坂東玉三郎が語るシネマ歌舞伎『幽玄』太鼓芸能集団・鼓童と共演 美の極致へ

CREA WEB / 2019年9月20日 12時0分

能と歌舞伎と和太鼓が融合
これまでにない芸術作品に


2019年9月27日(金)より公開されるシネマ歌舞伎 特別篇『幽玄』。演目のひとつ『道成寺』では、玉三郎さん演じる白拍子が羯鼓(かっこ/腰につけて撥で打つ鼓のこと)を打つ。

 歌舞伎の舞台公演を映像で楽しむ「シネマ歌舞伎」の新作は、2017年に博多座で上演された『幽玄』を収録したもの。

 歌舞伎界の至宝である坂東玉三郎さんが、かつて芸術監督を務めた太鼓芸能集団の「鼓童」と共演した待望の作品である。


同じく『道成寺』より。烏帽子をつけて、中啓を持って白拍子の舞を舞う場面。

 玉三郎さんは、能楽と歌舞伎という日本の伝統芸能と、和太鼓を中心に創作活動に取り組んで新境地を拓いてきた鼓童を融合させ、この新作をこれまでにない芸術作品として完成させた。

 イントロダクションとして収録されているシネマ歌舞伎のための特別映像では、玉三郎さんの言葉でその過程や作品への思いが語られている。


『道成寺』より。烏帽子をつけた白拍子と背後には桶太鼓を演奏する鼓童のメンバーたち。演奏はもちろん、美しいフォーメーションを描く様子も見応えあり。

 自身が主演として舞台に立つだけでなく、演出、映像の編集、監修まで手がけ、その才能と培った知識と経験を惜しみなく注いだ。まさに、表現者としての集大成ともいえる作品なのだ。

お客さまには“幽玄の味”を
楽しんでいただきたい

 今回の題材として選んだのは、能の代表的な演目である『羽衣』『石橋』、そして『道成寺』である。その理由はいかなるものだろうか。


2019年7月、都内某所にて取材会が行われた。(撮影:谷内俊文)

「幽玄とは、世阿弥が能楽論で唱えた概念です。『羽衣』はまさに幽玄物であり、『石橋』も精霊の獅子が石橋を渡ることから、幽玄物とされていたそうです。さらに歌舞伎としても人気演目である『道成寺』を加えて構成しました。


『石橋』の後シテ(作品の後半の主役)。中央にある紫色の山台の上にいるのが玉三郎さんが演じる獅子の精。能や歌舞伎よりも後シテの人数が多く、この人数で行われる毛振りは圧巻だ。

 タイトルである幽玄は、英語のファンタジーとも、ドリームとも訳せない独特の世界観なので、お客さまにはこの“幽玄の味”を楽しんでいただきたいです。

 それは、通りすがりの方がご覧になったときに“あれ?”と思っていただけるようなもの。幽玄という言葉自体が、その要素をはらんでいますね。

 世阿弥は、普遍的であると同時に、“あれ?”と思わせながらも、探求していくと切りがない演劇的哲学者だと思います。

 能であれ、歌舞伎であれ、日本舞踊であれ、和太鼓であれ、それらはすべて日本の文化のエッセンスがちりばめられたものです。これらを通して、全体をご覧になったときに、幽玄という世界観に浸っていただければと思いました」

静から動へ
演劇的なカタルシスを


『幽玄』では玉三郎さん自ら映像編集にあたった。「和太鼓の音を再現するのは非常に難しかった」と、映像ならではの苦労もあったという。(撮影:谷内俊文)

 これまでの鼓童との創作活動で、玉三郎さんはいろんな試みを続けてきた。和太鼓の演奏の面では、どのようにして観客を魅了するのか。舞台作りと映像化する上での工夫についても伺った。

「本作は二部構成になっていて、一部は“静”で、二部は“動”としました。和太鼓はそのほとんどが四拍子なのですが、笛以外にはメロディがないので、曲のバリエーションはありません。

 そこで、今回は能楽の四拍子(しびょうし)を取り入れました。能は削り取ってできたものなので、過剰になってしまう和太鼓をどのくらい削り取ることができるかという一つの試みをしたのです。

 一部の『羽衣』では締太鼓だけを使って、能楽堂よりも広い劇場を想定し、人数を増やしてボリュームを出しました。締太鼓のほかには鈴とウィンドチャイムがあるだけというシンプルな構成です。


『羽衣』。幻想的な天女の姿で舞う玉三郎さん。

 締太鼓を静かに叩くことから始まり、強打するのをどれだけ我慢できるかが一つの課題でした。太鼓を叩くと空気が振動するので、身体の循環がよくなって気持ちも高揚するのですが、それをひたすら我慢させる。能楽こそが、そういう演劇なんです。

 一時間後の後シテのところにピークがくるから盛り上がる。聴き手を退屈させずに、どんな世界へ誘うかが我々に与えられた課題です。

 それはクラシック音楽でも、歌舞伎でも同じで、お客さまがどのようなリズムを期待しているのか、どんな演劇的なカタルシスを求めているのかをよく理解した上で、こちらがそれを創っていけばいいと思います」

 能や歌舞伎を知らなくてもいい。玉三郎さんが創り上げた世界へ一歩踏み出しさえすれば、味わい、体感することができる作品なのである。

シネマ歌舞伎 特別篇『幽玄』

2019年9月27日(金)より全国公開
https://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/lineup/41/

文=山下シオン
写真=岡本隆史、谷内俊文

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング