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子育て世代の防災どうすれば? いますぐできる3つのこと

CREA WEB / 2021年9月18日 15時0分


 いつ、どこで起きてもおかしくない災害。CREA WEBで実施した防災に関するアンケートでは、「大きな荷物を抱え、子どもを連れての避難が不安」「何を優先して持ち出したらよいのかわからない」「子どもが泣いたり、走りまわったりして、周囲に迷惑をかけないか心配」といったママやパパの声がありました。

 乳幼児をはじめ、子育て世代が備えておくべきもの、日頃からできる防災について考えてみませんか?

 今回は、ご自身も4女2男の母であり、東日本大震災で妊産婦と乳幼児支援を行うなど、国内外で活躍されている産婦人科医の吉田穂波先生にお話を伺いました。

いざというときこそママ自身のケアを


――読者アンケートでは、小さな子どもと一緒に避難できるか不安、という声が複数聞かれました。吉田先生は「守るべき者」がいるときの防災について、何が大切だと思われますか?

 もしものときに一番大切なものは、もちろん命です。そして、防災において大事なポイントは3つだと思っています。それが、①「モノ」 ②「情報」 ③「健康」です。

 日本の総人口に占める子どもの割合は、年々減少傾向にあります。これは、子育て世代は少数派でニッチな存在だということ。つまり、災害のときには、非常に少ない妊婦さんや赤ちゃんまで目が届かない可能性が高いということです。普段から防災セットを用意するなど、自分で備えておく必要があります。

①「モノ」……子育て世代が備えておくべきモノとは?

――読者アンケートでは、「防災セットは用意しているけど、実際に何を持って避難すればよいのかわからない」という方が大半でした。最低限しか待ち出せない場合、何を優先にしたらよいのでしょうか?

 2012年から’13年にかけて、東日本大震災で実際に妊婦さんだった方、赤ちゃん連れだった方の約70名にインタビューをして、当事者の経験を「あかちゃんとママを守る防災ノート」という冊子にまとめました。

 その中で、「あれがなくて困った」「これがあってよかった」というママたちの声をもとにチェックリストを作成しましたので、まずはこちらを参考にしてみてください。

「あかちゃんとママを守る防災ノート」より


「あかちゃんとママを守る防災ノート」

https://doc.giftfor.life/giftfor-notice.pdf

持ち出すものは、「1次」「2次」「携帯」で準備


――チェック項目には、「1次」「2次」「携帯」とありますね。どういう意味ですか?

 赤ちゃんのいるママが、通常の避難バッグにプラスしておくとよいアイテムのチェックリストを、避難時に持ち出す「1次」、そのあと家に帰れたら持ち出す「2次」、できればいつも持ち歩きたい「携帯」と分けて考えることをおすすめしています。

 市販の避難キットですと、「うちでは足りない」「いらない」といったモノがあったり、小さなお子さんには合わないモノもあったりしますよね。買ってそのままではなく、一度は使ってみて内容を見直し、足りないモノを補ったりしてオリジナルの避難バッグを完成させると安心です。

◆1次避難バッグの基本は、「持てる」「使える」「助かる」モノを

 1次避難バッグに、最優先に入れるものは、命を守るために必要な母子健康手帳や保険証、普段使っている薬やペットボトルの水などです。次に必要なのは生活必需品。1日の生活を振り返って備えておきましょう。

 授乳中の方でしたら、授乳用ケープ、ガーゼ、赤ちゃんの衣食住に関わるもの。母乳でなかったらミルクを作るためのグッズ。お子さんの年齢ひとつとっても必要なものは異なります。

◆2次避難バッグには、一時帰宅の際に持ち出すモノを

 2次避難バッグは、状況がいったん落ち着き、一時帰宅の安全が確認できてから持ち出す避難バッグです。例えば、オムツ3〜4枚、お尻拭き1個というのは1次に入れておくけど、オムツ1パックごとというのは2次にしようとか、そんな使い分けがよいかもしれません。子どもの癒やしになるようトランプなどの遊びグッズもあると重宝します。

◆携帯用バッグには、外出中の緊急時に命を守るモノを

 緊急時の必要度が高く、常時持ち歩けるものは、ポーチなどにまとめて常に携帯するようにしましょう。私も小さなポーチをカバンの中に入れて持ち歩いています。常に入れているのは、母子健康手帳、健康保険証のコピーやチョコレートなどです。

――リストを見ると、普段ママバッグに入っているアイテムと同じものが多いですね。


 それにプラスして持ち歩きたいのが、ママ自身に必要なモノ。母子という観点でないのですが、私自身が用意しているモノをご紹介します。これをご自身の実情に合わせて置き換え、携帯するとよいと思います。

非常用ポーチに入れるモノ

母子健康手帳・現金(小銭)、運転免許証・保険証のコピー、飴やチョコレートなど小さな携帯用食料、ハンカチ・マスク、ティッシュ・ウエットティッシュ、ナイフ・爪切り・ライト、ボールペン・マジックペン、リップクリーム・ヘアゴム、コンタクトレンズやメガネ、使い捨てカイロ、生理用品、緊急連絡先、スマートフォン・携帯電話用充電器、その他

――いざ持ち出す荷物を考えたとき、子どものモノを優先に考えるママが多いと思います。

 そうなんです、みんなママ自身を後回しにしちゃうんですよ。ついつい、赤ちゃんのモノから揃えてリュックをパンパンにしてしまいがちですが、重量オーバーにならないよう、まずはママ自身が一泊できるモノがあるかを確認してください。

 瑣末なモノと思えるかもしれませんが、ヘアゴムとか鏡とか、見た目を気にする女性ならではのアイテムが実はとても重要なんです。というのも、ママが「あれがない」「これがない」と不自由な環境にいると、余裕がなくなって、赤ちゃんのケアも難しくなるからです。「ママの命と安心・安全をまず大事にしてくださいね」とよくお伝えしています。

②「情報」……自分の家族の「そのとき」の状況を知っておく


――防災ポイントの2つ目、情報について教えてください。

 まず知っておかなければいけないのが、ハザードマップと避難できる場所。インターネットがつながればすぐにわかることでも、大きな災害が発生すると携帯やスマホが使えなくなります。平時のうちに、自治体のハザードマップやご自身の住む地域の避難所などの防災情報を集めておきましょう。

 例えば私の場合、子どもたちが通っている小学校は、住んでいる地域の避難所ではないんです。学区ではない隣の小学校が避難所。こういうことも事前に調べておかないと、正しい避難場所に辿り着けなくなってしまいます。避難場所はちゃんと調べて確認して、家族で共有しておきましょう。

――働いているママは、仕事中に災害が起こった場合、子どもたちの避難が心配ではないでしょうか?

 そういうことも想定し、避難や子どものお迎えの支援をしてくれる人、受け入れてもらえる場所をあらかじめ決めて、その住所をメモしておくのもおすすめです。自治体で母子避難所というところを作っていなければ、児童館や助産院、ホテルや旅館、お友だちの家などでもよいと思います。

「自分に何かあったら子どもたちのことを頼める人はいるかな?」「私が子どもと離れていたら、お迎えに行ってもらえる人はいるかな?」などを考え、それをリストに書き出して家族で共有しておくことが大事です。

 ポイントは「可視化」することです。「自分がこれを用意しているよ」ということを事前に可視化しておけば、自分だけでなく、家族や友人にシェアできます。サポーターズリストにおいても、災害時に書けと言われたら、私でも書けるか自信がありません。災害時を想定して、事前に改めて考えておきましょう。

③「健康」……心身の健康を保つためには?


――防災ポイントの3つ目、「健康」についてはどうでしょう?

 出産後3カ月から半年以内のママはすごく体も疲れていますし、感染症にかかりやすいといった健康リスクがあります。そのうえ、避難生活は異常な状態。さまざまなことが抑圧され、恐怖や不安も加わってきます。

 そうした精神的ストレスからホルモンバランスが乱れ、心身に影響が出てしまうのです。避難生活で増加する疾患としては、膣炎、膀胱炎、皮膚炎、月経トラブル、不眠症、骨盤内感染症、便秘症などがあげられています。

 災害時には、育児支援を行う助産師さんや保健師さんは圧倒的な人手不足になりますが、子連れや産後の方には、特に手厚いケアが必要。自覚症状を感じたら、無理せず「助けて!」とSOSを出すことが大切です。

 また、これまでの出産状況や病歴などを書き出して携帯しておくと、もしものときに慌てず受診することができますよ。

――普段と違う避難所などでは、子どももストレスを感じてしまうと思うのですが、どう接してあげればよいのでしょうか?

 一番はママ自身が心身の健康を保つこと。子どもの気持ちを左右するのは、親の気分や機嫌です。親の機嫌がよければお日様が出ているように感じますし、親がイライラしていたら、どんよりしているように感じるものですから。もちろん、赤ちゃんもそう。

 ママというシェルターが、安定して明るく、穏やかであることが、子どもたちのハッピーの第一条件。そのためには、まず、自分を癒やすものはどんなものなのか、知っておくことです。

 例えば、私は好きな落語の音源をいつも用意していますよ。また、シュッとするだけで気分が変わるアロマミストスプレーなども避難生活では活躍します。見えないだけに後回しになるのがメンタルケア。自分をいたわることをぜひ忘れないでほしいですね。

コロナ禍の今だからこそ、シミュレーションを!


――コロナ禍で災害が起きた場合に備えるべきことは何でしょうか?

 新型コロナウイルスは新しい感染症ですので、情報は随時変わっていく可能性があります。そのうえ、デマや不確かな情報が出回ることもありますので、できるだけ公的機関の情報を追うようにしましょう。そして、さまざまなケースが考えられますので、ケース別にシミュレーションしておく必要があります。

◆感染していない場合◆

 感染していない場合は、とにかく徹底的に感染予防に努めるほかありません。

 災害時であっても、避難所での感染が怖いなら、「自宅で避難する」という覚悟を決めてあらかじめ備えておくこと。お湯が沸かせるカセットコンロや非常用トイレなど、ライフラインが止まっても、ある程度は自宅で籠城できるようなアイテムを揃えておくと安心です。

 また、やむを得ず避難所に入ることも考え、マスクと消毒薬とうがい薬、さらにお尻拭きのようなものをある程度ストックしておき、避難時に持参することを忘れずに。

 避難所では、ドアや手すりなど不特定多数の人がよく手を触れるところ、食事や物品の受け渡し時など、他の人との接点ではきちんと消毒して特に気をつけましょう。自己隔離とプライバシー保護、両方の面で、折りたたみのテントを持っていくのもおすすめです。

◆感染してしまった場合◆

 濃厚接触者となっている時や療養期間中に被災した場合は、基本的には在宅療養になります。とはいえ、家庭内での接触は避けたいですよね。そうした場合を想定し、自宅の近くで宿泊できる旅館やホテル、ウィークリーマンションなどを事前に複数探しておくことがポイントになります。

 避難所では、おそらくコロナ陽性の方だけを隔離して、陽性者部屋というものを作ると思います。自宅が被災して避難所に入る場合は、自分が陽性者であること、療養期間中で感染させる危険性があることを必ず申し出て、隔離してもらってください。

◆子どもは陰性、自分だけ感染の場合◆

 子どもは感染していないけど、自分だけ、あるいは大人だけ感染している場合は、対応が本当に難しいですよね。

 基本的に、陰性のお子さんは陽性となった親御さんから離さなければなりませんが、そのお子さんを児童相談所に預けるのか、ご家族の親戚に預けるのか、地元の病院の乳幼児一時預かりを利用するか、保健所で施設を探してもらうのかなどなど、我々医療従事者としても判断は非常に悩ましいんです。

 ですので、ママ・パパにはやはり事前に、自分たちが感染した場合に子どもを預かってくれる人や場所を見つけておいてもらえると、とても安心だと思います。

防災を考え、備えることは、優しさを引き出すこと


――お話を伺っていると、事前の情報収集が本当に大切だということがわかります。

 大正解です。私たちができることは、災害時にはほとんどないですから。完全な準備は無理だとしても、しっかりした情報収集と、自分たちにフィットした避難計画を立てておくことが重要になってきます。

 もう一つ大切なのは、防災を「自分ごと化」すること。

 一般的な防災の心得を読みまくっても、自分にあてはまらない情報だと、なかなか自分のこととして落とし込めないものだと思います。

 けれど、これまでお話しした「モノ」「情報」「健康」の3つのポイントをノートに書き込むなど、何か手を動かしてチェックをするだけで、「自分ごと化」されます。人は、自分で能動的にアクションを起こすことでそれを「自分ごと化」でき、他の人にも語れるようになるものなんです。

 自分で書いて可視化することで、その内容が自分のものになりますし、それを家族や周囲の人と共有することで、いざというときに役に立ちます。先ほどの「あかちゃんとママを守る防災ノート」をダウンロードして活用していただいてもよいですね。

――頭ではわかっていても、忙しくてなかなか実行できない人も少なくないかもしれませんね。

 子育て世代って日常が非常事態ですから、「そんなに準備する余裕なんてない」と後回しにしてしまいがちかもしれません。確かに防災にはある程度お金も労力もかかりますが、できるだけ備え、子どもたちにも避難計画をきちんと教えておけば、自分自身も子どもも安心できます。

 周りの人たちとも共有することで、人ともつながっていきます。軽い挨拶でも、立ち話でも、そのささやかな絆が、普段の何気ない生活を潤してくれるとともに、いざというときの支え合いに結びつくことがあるんです。

 実は、私自身も東日本大震災までは、災害なんて自分にはまったく縁がないものだと思っていました。でも、「これは自分のことかも」と災害を想定してみると、当たり前の日々の尊さに気づいたり、優しい気持ちが生まれたりするものです。

「もし……」を考えることで、家族や友だち、何気ない生活がすごく輝いて見えて、ますます日常が愛おしくなっていく。それを引き出してくれるのが「防災意識」だと思います。

●防災について考えるきっかけをくれるショートムービー

 吉田先生が制作に携わった、東京に暮らすある家族の6年の日々を1分間に凝縮したショートムービー。ひとりの女性が、はじめての出産・子育てを通して、かけがえのない時間を発見していく。しかし、長男の小学校入学を前に、思わぬ出来事が待ち受けていた。

giftfor

https://giftfor.life/


●お話を伺ったのは……
吉田穂波(よしだ・ほなみ)さん

医師・医学博士・公衆衛生学修士。博士号を飛び級で取得後、ドイツとイギリスで産婦人科および臨床に携わる。帰国後は産婦人科医療と総合医療両方の視点を持つ女性総合外来担当医となる。2008年にハーバード公衆衛生大学院にて公衆衛生修士号を取得。帰国後、国立保健医療科学院、神奈川県保健福祉局保健医療部などを経て、現在は神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授として勤務するとともに産婦人科診療に従事。2020年の厚生労働省新型コロナウィルス感染症対策保健所支援チームではリーダーとして国内の感染拡大予防に尽力。4女2男の母。『「つらいのに頼れない」が消える本――受援力を身につける』『実践! 小児・周産期医療現場の災害対策テキスト』など著書多数。

「つらいのに頼れない」が消える本――受援力を身につける


あさ出版 吉田穂波 1300円

受援力とは、「助けを受け入れ、人に頼ることができる力」のこと。誰かに頼りたいけど頼れない、相手の迷惑になるのではないか……など、人に頼れない人は、頼ることを申し訳なく思ってしまうもの。しかし、むしろ人に頼ることが、相手のためにも自分のためにもなる、すばらしいことだとしたら――。人に頼ることの素晴らしさや人に頼れない理由、受援力を身につけるトレーニング法などを分かりやすく紹介。

文=大嶋律子(Giraffe)

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