話題の“ウチカレ”は母娘関係に注目 北川悦吏子の真骨頂は実は友情物語!?

CREA WEB / 2021年1月28日 19時0分

 菅野美穂主演の連続ドラマ“ウチカレ”こと「ウチの娘は、彼氏が出来ない!!」がなかなかおもしろい。ドラマは、NHKの連続テレビ小説「半分、青い。」(18年上半期)などを手がけた北川悦吏子脚本のオリジナル作品。

 実は放送前、タイトルを知ったときは少しギョッとしました……。娘の恋愛事情を毒親のように危惧し、恋愛を強要する毒親の話……? これ、古い価値観てんこ盛りの作品なのでは……? と。

 しかし! 実際放送が始まってみるとそれは間違いで、タイトル以上の豊かな広がりのある作品であることがすぐ分かりました。恋愛しない人生が肯定される時代であっても、もちろん恋愛をしてもいいし、ラブストーリーというジャンルの存在価値はまだまだある。そのわけを、同ドラマと過去の北川悦吏子ドラマを掘り下げながら考えてみました。


菅野美穂と浜辺美波がトモダチ親子に


「ウチの娘は、彼氏が出来ない!!」オフィシャルブログより。

 本作は「働きマン」(07年)、「キイナ〜不可能犯罪捜査官〜」(09年)、「曲げられない女」(10年)で水曜10時枠の主演を張ってきた菅野美穂と、昨年「私たちはどうかしている」(20年)で同枠初主演を果たした浜辺美波が母娘役で共演。

 水曜10時に放送される日本テレビ系「水曜ドラマ」は、週の真ん中に元気を与えてくれる、“働く女性”をターゲットにした作品が多い枠。そこで実績のある菅野美穂と、新星の浜辺美波、このタッグが見られるのはとても嬉しい限りです!

 まずドラマのイントロダクションを簡単に説明すると、「恋愛小説家の母・水無瀬碧(菅野美穂)と、しっかり者の“オタク”の娘・空(浜辺美波)のそれぞれの恋愛模様を描くラブストーリー」となっています。

 2人は隠し事なく話ができ、腕を組んで歩ける、いわゆるトモダチ親子のような関係性。文部科学省の調査では、現在友達のような母親でいたい親というのは83.2%にのぼっているので、これは今のリアルな理想を叶えた設定のよう。

 しかしトモダチ親子という存在は、過干渉になる母娘の共依存関係の問題をはらんでいるので、現実は賛否が分かれるところ。なぜなら母親が子どもを自分の支配下に置いてコントロールすることもあるから……。

 ただ今回ドラマを観る限りでは、2人はお互いに自分の価値観をしっかり持っていて、同じ目線で言い合える良好な関係性を築いているよう。母が娘のことを「君」と呼ぶところも個人としての尊重を感じます。

恋愛小説の女王の母とオタクの娘の価値観の違い


右:浜辺美波。©文藝春秋

 2人の価値観の違いは特に恋愛において顕著にあらわれています。恋愛小説家の母は、第1話冒頭で「恋愛」についてこう語っていました。「恋愛って刀を持つことだと思うんです。男と女の真剣勝負。きっと人をどこまで切っていいかって恋愛で学ぶの。刀を刀を持たねば血が出る頃合いも分からず、傷の直し方もわからない」「今の子って恋愛しないじゃないですか」「恋をすることでしか成長できない部分があると思うんです」「恋い焦がれる気持ちを知らないなんてこの世に生まれてきて不幸じゃないですか?」。

 しっかりポージングを取りながら記者に朗々と語る姿は、彼女が恋愛小説の女王と呼ばれていた事実をしっかりと描写してくれています。しかも、その恋愛観の古さから、昔は一斉風靡したが最近は鳴かず飛ばずの存在であることがひしひしと伝わってきます。

 一方娘は、ビックサイトでエロい漫画を山程買う筋金入りの漫画オタクの大学生。恋愛にかまけている暇がなく、漫画の新刊を買い漁ったり、コミケに向けてコスプレの準備をしたりと忙しい日々を送っている。母からもずっと未婚のまま実家暮らしをする「子ども部屋おばさん」になるのではないかと心配されているけど、それ以上に「いい歳して天然で、時に暴走する世間知らずな母」を心配して放っておけない。母が恋愛テクニックを教示する際、「かわいそうに、こんなことをしてモテてきたのか」とばっさりと母を否定しているところは頼もしい限りです。

 当たり前だけど、母と娘は別人格の別の人間。20歳以上離れていて世代が違うのだから、それも当然ですよね。

 ここからも、事前情報にあった碧の恋愛観だけで時代錯誤な脚本のドラマと認識するのは間違いだとわかります。それらは主人公の作家性を際立たせるため“あえて”使われている設定にすぎず、脚本自体はちゃんと時代を反映して制作されているのでご安心を。

 たとえば先述した碧の恋愛観が語られる場面では、インタビューに同席していた担当編集者の女性が早期退職する理由を「働いても働いても女は偉くなれないということが分かったので」とさらっと語るシーンがありました。「ガラスの天井」に身につまされた女性の思い、大阪の吉村知事にも届くといいのですが……。

恋愛よりも大切に描かれる、北川作品の友情物語


「連続テレビ小説 半分、青い。 Part2 (NHKドラマ・ガイド)」1,100円/NHK出版

 本作は「それぞれの恋愛模様を描くラブストーリー」と表面上なっているものの、注目すべきは母娘の、友情めいた関係性ではないでしょうか。

「恋愛の神様」とも称される北川悦吏子ですが、その主軸のラブストーリーパートの影でしっかりと描かれる、ヒロインたちの友情物語もまた秀逸なんです!

 遡ると北川脚本最初の月9「素顔のままで」(92年・フジテレビ系)は、性格も境遇も違いすぎる優美子(安田成美)とカンナ(中森明菜)という女性2人の物語でした。内気な性格の図書館司書の優美子と、ヤンキー風情でありながらミュージカル女優を目指すカンナ。衝突や誤解などを繰り返し、友情か恋かと迷いながらも、互いに最も大切な人間になっていくことを描いた作品です。

 記憶に新しいところでいうと、朝ドラ「半分、青い。」の鈴愛(永野芽郁)とユーコ(清野菜名)、ボクテ(志尊淳)との関係性。3人は同じ漫画家を目指すライバルであり、社会に出てからできた友だちでした。一緒に苦労し、一緒に戦い、お互いに本音で話す3人は、恥ずかしがることなく「好きだ」という気持ちをしっかり言葉にして相手に贈ります。

 ライフステージの変化で友情というものは消滅しがちなものだけど、結婚しても子どもが生まれても3人の関係は続いていきます。「僕たちの永遠の友情を誓う」というボクテのセリフや、シーナ&ロケッツの「You May Dream」をみんなで歌うシーンにはぐっとくるものがありました。

「ロングバケーション」(96年・フジテレビ系)の南(山口智子)とモモちゃん(稲森いずみ)も、同じモデル事務所の先輩後輩という間柄でありながらもしっかり友情を育んでいる最高のコンビ。年齢も性格も価値観も違う2人は一見全く噛み合わなさそうなのに、なぜかプライベートでもよく一緒にいます。

 南が瀬名(木村拓哉)に「そんな無神経だから男に捨てられるんだよ」と言われてしまった夜、「私ってガサツ? 無神経?」とモモちゃんに尋ねると、「そんなことないです。私、あんまり上手く言えないけど……先輩のこと好きですよ」と優しい言葉を南に返していたシーンは特に印象的でした。

ほかにも「Over Time」(99年・フジテレビ系)のヒロイン・夏樹(江角マキコ)と、親友の春子(西田尚美)と冬美(石田ゆり子)の友情も観ていて楽しいものでした。

恋という言葉に収まらないラブストーリーもある


©文藝春秋

 ひょんなことから一緒に暮らすことになった、大学生の入江(筒井道隆)、親戚の娘・朝美(瀬戸朝香)、入江の後輩・杉矢(いしだ壱成)の3人が織り成すラブストーリー「君といた夏」(94年・フジテレビ系)も取り上げてみます。

 こちらの作品も恋愛ドラマという枠組みを踏襲してはいるものの、3人の間には「恋愛」という言葉では説明がつかない関係性がしっかり出来上がっているように見えるのです。印象的なのは3人で海を訪れた際に朝美が言う「ねぇ、恋より楽しくない? 私たち、恋より楽しくない?」というセリフ。

 最終回のサブタイトルは「恋よりも大切なもの」となっていましたが、実はこれが北川脚本の真骨頂のような気がしています。恋愛至上主義の90年代のドラマにおいてしっかり「恋」でなくてもいい、心の近くにいる大切な存在を描いているんですから。恋愛の神様とマスコミから謳われてしまっているけど、本当に描きたいのは、きっと「恋」という言葉だけに収まらない、個別の友愛関係なのではないでしょうか。

 実際「ロングバケーション」「Over Time」も、同性だけでなく、異性間の友情が物語のひとつのテーマになっています。

「ラブストーリー」はドラマの王道ジャンルとして目立った存在です。でもその「ラブ」はなにも男女の恋愛に限ったものではりません。人と人が築く、親しくも名もない関係性のひとつひとつが「ラブ」であることを私達は忘れてはいけない気がします。

 恋は終わるかもしれないが、母娘というつながりは一生続いていくもの。「ウチカレ」では、2人の恋愛模様よりもむしろ母娘の友愛関係をどう見せてくれるのかに期待したいです。

「半分、青い。」ファンも納得の遊び心と創作論


©文藝春秋

 最後に「ウチカレ」をさらに楽しめるポイントを2つ紹介します。

 1つめは、遊び心のある小ネタの数々。朝ドラ「半分、青い。」では「ロングバケーション」の伝説のスーパーボールシーンが再現するなど、視聴者を盛り上げる多くの工夫がなされていましたが、今作もたくさんの小ネタが用意されています。

 たとえば第1話の碧のセリフ「ちょ待てよ。あ、キムタクになっちゃった」というキムタクいじり。これはかつて「ロングバケーション」や「Beautiful Life~ふたりでいた日々~」(00年・TBS系)でタッグを組んだ北川だからこそなせる、ドラマファン心をくすぐる技!

 ほかにも、碧は空に対し「君だってそのニットTOGAだよね? 永野芽郁が紅白で着てたTOGAだよね?」とぶっこみ。さらに碧の変わりに雑誌で連載を持つイケメン俳優の中川トモロウは、朝ドラ「かんかん照り」でブレイクしたという設定で、こちらは「半分、青い。」に出演した中村倫也の名前をもじっています(中川トモロウ役でリアルに本作にも出演してほしい!)。

 そのすべてのネタがうまく生きているのは、セリフのテンポがいいから。「半分、青い。」に出演していた風吹ジュンが以前インタビューで「泣きが入ったり、怒りが入ったり、北川(悦吏子)さんの本は譜面に書けないリズムのような面白さがあって、自由ですごく楽しいんです」と語っていました。

 このドラマもまさにそのリズムがうまく作用しているように思います。予定調和のない、慣れないテンポに違和感を覚える視聴者もいたようですが、これには中毒性があるんです。観ているうちに不思議とクセになり、どんどんハマってしまうんですよ!

 もう1つは、「創作論」。これは「半分、青い。」にも共通します。「半分、青い。」では主人公の鈴愛は漫画家を目指し、秋風先生(豊川悦司)のアシスタントになります。

「いいか、半端に生きるな。創作物は人が試される。その人がどれだけ痛みと向き合ったか。憎しみと向き合ったか。喜びを喜びとして受け止めたか。逃げるな」

「マンガにしてみろ。物語にしてみろ。楽になる。救われるぞ。創作は、物語を作ることは、自身を救うんだ。私はそう信じている。物語には人を癒やす力があるんだ」

 など、劇中で語られる秋風先生の語録には、胸を熱くした人も多いはず。これらはきっと脚本家である北川悦吏子の、創作に対する嘘のない思いのように感じます。今作では主人公は小説家、そして娘は第2話で漫画創作に興味を示す展開となっています。テーマのひとつとして、登場人物たちのものづくりに対する思いや、創作を通してのそれぞれの成長にも注目してみてはいかがでしょうか。母娘が恋よりも大切なものを見つけられるか、今後も楽しみです!

綿貫大介

編集者・ライター・TVウォッチャー。著書に『ボクたちのドラマシリーズ』がある。
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文=綿貫大介

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