「東京五輪はその後が大事なんです」 星野代表が語る星野リゾート2020

CREA WEB / 2020年1月2日 8時0分


星野佳路(ほしの よしはる)。1960年、長野県軽井沢に生まれる。慶應義塾大学経済学部卒業後、米コーネル大学ホテル経営大学院修士課程に進む。1991年に星野温泉の社長(現・星野リゾート 代表)に就任する。

 若者向けに価格を設定したブランド「BEB」、ハワイへの進出、そして多くの外国人観光客の来日が予想される東京オリンピック・パラリンピックに向けての取り組み──。

 いまの星野リゾートは話題満載で、聞いてみたいこともたくさん。気になるところを、星野佳路代表にうかがった。


旅に出ない若者は、旅行に
何を求めているのか?


BEB5軽井沢。2019年2月に開業。宿泊者全員が35歳以下であれば1室 15,000円、3人なら1人あたり5,000円で宿泊できる「35歳以下エコひいきプラン」で話題を集めた。

 星野リゾートの取り組みでまず注目したいのが、「宿泊者全員が35歳以下なら1室 12,000円、3人で泊まれば1人4,000円」というリーズナブルな価格設定のBEB5土浦が2020年3月19日(木)にオープンすること。

 BEBブランドは、星野リゾート内で、星のや、リゾナーレ、界、OMOに続く5番目のブランド。「居酒屋以上 旅未満 仲間とルーズに過ごすホテル」がコンセプトで、すでに2019年にBEB5軽井沢がオープンしている。

 BEBブランドに力を入れるのは、若い人が旅に出ない傾向にあることへの危機感の表れかと尋ねると、星野佳路代表は「確かに、20代の人たちの旅への参加率は20年前より少し減少しています」と前置きしてから、次のように語った。

「そういう状況に対してインパクトを与えるほどの規模や力が私たちにあるとは思っていません。

 ただ、10年後、20年後の星野リゾートを考えた時に、いまの若い方々に星野リゾートのファンになってほしいという思いはあります。

 将来、結婚して子どもができた時にはリゾナーレや温泉旅館を選択肢に入れてもらえるように、早い段階で楽しい旅を経験していただくことが、BEBブランドをスタートした大きな目的です」


BEB5土浦は2020年3月オープン予定。写真は、パブリックスペース「TAMARIBA」のイメージ画像。BEB5軽井沢では、「TAMARIBA」で仲間とゆったり過ごす方の姿が目立ったという。BEB5土浦は、サイクリングホテルとして、自転車で旅が楽しめる「輪泊」をテーマに据える。

 そして、20代、30代の人々の旅行に関する市場調査を行ったところ、面白い事実がわかったという。

「意外と旅先での出会いは求めていないようですね。有名な観光地への憧れもそれほどないようです。では何がしたいかというと、気の合う仲間と楽しい時間を過ごしたいというニーズが一番大きい。

 居酒屋に行ったり休日に一緒に遊ぶことがそれにあたるわけですが、彼、彼女たちが求めていることと旅は親和性が高いんじゃないかと思いました。旅なら、仲間と一緒に長い時間を過ごせるわけですから」

星野代表が実感する
女性旅のトレンド


女性の一人旅が多いという星のや竹富島。のんびりと海を眺める、贅沢な過ごし方をする人が多いという。ほかにも、離島は一人旅が多い傾向にあるという。

 旅への意識ということだと、最近は「女性の一人旅」の企画が人気を集めている。そのあたりの変化を星野リゾートはどのように受け止めているのだろうか。

「星のや竹富島は女性の一人旅が多くて、みなさんゆったりと海を眺めているそうです。星のや京都も一人旅が多いので、一人用の部屋やプランを用意しています。

 やはり30代、40代の女性は情報感度が高いので、彼女たちを見ていると将来のトレンドが見えてくるんですね。

 だから、部屋の単価が下がる一人旅を嫌がるところも多いんですが、私たちは新しいサービスや商品を提供しようと取り組んでいます」


星のや京都では、一人旅用の部屋やプランを用意する。写真はライブラリー。同行者に気兼ねすることなく、自分の時間を自由に楽しむ。

ライバルの多い北米市場には
意外なホテル形態で進出

 星野リゾートの将来を考えるにあたって大きなテーマとなるのは海外進出で、現在は台湾とインドネシア(バリ島)で星のやを展開している。

 そして2020年1月15日(水)にはハワイ・ホノルルで、既存のホテルのリニューアルオープンという形でサーフジャック ハワイの運営をスタートする。


サーフジャック ハワイ(The Surfjack Hotel & Swim Club)。星野リゾートが初めてアメリカに進出する。オアフ島のワイキキの中心地という利便性の高い立地。1960年代のレトロなハワイをベースにした、モダンなつくりのホテルだ。

「海外での事業をスタートして、たとえば1人のスタッフがさまざまな業務をマスターするマルチタスクなど、私たちの運営スタイルは海外でも通用することがわかりました。

 一方で、人事評価や予約時の為替の問題など、考え方を変えなければいけない点もありました。いずれにしても、海外に出たからこそわかったことで、行かないと学ぶことができないと感じています。

 北米は、星野リゾートとして絶対に進出しなければいけない場所です。北米で運営する力をつけるためにも、まずハワイでしっかりやりたいと思っています」

 年間約1,000万人弱が訪れるハワイは、世界有数の観光地。さまざまなタイプのホテルが林立する激戦区をあえて選んだ理由は何だろう?

「まず日本人がたくさん訪れる場所であるという理由がひとつです。

 もうひとつ、アメリカ本土から日本の星野リゾートにたくさんのお客さんが来ていますが、そこで関係を築いたエージェントも多い。

 したがって日本とアメリカからの集客が見込めるわけで、運営は比較的やりやすいと考えています」


サーフジャック ハワイは、ワイキキのビーチやショッピングエリアから徒歩圏内に位置する。DJが懐かしいヒット曲をかけるパーティー、ハワイアンカルチャーのワークショップなどで客をもてなす。

実は北米には
1,200カ所もの温泉がある

 ではハワイがうまくいったと仮定すると、その先の北米進出の形はどのようなものになるのだろうか?

「日本旅館、願わくば温泉旅館を北米で運営したいと思っています。実は北米には1,200カ所もの温泉がありますが、温泉が噴き上げている様子を写真に撮っておしまいで、うまく活用しているとは思えません。

 一方で日本にお見えになる欧米のお客様は、みなさん日本の温泉文化を気に入ってくださって、裸になってお湯に浸かるのが野蛮でイヤなんて言う人はいません。

 私が北米に留学していた1980年代はだれも生魚なんか食べなかったのですが、いまや世界中に寿司屋があります。

 寿司の文化が世界中に認められたように、日本旅館として海外に進出することが、日本の旅行会社らしい取り組みだと考えています」


星野リゾートの温泉旅館ブランド「界」では、現代人のライフスタイルにフィットした「うるはし現代湯治」を全施設で展開。温泉になじみのない海外観光客も気軽に温泉を楽しめるように、イラストで入浴法を解説する「現代湯治ガイドブック」を全客室に置いている。

東京オリンピックの後が
なんといっても大事

 東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年は、海外からたくさんの方が日本を訪れることになるはずだ。そのための特別な企画などを考えてはいるのだろうか。

「2019年のラグビーワールドカップは約40日間でしたが、オリンピックはパラリンピックと合わせても30日程度と短い期間なんです。

 だからそのためだけに何かをやるというよりも、その後の準備が大事だと社員には言っています。

 需要があるから価格を高くして儲けようというのではなく、イベントがなくても日本に来たいと思っていただけるように日本の魅力を伝えていくことに力を入れたいですね」


OMO5 東京大塚。OMOブランドのコンセプトは、「部屋」ではなく「旅」を提供すること。街と連携して都市観光を提供することで、旅のテンションを上げるホテルを目指す。

 そして星野氏は、その一例としてOMO5 東京大塚でのアイデアを紹介してくれた。

「OMO5 東京大塚では総支配人を中心に、オリンピック期間中は卓球をテーマにしようと話し合っています。

 いろいろと企画があがっていますが、各フロアに卓球台を置いて毎日トーナメントをやったり、ホテル全体を卓球ミュージアムにしたり、駅前の広場でイベントをやったりするなんていうアイデアが出ています。

 卓球に興味がある人に泊まっていただければ、宿泊者同士の交流も盛んになるでしょうし、いいアプローチだと思っています」

 星野氏のお話で印象的なのは、東京オリンピック・パラリンピックを“かき入れ時”だと捉えていない点だ。

「普段から気をつけていることは、中長期的な会社の競争力を大事に考えようということです。

 今月は目標の売り上げを何%上回ったとかを気にするよりも、オリパラの30日間にやったことが将来につながることが大事。

 あの人たちはおもしろいことをやっているな、と思っていただくことが大切ですね」

海外観光客に1カ所だけ
薦めるとしたら?

 最後に、東京オリンピック見物で初めて日本に来た海外の方を、1カ所だけ星野リゾートの施設に案内するとしたらどこがいいか、と尋ねてみた。

「難しいですね……。個人的には、福島にある『星野リゾート アルツ磐梯』ですね。風評被害もあって、海外の方がなかなか福島に来てくれない現状があります。

 でも福島は東北の入り口ですから、福島に人が来てくれれば東北の観光全体が盛り上がる。磐梯は紅葉の聖地ですしスキーをするにもいい。ぜひ、福島のイメージを上げたいと思います」


アルツ磐梯は、磐梯山、猫魔ヶ岳、厩岳山の3つの山にまたがり、全25のコースを擁する国内有数の規模を誇るスキーリゾート。初心者からエキスパートまで、だれもがスキー、スノーボードを満喫することができる。写真は最新モデルのレンタルも行うリゾートセンター。

 星野氏の話をうかがって感じるのは、低価格路線や海外進出など、常に新しい取り組みを行っていることだ。同じ場所に留まらず常に変化を続ける星野リゾートは、旅行ビジネス界を旅しているのだ。

 もうひとつ、星野リゾートのファンを増やしたいということはもちろん、旅行のファンを増やしたいという思いも伝わってくる。

 目先の利益ではなく旅の楽しさを発信することに力を入れれば、それが巡り巡って自社の顧客になる。

 星野氏の「中長期的な会社の競争力が大事」という言葉に、なるほどと納得したインタビューだった。

文=サトータケシ

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