利用者の心が動いた訪問歯科

けあZine / 2014年12月26日 7時0分

諦めることが「老い」の特権のように思われがちだが、ひとりひとりの心の奥底にはみずみずしい感情がある。ちょっとしたきっかけで出てくるそのような思いに、人として、介護職として耳を傾けたい。

わがままは言わないって決めたけど

 「歯が治ったら……」Aさんが言った。「歯が治ったら、一番良い服を着て町に行きたい。お化粧もして指輪もはめて、髪も切って……」

 それはすてきですね。町へ行って何をしたいですか?

 「レストランで、ごはんを食べたい。自分で選んで好きなものを食べたい……。私はね、事故で怪我をしてから、いろんな事が出来なくなった。いくつも病院へ入院したし、あちこち手術もしたの。それで娘が世話をしてくれたんだけど、苦労をかけたなって思うから、わがままは言わないって決めたのよ」

私の変な歯でも何も言わずに「治しましょう」と言ってくれた

 「そのうち、歯も少しずつ悪くなって虫歯になったり、抜けたりした。だけど、もう外へ行くこともないし、誰かと出かけることもない。友達も来なくなっちゃったしね。だから歯なんか治さなくてもいいと思ってたのよ。お金もかかるし、娘に負担はかけられないでしょ。もう、歳も歳なんだしね……。外に出かけるときはマスクをすればいいでしょ」

 それなのに訪問してくれる歯医者さんに治してもらいたい、と思ったのはなぜですか?

 「ふふふ……。あのね、先生がちょっと亡くなった主人に似ていて優しそうだったの、私の変な歯でもね、何も言わないで『治しましょう』って言ってくれたのよ。治してもらってもいいかなっておもったのよ」

 こうして歯の治療が始まって4回目を迎えました。Aさんは訪問歯科の先生が来るのを心待ちにしています。

 「歯が入ったらすてきになりますよ」と言われたことを本当に嬉しそうに、デイのメンバーに内緒話をしていました。

昔のようにお出かけしてお買いものもしたい!

 「町へ行きたい……。もう何年も行っていない町へ行って、昔のように買い物をしたりデパートを見て歩いたりしたい。娘に何か買ってやりたい、孫におみやげを買ってやりたい、好きなものを自分で選んで、食べてみたい……。みなさんと同じように……」

 いつも静かなAさんですが、歯の治療が始まってからなんだか顔を上げているときが多くなりました。昔やっていた手仕事もデイのメンバーのために積極的に来年の干支の羊を作ってくれています。

 「歯を治す」事で、前向きな時間が過ごせるようになり、Aさんに希望が生まれました。Aさんのなかで封印されていた「歯がきれいだったときの生き生きとしていたあのころ」がよみがえってきたのですね。

 歯が治って歯並びの良くなったAさんの願いを一緒に実現していきます。

 Make a wish!

 歯が治ることは、身体のみならず心も健康になっていく……。

 Aさんのみずみずしい感情を引き出してくださった町田わかば歯科のみなさん、ありがとうございます。

けあZine

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