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ブレイディみかこ×塩谷 舞が語る 「みんなの反応」という“空気の靴”を 履いていると自分がなくなってしまう

CREA WEB / 2021年8月28日 12時0分


ブレイディみかこさん(左)、塩谷 舞さん(右)。

 まわりの空気ばかりを気にしがちなSNS時代、日本の女性たちが置かれた状況とは? 新著『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』を上梓したイギリス在住のブレイディみかこさんと、初エッセイ集『ここじゃない世界に行きたかった』が話題の文筆家・塩谷 舞さんが語り合いました。


「自分が自分じゃなくなる」SNS時代


ブレイディみかこさん。イギリスからリモートで。

ブレイディ 今日は年齢的に親子対談みたいですけど(笑)、最初の接点って、私が塩谷さんの『ここじゃない世界に行きたかった』に帯の推薦を書かせて頂いたんですね。

塩谷 本当にありがとうございました! あの推薦文のおかげで、書店で女性エッセイの棚だけでなくノンフィクションの棚にも置いてもらえて、すごく感謝しています。

ブレイディ 文章がとても流麗で文学的。海外で出会う人々にたいして感じる新鮮さがみずみずしく出ていて、昔の渡英当時の自分を思い出す感じもありました。

 興味深かったのが、「バズライターが自分を取り戻すために」書いたということ。私は全然SNSをしないので、塩谷さんが“バズ”で有名だったことを知らなかったのですが、数年前最初に依頼のあった本のタイトルが「SNS戦国時代、インフルエンサーに学ぶバズる! 売れる! の必勝法」だったとあって、爆笑しました。

塩谷 実際には書かなかったんですけどね。でも、そっちのほうが短期的には儲かっただろうなぁ、とも……(笑)。

ブレイディ SNSやインターネットでものを売ったりPRをするのは、すごく瞬時的な仕事じゃないですか。シンパシーベースの共感が重要な世界で、スピード勝負でやっていたなか、「自分が自分じゃなくなる」感覚があったわけですよね?


塩谷舞さん。NYからリモートで。

塩谷 インフルエンサーとして仕事を請け負っていた頃は、クライアントからの期待値や単価がどんどん上がる中で、「とにかく一発バズらせる記事を書かなくちゃ」と資本主義のサイクルに組み込まれてしまって、自分で自分がコントロール出来なくなっていました。

 “共感される、売れる、バズる”文章をどうやって書くかばかりに終始していると、つるんとして読みやすく、みんながエモいと感じる苦労話を入れ、最後は希望で終わるというテンプレにはまりがち。

 ブレイディさんの本の中でも「共感マーケティング」についての指摘がありましたが、その片棒を担いでいたなぁ、という自責の念はあります。そしてタイムラインの空気を読み、「みんなの反応」という空気の靴を履いてばかりいると自分がなくなってしまうんですよね。

ブレイディ ネットでお金を稼ぐ大変さは、私も全然知らない世界じゃなくて、昔ライターとしてYahoo!ニュースで書いていた時期があります。Yahoo!ニュース個人って、今の報酬体系は知らないけど、5~6年前まで完全にPVで決まっていた。

 ヤフトピ(Yahoo!ニュース トピックス)に上げてもらったら何百万PVにもなるから、記事一つでも何十万かのお金がもらえる。でも地道な記事で1万PVくらいだと子どものお小遣いにもならない程度しかもらえなくて、本当に雲泥の差だったんですよね。

塩谷 マグロ漁みたいで、釣れたらいいけど、釣れなかったら悲惨という(笑)。

ブレイディ そうなると、やっぱりタイトルで釣らないとクリックしてもらえないから、中身と違う釣りタイトルをつけたくなるし、興味のないことでも今、日本でこういうニュースが旬だから関係するものを書くかとか、どんどん商売人になってきてしまう。そのプロセスで自分が擦り切れていく感覚というのは、私もすごく分かるんですよ。

塩谷 本当にそうなんですよね。あと私はインタビューの仕事も多かったんですが、恣意的なブランディングへの罪悪感もありました。この人は時代のスターで、いかに革新的でみんなの憧れなのか――そこを過剰に盛り上げるのがインタビュー記事の正攻法でもありますが、それは本当に良いことなのだろうか? と立ち止まって考えるようになったんです。

 たとえば取材相手が、パブリックイメージとのギャップに病んだりするのを見てしまったとき、過剰に盛ってブランディングしてきた責任を感じました。肌をフォトショップでレタッチしすぎて、現実世界で見たときに「荒れてんな」と思わせちゃうような。

ブレイディ なるほど。

ブレイディさんの『ぼくイエ』に救われました

塩谷 実はそういうモヤモヤした時期に、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』を読ませていただいんです。ニュー・ジャーナリズムというか、息子さんとの普段の対話、有機的な関係性の中から生まれた光景や考えを、世の中の美しい面も汚い面も照らしながら、そのままの立体感で本のなかに立ち上げる作品性に驚きました。


 それまで私がやってきたのが「この側面がいいですよ」と綺麗に描いた、みんなが鑑賞しやすい2D絵画なら、『ぼくイエ』は日常の森羅万象を一つの作品に落とし込んで、人間ドラマのなかにリアルな政治や人権の話も織り込んでいる3D。

「こんなかたちで社会を描けるんだ」と新鮮でしたし、年上の女性の執筆家のキャリア像としても大きなヒントになりました。どうしても、女性でライターをやっていると美容、ファッション、インテリア分野での仕事が多く、「綺麗な文章をおしゃれな部屋で書いて憧れとして存在してくださいね」といったような現実離れした要望も感じる。

 それって「私じゃないな」と思っていたところで、自分の人生の道が少し見えるきっかけになった本でした。

ブレイディ ありがとうございます。でも『ぼくイエ』って「うわ~、売れたね。私の本にしては」ぐらいだったらよかったんですけど、ある時からそのレベルを突出していったことにすごく危機感を感じたんです。「売れすぎるとヤバい、ちょっといけないところに自分はいる」という感覚がとても強いのは、Yahoo!ニュース時代の経験からも来ていると思います。

 ずっと昔から私のブログや本を読んでくださっていた、ある尊敬する小説家の方が、私について「右脳と左脳の両方で書ける」と評してくださったのですが、『ぼくイエ』はいわば右脳一発で書いた本。だから今度は思いっきり左脳で書いてみたかったというのが『他者の靴を履く』です。

 エンパシー(=意見の異なる相手を理解する知的能力)という共通するテーマを追っているんですけど、全然違う書き方をしている。またこのテーマか、と思われるかもしれないですが、実際に本を手に取って開いていただければわかりますけど、これほど似てない本もない(笑)。執筆作業は私にとってある種のデトックスでした。

塩谷 あの硬派な内容がデトックスって、すごいですね(笑)。でも『ぼくイエ』みたいな素敵な読書時間を~と思って『他者の靴を履く』を読むと、殴られたような衝撃があると思うんです。

 私も数年前までは、家族で政治の話をしたことはほとんどないですし、友人たちとどの政党に投票したとか、ジェンダー問題を話すこともあまりなかった。そうした空気に包まれて育った私たちにとっては、『ぼくイエ』は馴染みやすくても、『他者の靴を履く』はなかなかゴリッとしている。


ブレイディ ある読者が「ブレイディみかこが売れるには、日本では優しいお母さんになるしかなかったのかな」と書いていたんですが、これは鋭く本質を突いてるなと思ったんです。先程の女性ライターに求められるイメージじゃないけど、子育てエッセイや素敵なライフスタイルは広く受け入れられ、政治的になるとすぐにフェミニズムとか、主張が強いとか言われて敬遠されてしまう。

 でも欧米の女性の書き手はみんな、政治を当たり前の題材としてよく書きます。だってそれも生活の一部ですよね。反体制的な意見もはっきり書くし、身近なことから政治・経済まで扱うんですが、日本だとなぜかこの分野がすごく薄い。外から見ていると、その弊害は明らかにあるように感じられます。

塩谷 女性が……と一括りにしてよいかは難しいところですが、やっぱり政治的、社会的なことを書くと叩かれやすいんですよね。私も、顔写真のサムネイルと煽り気味の記事タイトルがYahoo!ニュースに掲載されたとき、「女性がこんなに生意気なことを言ってる」とものすごく叩かれました。勉強になるご意見もありますが、ただただ悪意を向けてくる人もいるので、発信を続ける心が折れてしまいそうにはなります。

ブレイディ そういうの地獄ですよね。

塩谷 本当に。私が踏み込んだ発言をすると、「政治的発言をしていいんですか? 活動家だと思われますよ」と言われ続けてきました。たとえば結婚して名字が変わることに対する違和感や日米の制度の違い、生活のゴミ処理の方法の心がけとか、自分の半径の狭い話から広げても、「そんな話するな」みたいな壁を感じます。

ブレイディ でも塩谷さんは結構硬派なテーマも扱っていて、社会や政治運動についても真面目に書かれているじゃないですか。紋切り型の左派・右派の二項対立みたいなものに騙されず、自分を見失わずに、一生懸命戦おうとしていて。

塩谷 本を書き上げてやっと、物書きとして初めて自分の思考をそのまま出すことを恐れなくなった気がします。私もやっぱり「謙虚であれ」と育てられてきた過去があるので、まだまだ自分の意見を主張するのは慣れていないし、おっかない。でも編集さんに「あなたの意見は?」と問われ続けて、「えっ、自分の話していいの?」と思い始めたというか……。そうやって自分を縛っていた呪縛が解けた気がします。

ブレイディみかこ

1965年福岡県福岡市生まれ。96年から英国ブライトン在住。ライター、コラムニスト。2017年、『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』で新潮ドキュメント賞、19年『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』でYahoo!ニュース|本屋大賞2019年ノンフィクション本大賞、毎日出版文化賞特別賞などを受賞。他の著書に『労働者階級の反乱』『女たちのテロル』『ワイルドサイドをほっつき歩け』『ブロークン・ブリテンに聞け』などがある。

『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』


“負債道徳”、ジェンダーロール、自助の精神……現代社会の様々な思い込みを解き放つ!〈多様性の時代〉のカオスを生き抜くための本。

塩谷 舞(しおたに・まい)

文筆家。1988年大阪・千里生まれ。京都市立芸術大学美術学部総合芸術学科卒業。ニューヨークを経て、2021年より東京を拠点に執筆活動を行う。2009年、大学時代にアートマガジン『SHAKE ART!』を創刊。2012年にCINRA入社、WEBディレクター・PRを経て、2015年に独立。会社員時代より、WEBメディアの執筆、企業の広告企画、SNSマーケティングに多く関わり、「バズライター」の異名をとる。2017年、オピニオンメディアmilieuを立ち上げ、自身の執筆活動を本格化。note定期購読マガジン『視点』にてエッセイを更新中。

『ここじゃない世界に行きたかった』


あたりまえに生きるための言葉を取り戻す。出会うべき誰かと強く惹かれあうために――。アメリカ在住のエッセイストが贈る、瑞々しいデビュー作!

写真=Shu Tomioka(ブレイディさんプロフィール)、杉山拓也(塩谷さんプロフィール)
構成=編集部

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