から介護保険部分を取り上げて見てみよう。

介護報酬の改定について

6%のマイナス改定の数字を今の段階で出す財務省の思惑

 介護保険については、まず、平成27年度の介護報酬改定について思い切った提案が示されている。財務省は、介護報酬本体の外枠で(介護報酬とは直接は関係しない)認知症対策をはじめとした医療介護連携の推進や新たな基金による施設整備の推進等を行うことを強調したうえで、介護職員の処遇の確実な改善(処遇改善加算の拡充)や在宅サービスの充実等を行いつつ、介護報酬の基本部分の適正化(▲6%程度)をし、全体としてマイナス改定を行い、国民負担の軽減に努めるべきと主張する。国民負担という言葉で保険料負担も含めているのであろうが、保険料負担をどうするかは各市町村の被保険者の判断によるべきものであり、国があれこれ云う筋合いのものではない。保険料についての被保険者の判断が決まれば、公費はそれに付き合うというのが制度の趣旨である。

 財務省が本当に国庫負担を抑制したいのであれば、保険料負担を引き合いに出すのではなく、率直に国庫負担を減らしたいというべきなのだ。それはともかく、財政審段階で▲6%と具体的数値を示すことは極めて異例であり、予算の全体像が決まらぬうちに一部の数値が出てくることには違和感を覚える。財務省の強い意思を読み取るべきだろう。

マイナス改定が続くと事業者が経営面で及び腰に

 介護報酬のマイナス改定は介護経営実態調査の結果、多くの事業で収支差がプラスとなっていることが根拠となっている。その調査の正確さについて議論があることはさておき、厚生労働省が、事業者の多くが収支差のプラス幅を増やした要因について分析することなしに、各年度の収支差を基本に介護報酬の改定幅を決める方式をそのまま続けているのは如何なものか。これまで介護報酬は2003、2006年とマイナス改定され、その結果として生じた介護職員の確保難等を考慮し、2009、2012年の2度にわたってプラスの改定が行われるという経緯を辿った。このような経験をした事業者にとっては、3年おきに行われる改定がプラスになるとは限らず、マイナスになる可能性があることを常に意識せざるを得ないだろう。

 さすれば、事業者は、マイナス改定になる場合も想定し、職員の給与改善も及び腰(せいぜい賞与対応)となるし、長期的観点から経営資源の投入を図ることも困難となることは容易に想像できる。せめて事業の種類ごとの収支差率と職員人件費比率の目安を示し、それによって介護報酬改定の引上げ/引下げのベクトルを決めるようなことでもしないと、事業者のビヘイビアは変わらないのではないか。例えば、職員人件費比率α%以上で、かつ、収支差率β%以下であればプラス改定するといった目安である。もちろん、財政当局も過去のマイナス改定の結果、介護職員の確保難を招き、補正予算で全額国費による介護職員処遇改善交付金を措置せざるを得なかった轍を踏むまいと、処遇改善加算による対応を強調してはいる。

 だが、それによって事業者に給与体系の見直しまで求めることができるのだろうか、それができなければ賞与対応で済ませるところも多いだろう。そもそも、職員の給与をどう支払うかは経営事項ではないか。

自由企業体制を否定しかねない個別的な政策介入が目につく

 これは小さな例に過ぎないが、最近の安倍政権の政策展開を見ていると、自由企業体制であるにもかかわらず、それを否定しかねない個別的な政策介入が目につく。首相自ら経営者団体に賃金引上げを要請したり、女性管理職の登用を促したりという類である。

 経営者がそうせざるを得ないような社会的枠組みを作るという政策はあるが、それを政府がストレートに経営者に求めることが採るべき“政策”なのだろうか。経営者の方もその見返りの措置を求めたり、責任を政府に押し付けたりするようでは、強靭な日本経済など再建できそうもないと思う。

 なお、財政当局の介護報酬抑制の理由づけの1つとされているのは社会福祉法人の内部留保であるが、財政審資料は、公費や保険料を原資として蓄積した内部留保については現に公費や保険料を充てて実施している事業(地域支援事業等)に限定して活用することが適当であり、これらの事業を社会貢献活動として法令上明確に位置づけるべきであるとトンチンカンなことを言っている。介護事業を行う営利企業において公費や保険料を財源とする介護報酬が蓄積すれば、それを配当に回す場合があるだろうが、財政当局の発想からすれば、それももったいないことであり、サービス事業者は地域支援事業の財源として市町村にそれを差し出すべきだということになるだろう。

社会福祉法人の内部留保の活用を、国がチェックするのはお門違い?

 社会福祉法人の内部留保の問題については、財政審とは別に、厚生労働省も10月20日、社会保障審議会福祉部会において内部留保の再投下計画なる仕組みを提案している。今頃になって内部留保と地域公益活動を結びつけるというのは財務省の差し金ではないかと勘繰りたくなるが、その提案によると内部留保のうち事業の継続に必要な財産以外の財産を計画的再投下対象財産と位置付け、地域ニーズに対応した新しいサービスの展開、人材への投資のほか、地域公益活動(これは社会福祉事業又は公益事業に包摂される)に投下するよう行政庁がチェック(再投下計画の承認)するのだという。

 だが、内部留保を解消した後、それらの社会福祉事業や公益事業の継続性は確保できるのだろうか。内部留保の投下内容について行政庁が指導したのち、社会福祉法人の経営が悪化した場合、行政庁はどう責任を取るのか。人材投資に充てると云っても一過性に終わってしまうのではないか。

 社会福祉法人が非営利法人である所以は、営利法人であれば可能な利益の配当ができない分を社会福祉事業の再生産に投下することを期待されているからであり、それを超えて地域公益活動の実施を強制される理由はない。何がしかの費用を伴う地域公益活動の実施が求められる根拠は社会福祉法人が、非営利法人であることに加え、公益法人として非課税とされていること(このこと自体、維持できるかどうかが問われているのだが)に求めるほかないのである。社会保障改革国民会議報告も非課税扱いに値する社会貢献という指摘をしていたではないか。

 内部留保の活用は社会福祉法人の判断と責任において行うべきであり、それを行政庁の承認に係らしめることは社会福祉法61条1項2号(国及び地方公共団体は、他の社会福祉事業を経営する者に対し、その自主性を重んじ、不当な関与を行わないこと)の趣旨に反するものである。このような提案に唯々諾々と従う社会福祉法人も情けないというほかない。

けあZine

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