なりふり構わぬ社会保障費の抑制−社会保障あれこれ vol.4

けあZine / 2014年11月19日 7時0分

前回に引き続き、今回は、介護保険給付の範囲について考えたい。

介護保険給付の範囲について

掃除、調理、配膳などはじめとする生活援助は誰でもできる?

 財政審資料は、介護報酬の改定のほかに、今後の検討課題として保険給付の範囲の見直しにも触れている。1つは訪問介護における生活援助である。

 財務省は、要介護1の者に対する訪問介護において生活援助のみの者は5割を超え、その内容は掃除や一般的な調理・配膳が多いとして、給付範囲を見直し、地域支援事業への移行を進めるべきであると主張する。掃除や調理・配膳は誰でもできるという前提(財政審委員は自ら家庭で掃除や調理・配膳をどれくらいやっているのだろうか)に立つものであり、家事労働の重要性に無理解であるとのジェンダー論者の反発を招きかねない発想である。

 このような発想は日本社会では根強いものであるが、だからこそ、要介護者の日常生活全般の基礎を支えるこれらの家事労働の重要性について、生活援助が行われたケースと行われなかったケースの推移を長期にわたってフォローし、その要介護度にどのような差が生じるかを調査・分析する必要があるだろう。生活援助の給付の在り方については、その結果に基づき科学的な議論が行われるべきなのだ。それなしに、要介護1の者への生活援助が無駄遣いだというのであれば、地域支援事業として行うことも無駄遣いということになるはずである。

残された予防給付の地域支援事業への移行、介護納付金の総報酬割なども検討すべきである?

 また、財政審資料は、訪問介護・通所介護以外の予防給付についても地域支援事業への移行や給付範囲の見直しを検討すべきであるとしている。予防給付の地域支援事業への移行については私も今まで何度か、権利性の剥奪や市町村の事務負担などの多くの問題があることを指摘してきたので、どうしても財政負担を減らしたいのであれば給付のままで支給限度額を引き下げる方がましであると云うにとどめ、ここでは繰り返さない。

 このほか、平成27年度介護報酬改定に合わせて多床室の室料を徴収することや、利用者負担のさらなる見直し(おそらく2割負担の範囲拡大か)も指摘されているほか、後期高齢者支援金や前期高齢者納付金で主張した総報酬割を介護納付金についても導入することを検討すべきであるとしている。介護納付金の総報酬割には、後期高齢者支援金の場合と同様、被用者のみを対象とするのは片手落ちであり、国保被保険者についても1/2総所得割にすべきではないかという疑問があるほか、介護納付金が2号保険料の束であり、特定疾病に関しては実際に見返りの給付もあるということをどう考えて、どう整理するかという問題があることを指摘しておこう。

在宅サービスの価格競争を促進するにはどうすべきか

 介護保険に関する新しい提案は、“在宅サービスについて事業者の自由な参入を引き続き認めていくことを前提とするのであれば、確実に価格競争が行われる仕組みを構築すべき”であるというものである。

 財務省は、営利企業の参入が進んでいるのに制度上認められた価格競争(介護報酬を下回る割引額でサービスを提供すること)が行われていないことを問題視し、それを促すためにケアプラン作成の際、ケアマネジャーに価格を考慮することを義務付けることとしたらどうかと提案する。介護保険創設時から価格競争が行われることが想定されていたことは確かであるが、事業者に割引を行うインセンティブをどう与えるかが問題であった。事業者が利用者獲得のために価格の割引を行っても、その分が支給限度額の範囲内でサービス利用量の増加により埋められてしまうのでは保険者にとってメリットはない。

 そこで、支給限度額内と限度額外の価格は同じでなければならないとして、保険者・事業者・利用者のいずれにもメリットがある場合に割引を容認することとされたのではなかったか。混合介護を通じたインセンティブである。ただ、ある民間事業者に聞いたところでは、国保連のシステム上、このような割引価格でのケアプランは予定されていないらしい(未確認)。本格的に価格競争を促すのであれば、ケアマネジャーへの価格考慮の義務付けだけではなく、システム上の対応も必要となると思われる。

居宅サービスにも参入制限が必要?

 なお、財務省資料が“在宅サービスについて事業者の自由な参入を引き続き認めるとすれば”と仮定形で書かれていることは意味深長である。財政審提出資料では、施設サービスは高齢化に応じて費用が増加するのに対し、居宅サービスは高齢者の状況と費用の間に相関関係が見られず、介護従事者数や事業所の定員数との相関が強いという従来とは逆の認識が示されており、そこから居宅サービスについても参入規制をすべきであると考えているようだからである。介護保険創設時、営利企業の参入に積極的だった財務省は今になって後悔しているのかもしれない。

 だが、居宅サービスについて介護従事者数や事業所の定員数との相関が強いというのは、要介護認定を受け、サービスを利用したいという者の数が多く、それをねらって進出した居宅サービス事業者がそのニーズを吸収しているだけではないのか。費用抑制の観点から居宅サービスの参入規制を導入した結果、多くの要介護認定者がサービスを利用できないということになれば、要介護認定が具体的な受給権を認めるものであるだけに、多くの被保険者は何のために介護保険料を払っているのかと怒りを覚えるに違いない。

社会保障費の抑制と制度の論理

 以上、財政審資料に示された社会保障の費用抑制策の一部を見て来たが、そのすべてが財務省の発想というわけではない。厳しい予算制約の中で厚生労働省の側から出されたアイデアもあるはずである。

 いずれであっても現下の財政状況からすれば、社会保障の費用抑制は避けて通れないと思われるが、その抑制策が制度の論理に反したものであると、そこからわが国の社会保障制度に罅(ひび)が入り、制度の崩壊につながらないとも限らない。いったん崩壊した社会保障制度を元のままに再建することはほとんど不可能である。そうならないよう、これらの社会保障抑制策についての議論をわれわれは注意深く見守っていく必要があるだろう。

けあZine

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