徹底的に磨き上げられた「普通」 レクサスES300hバージョンL 前篇【プレミアムカー定点観測試乗】

clicccar / 2019年8月17日 18時3分

■ ■色気はないが、価格相応の実力は備えた「しっかり者」

こんにちは、花嶋言成です。今回は「デジタルアウターミラー」の市販車世界初搭載でも注目される前輪駆動の大型サルーン、レクサスESを取り上げます。

「レクサスES」として初めて日本に投入されるこのモデルですが、まだレクサス・ブランドが日本になかったときにはほぼ同等の構成を持つ先祖モデルが「トヨタ・カムリプロミネント」「トヨタ・ウィンダム」として販売されていました。年に数十万台が売れる米国のベストセラー車トヨタ・カムリをベースに、静かなV6エンジンと豪華な革内装、シャープな外観を与えたのがポイントでした。現在もカムリと「GA-Kプラットフォーム」をESが共有することは変わりません。

1990年代、ウィンダムの現役時には、アメリカを舞台に撮影したTVコマーシャルが日本で盛んに流されました。ハイソなおじさんたちがステアリングを握って出てくるのは、左ハンドルのレクサスESだけで、最後に「レクサスES300、日本名・ウィンダム、誕生」とナレーションが入って終わる。今どきであればブランド・セパレーションという考え方もあって論外の構成ですが、当時はまだレクサスの日本導入前で、問題視されなかったのでしょう。

15年前、そのトヨタ・ウィンダムの最終型が336〜408.5万円だったのに対し、新しいESは580万円がスタートライン。今回試乗したES300hバージョンLは、車両本体698万円にオプション59万8320円が加わる仕様になっています。この価格帯では「ちょっとイイ車」というレベルで許されるわけもなく、レクサスのウェブサイトには、BMW 5シリーズ、アウディA6、メルセデスEクラスが比較対象モデルとして掲載されているわけですが、果たしてヨーロッパのライバルに比肩する実力を備えているのでしょうか。

●驚異的に広い後席が魅力のインテリア

ESのボディサイズは全長4975×全幅1865×全高1445mmと、同じレクサスでやや高い価格帯のGSをはっきり上回ります。しかも2.5L直列4気筒エンジンとはいえハイブリッド車となれば車体は重いと思いきや、装備充実のバージョンLでも1730kgと、かなり軽く仕上がっています。運動性能や燃費に期待が持てる反面、静粛性はどうかが気になるところです。

ホイールベースが2870mmと、このサイズの車としては短いのは前輪駆動レイアウトゆえのことでしょう。より小型のFF車とコンポーネンツを共用するためか、パワートレインからフロントのバルクヘッドが近いので、前車軸とフロントドアの間隔がほとんどなく、ボンネットだけが前にせり出したような独特のプロポーションになっています。後輪駆動ではないのですが、リアフェンダーはとても逞しく盛り上がり、LSあたりと共通の印象を醸し出そうとしているようです。

インテリアは、もちろんこの車唯一の「デジタルアウターミラー」のディスプレーがまず目に飛び込んできますが、それについては後篇で紹介するとして、後席空間の広大さがこの車の最大の特徴です。

身長172cmの筆者がドライビング・ポジションを合わせて、その背後の後席に収まると、ひざ前には27cmの空間が残ります。これは連載第2回で取材したアウディA8を3cm上回る数字で、A8のボディがESより20cm近く長い(全長5170mm)ことを考えれば驚異的と言っていいでしょう。これほど広いと立派な装備が付いていないと不安になるもので、後席センターアームレスト上のコントロールパネルや、リアドアのサンシェード、セミアニリン本革シートなどが備わるバージョンLを積極的に選びたくなります。

運転席は10Wayのパワーシートで、座面の角度や長さ、ランバーサポートの強さを変えることができ、ドライビング・ポジションにこだわる向きにはオススメできます。ハンドルが1cmほど左に寄って付いているのは残念なところです。

トランクの大きさも美点のひとつです。容量は445L、実測した奥行きは107cm、幅最大が162cm、高さは41cm。かつてハイブリッド車といえば走行用バッテリーのスペースにトランク容量が食われるのが当たり前でしたが、このレクサスESではその形跡がありません。

●穏やかだけれどしっかり、なパワートレインと足回り

レクサスESをいつものコースに連れていきます。スタートしてしばらく走らせているだけで、この車はひたすら、心穏やかにあるために作られたのだな、ということがじわじわと伝わってきます。

パワートレインはノーマルモードで走る限り、本当に穏やかにモーター(88kW/120ps)とエンジン(131kW/178ps)のトルクを供給します。操舵のレスポンスはねっとりと、FF車らしさを隠そうともしていません。シャープさはないけれども、ステアリング関連機構のがっしりした感じはちゃんと伝わってきます。路上の突起の処理は、衝撃を無理やり抑え込む感じではなく、タイヤがごくゆっくり上下する状況でも減衰力を発揮する「スウィングバルブショックアブソーバー」という新しい機構のカヤバ製ダンパーが、うまく突起を乗り越えていなしてくれます。

いつもの場所でダブルレーンチェンジを試みると、操舵からタイミングが遅れてヨッコイショという感じで車体が動いていくのはこのサイズのサルーンゆえ仕方ないとして、元々の車体の軽さとハイブリッド車ゆえの前後重量配分の良さ(後軸上に走行用バッテリーが積まれている)から、前後輪に対する荷重のかかり方のバランスが取れていて、不安定な状況に陥りにくいように感じられました。

都市高速に入り、スポーツモードにしてアクセルペダルを深く踏み込んでみましょう。おなじみ動力分割機構を用いたハイブリッド・パワートレインは、エンジンを6000rpm近くまで回して段階変速的なシフトを披露する、意外とスポーティな仕立てになっています。スピードを高めたシーンでも、直進性はかなり良好です。なめらかなステアリング操作に徹する限りでは、サスペンションがちゃんと操舵に追従して動くべき方向に動いてくれます。

●1日500kmもまったく苦でない高速巡航快適性

続いて今回はレクサスESの長所をじっくり味わうべく、ゆったりとロング・クルージングしてみることにしました。

前述の「スウィングバルブショックアブソーバー」にボディの振動を抑える前後の「パフォーマンスダンパー」を組み合わせた足回りは、路面の起伏の存在を確実に乗員に教えてくれるものの、それぞれをうまく丸めて包み込む乗り心地のよさを実現しています。

一部のエアサスペンション、アクティブサスペンションのような、起伏自体を隠してしまうような乗り心地とは、良し悪しの問題ではなく種類が違うと思いました。高級車然というよりは、あくまで実用車の延長上にあります。路上から伝わる情報量が確保されているために、安定して速いペースを保つことも可能です。

適切なポジションを選べるドライビング・シートはとても疲れにくく、静粛性の面では、全車標準の「アクティブノイズコントロール」やバージョンL専用の「ノイズリダクションアルミホイール」が効果を発揮しているようです。マークレビンソンのオーディオシステムも、デジタル音源に適したサラウンド音場を提供してくれます。

快適性に水を差す要素を挙げるとすれば、ブレーキシステムの電動ブースターが定期的に唸り音を伝えてくることでしょう。ブレーキ自体はよく効くし、回生ブレーキとの協調も巧妙なのですが、コクピットの前のあたりから、ブレーキング時と停止後に電気モーターが加圧する音が響いてきます。助手席からもこの音は聞こえるそうです。

このロングクルージングを含む538.6kmの燃費は、何も遠慮せず好きに走らせても17.9km/Lに及びました。ちょっと気を遣ってやれば20km/L、50Lの燃料タンクで航続1000kmは簡単に達成できるのではないでしょうか。これほど快適でパワーにもハンドリングにも不足のない車が、これほど良好な実燃費を記録することには驚かされます。

●実用車のひとつの究極形

実用車のプラットフォームをベースに機能性を徹底的に磨き上げて、アメリカのスタンダード車をベースとするがゆえの豊かな室内空間を組み合わせたレクサスES。かつてのウィンダムや、カムリ、アバロンといったトヨタ製の大型セダンに好感を抱いていて、FFのキャデラック・セビルSLSをしばらく日常の足にしていたこともある筆者の趣味に、このクルマはかなりフィットしました。

特別な仕掛けのサスペンションや素晴らしい多気筒エンジンは備わらず、それゆえ高級車ならではの色気は感じないものの、徹底した作り込みにより結果として価格相応の実力を身に着けている。人間同士の実社会でも、一般家庭の出身ながら努力で上り詰めた「しっかり者」には安定した需要があるように思います。

(花嶋言成)

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