ジャルジャル福徳が初の恋愛小説に挑戦 「自分をさらけ出して書きました」
CREA WEB / 2020年11月15日 20時0分
4年の歳月をかけて小説家デビューを果たした

お笑いコンビ・ジャルジャルの福徳秀介さんによる初の恋愛小説『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』が2020年11月11日(水)に発売された。
約8000本という圧倒的なネタ数の多さで知られ、先に開催されたコントNo.1を決定する賞レース「キングオブコント2020」で初優勝を果たした実力派コント師・ジャルジャル。
過去にも絵本『なかよしっぱな』で物語を構成したことのある福徳さんが、初の長編小説の題材として選んだのは、ピュアなラブストーリー。
小学生の頃、父親からのある質問をきっかけに、恋愛小説ばかりを読むようになったという福徳さんに、4年の年月をかけた執筆への思い、人を好きになることの魅力などについて伺った。
自らをさらけ出すのが苦手ながら、「今作ではすべてをさらけ出せた」。「人間味がない」と評される自身への葛藤、好意が及ぼす他者への優しさなど、はにかみながら静かに語ってくれた。
父から言われた言葉で、恋愛に興味を持った

――恋愛小説を読み始めたのは、お父様の言葉がきっかけだったそうですね。
小学生の頃に「好きな子おるんか?」と聞かれたんです。返事を濁していたら、「濁すってことはおるってことやな。ほんまにその子のこと好きなんか? 本気なんか? ちゃんと好きでいとけよ」って言われて。
そのときは適当に答えたんですけど、ほんまに一生好きなんかな? ってふと思ったんです。
結局、中学生になったときにはその子のことは好きじゃなくなって、やっぱり一生好きちゃうかったなと反省しました。
そのあとに出会った映画『耳をすませば』で主人公の月島雫に天沢聖司がプロポーズするシーンで、“彼は一生、好きな相手に中学生で出会ったんや”と思ったときに、また父親から言われた言葉が僕の中に響いてきて。
そこから恋愛に興味を示すようになって、恋愛小説ばかり読むようになったんです。

――恋愛小説を読むようになって、恋愛そのものへの解釈はどうなっていくんですか?
街を歩いていてもたくさんのカップルとすれ違いますけど、そのすべてに物語があって、みんなそれぞれに悩んでいて、焼きもちをやいている。
それが素敵で単純に面白いなと思うようになりました。
恋愛って、時代によって左右されへんもの。だからおもろい

――それぞれのカップルの物語を想像するんですね。
そうですね。フラれるかもしれないと不安に思いながら、付き合ってるカップルって多いじゃないですか。
やから、“このカップルは、どっちがそういう不安を抱えてるんやろう?”って考えることが多いかもしれないですね。
特に学生の恋愛は長く続かないことがわかっているので、いずれは別れるという目線で眺めながら、所作のひとつひとつから感情を読み取ることはよくしています。
――「ずっと好きでいるか?」というお父様の問いに対しての答えは見つかりましたか?
中学時代に付き合った人と結婚する場合もありますけど、それってごく稀じゃないですか。
基本、難しいことだとわかったので、学生時代の恋愛は最高の相手を見つけるためのものなのかなと。数々の恋愛を通してたくさん失敗したり、アホみたいに悩んだりしながら経験を積んでいくことなのかなと思いました。
恋愛って、時代によって左右されへんものじゃないですか。どの世代でも中学生くらいになったら異性に興味を持ち始めて、異性に抱くこの気持ちはなんだ? と考え始める。
スマホが普及しようが、結局は同じようなことで悩んでいる。そういうところがおもろいですよね。

――好意という実態のない感情に振り回されるわけですもんね。
例えば、愛想の悪い店員さんに遭遇したとしても、僕は“あぁ、この人も恋愛で胸を痛めたことがあるんやなぁ”と。
好きな人に対して心がギュッとなる経験をしたことがあるんやなぁと思うだけで、急激にその人がかわいく見えて、すべて許せてしまう。恋愛には、そういう力があると思っています。
恋愛100%の物語を書こうとしていたのに、そこから95%変わりました(笑)

――では、恋愛小説の中で好きな作品やジャンルはありますか?
森見登美彦さんの『夜は短し歩けよ乙女』が好きですね。
物語の舞台となっている場所が、ほんまに実在する恋愛小説が好きで、この小説の舞台となった場所にもあちこち行きました。
京都・祇園花月の出番があるんで、未だに(休憩時間には)よう行ってますよ。

――福徳さんの小説にも実在する場所が出てきますが、ご自身がそういうものが好きだから盛り込まれたということですか。
それはまったくの偶然です。
背景が定まり切らなくなったときに、自分が通っていた大学を舞台にしようと思いついて、自分の経験を通して感じたことを登場人物に取り入れたという感じですね。

――書き始めた当初は、恋愛100%の物語だったそうですね。
そこから95%変わりました(笑)。最初は、恋愛映画を観て恋愛に奮闘する大学生の話やったんです。
けど、編集の方を交えて何回も改稿を重ねていくうちに、じわじわと内容が変わっていって、執筆から2年半ほど経ったある日、6万字くらい削除されてしまった。
そこから2日間くらいは何も書けなくて、いわゆるペンが止まったという状態になってしまったんですけど、ひとつの展開――好きな子が待ち合わせの場所に来なかった――を試しに入れてみたら、内容が膨らんで失った文字数分、復活させることができました。
できないだけで、本当は自分をさらけ出したいです

――小説って内面をえぐるような作業を重ねるもの。自分自身をさらけ出すのが苦手だとよく話されている福徳さんが、小説を書くことに行き着いたのはどんな理由からだったんですか?
自分をさらけ出すつもりは、一切なかったんです。
最初はほんまに作り話として書き始めて、月刊誌『マンスリーよしもとPLUS』という雑誌で恋愛ショートストーリーの連載をやっていた流れでいけるかなぁと思って長編を書き始めたんですけど、短編と違って、長編は自分の中身を出さんと書かれへんってことに気付いて。
あと、6万字削除されたことで失った分を取り返さなあかんっていう焦りから、脳みそからアイデアを絞り出した結果、さらけ出すことになっていました。
――やめようとは思わなかったんですか?
何度か思いました。めちゃくちゃ抵抗はありましたけど、その展開で1回、編集の方に提出したら「いいじゃないですか」って前向きな反応をもらえたので、このまま書き進めてもいいんじゃないかなと思ったんです。
まぁ、知人以外に読まれる分には気にしてません。知人に読まれると思うと恥ずかしいなとは、つくづく思いますけどね。

――普段、自分自身をさらけ出さないのはなぜなんですか。
いやいや……できないだけで、本当はさらけ出したいです。
感情剥き出しの人が羨ましくもありますけど、根本的に全員が自分のことを見てるんちゃうかっていう謎の恥ずかしさがあって……自意識過剰に陥ってるのかもしれないですね。
――本著では主人公に対して、バイト仲間がある弁解を行うシーンがあります。何ページにも及ぶあの言葉の数々から、福徳さんはこういう人だと決め付けられることを好ましく思っていないのかなと。球体のようにさまざまな角度を持つ人間性をたったひとつに限定されるのが苦手だから、敢えて人間味を出さないようにしているのかもしれないとも感じました。
それで言うと、僕は一面すら見せられてへん気はしてます。
普段(ジャルジャルとして)やっているコントは人間性に覆い被せているような外側を見せているもので、内面に関してはひとつも周りに見せられてないんじゃないかなって。
それに、自分のことをさらけ出されへんっていうところ自体が、その人の一面であるとも思うんですよ。
……よく言われるんですよね、人間味がないとか何考えてるんかわからんとか。ロボットやと言われたこともあります。
けど、僕からすると、自分をさらけ出せる人のほうがむしろ美しい人間でありすぎて、ロボットのようやなと思うんです。
まぁ、ロボットも博士が愛情込めて作ったもので、愛はあるはずなので、さらけ出せる人もさらけ出せない人もどっちも正しいと思ってます。
次作も恋愛要素を入れたい。すべては恋愛のおかげ、という気持ちがある

――物語を通して精神的な純愛に徹していますが、純粋であることは意識していたんですか?
それは意図してやったことです。
僕自身、そういう話が単純に好きですし、読後感を大事にしたかったので、爽やかなまま終わることを意識しました。
――物語の結末を、あんなふうにしたのは?
登場人物のふたりがこうなったっていう結末を、ちゃんと描きたかっただけですね。

――今後も小説は書き続けますか?
書きたい題材はあります。(完成までに)4年かかったので、次回取り掛かるとなると6年くらいかかってしまいそうですけど、やるからには本気でやらなあかんと思っているので、時間をかけてたっぷりと書きたいですね。
もちろん、次も恋愛要素は必ず入れたいと思っています。すべては恋愛のおかげ、という気持ちがあるので。
人を好きになる気持ちを大事にして欲しい

――恋愛とは人生を左右するほど大切なものだと。ただ、最近、恋愛しない人が増えてると言われています。
ほんまに人を好きになったことがないとか、人を好きにならないっていう人がいるって、確かに聞きますよね。
もちろん、それでもいいと思います。ただ、今そう思っている人にも、必ず好きな人に出会うときが来るはずです。
そういう人と出会ったとき、自分がどう変わってしまうのか。人を好きにならんとか大口叩かんほうがいいぞ、と。
「あんなこと言ってたわ、俺」って人を好きになってから後悔するから、と言いたいですね。
――人に与える恋愛の影響は大きいと。
圧倒的です。嘘みたいに夢中になって、服も買いに行くから。買いに行く店も気にするようになるから。絶対に髪型も気にするようになるから、って。
人を好きになる気持ちを大事にして欲しいですね。

福徳秀介(ふくとく しゅうすけ)
1983年10月5日生まれ、兵庫県出身。関西大学文学部卒。2003年に同じ高校の後藤淳平とお笑いコンビ「ジャルジャル」を結成。20年「キングオブコント2020」で優勝を果たす。絵本『まくらのまーくん』(タリーズコーヒージャパン)『なかよしっぱな』(小学館)では、いとこの北村絵里さんが絵を、福徳さんが文を担当。公式YouTubeチャンネル「ジャルジャルタワー」では、毎日ネタを投稿。新YouTubeチャンネル「ジャルジャルアイランド」ではさらにパワーアップしたネタを配信している。本作品『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』(小学館)が小説デビュー作となる。
JARUJARUTOWER https://jarujaru.com/
[ジャルジャル公式YouTubeチャンネル]
ジャルジャルタワー https://www.youtube.com/user/comtekaigi
ジャルジャルアイランド https://www.youtube.com/channel/UCf-wG6PlxW7rpixx1tmODJw
『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』

福徳秀介 小学館 1,500円
大学2年生の僕は、入学前に憧れていた大学生活とはほど遠い、冴えない毎日を送っていた。日傘をさしていつも人目を避け、青春を謳歌しているグループを妬ましく思う。友人はひとり。銭湯掃除のバイトと孤独な大学生活だけの毎日。ある日、大教室で学生の輪を嫌うように席を立つ凜とした女子に出会う。その姿が心に焼き付いた僕は、次第に深く強く彼女に惹かれていく。やっとの思いで近づき、初デートにも成功し、これからの楽しい日々を思い描いていたのだが……。ピュアで繊細な「僕」が初めて深く愛した彼女への想いは実るのか。そして、僕の人生の、その先は……。
文=高本亜紀
撮影=平松一聖
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