《リサ・ラーソンが遺した、世界にひとつだけの柴犬の置物のこと》「今度こそ、きっと傑作を!」初めて明かされる彼女の職人性
CREA WEB / 2024年11月30日 11時0分
尽きない想像力と制作意欲で、亡くなる直前の92歳まで創作活動を続けた陶芸家リサ・ラーソン。短期集中連載の第3回は、リサが70歳を超えてから共にものづくりに励み、数々の人気シリーズを生み出した「トンカチ」の佐々木美香さんと勝木悠香理さんに話を伺った。
≫【連載をはじめから読む】すべては一通の手紙から始まった——北欧を代表する陶芸家リサ・ラーソンが日本で愛された17年
≫【第2回】「生まれ変わったら日本人になりたい」。日本に心を寄せ続けたリサ・ラーソンが人生の最後に手がけた作品への想い
リサの柔軟な発想から生まれた日本オリジナル作品の数々
1954年に23歳でグスタフスベリ製陶工場に入社し、陶芸家としてのキャリアをスタートしたリサ・ラーソン。1980年に独立してからはフリーのデザイナーとして活躍し、2007年から日本オリジナル作品の制作に取り組み、亡くなる直前まで精力的に創作活動を続けた。
「リサと出会った当時、彼女は70歳を超えていて、陶芸家としてもすでに大きな成功を収めていました。そこに突然、日本から手紙が届いて不思議な交流が始まる訳ですが、リサは強い思いやりを持って私たちに接してくれました。私たちがやろうとしたことも柔軟に受け入れてくれて、その結果、“日本のリサ・ラーソン”が生まれました」と話すのは、トンカチのデザイナー・佐々木美香さん。
日本におけるリサの作品のデザインを一手に担っていた佐々木さんは、「リサの価値を下げないように」ということを強く意識しながらも、多くの人にリサの作品を知ってもらうような提案を続けた。
「その頃すでに、リサのビンテージ作品はどんどん価値が上がっていて、気軽に手が出せない値段でした。そこから、リサの名作をキーホルダーにする話が持ち上がり、“高校生の通学カバンにつけてもらえるようなキーホルダーをつくりたい”とリサに力説したんです。すると、リサは“持ち運べるリサ・ラーソンね”とおもしろがってくれました。
70年もの間、一線で活躍し続けた尽きない想像力と情熱
量産することに対しても、“多くの人に手に取ってもらえる”というポジティブな考え方を持っていて、まったく抵抗がないことに逆に驚かされました」と話すのは、当時営業を担当していたトンカチの勝木悠香理さん。
設立60年の歴史をもつフィギュア制作会社の海洋堂とカプセルトイをつくった際も、「このフィギュアをつくった人は天才ね」と絶賛し、職人たちへのリスペクトを惜しまなかったそう。さかのぼれば、グスタフスベリ製陶工場に在籍していた時代に、量産を前提とした作品も数多く手がけていたリサ。それでも表現者としてのプライドと情熱を失わず、オリジナリティにあふれた作品を多く生み出してきたのは、彼女の才能にほかならない。
「たとえ量産でも作家性を失わないリサのすごさは、特に3Dの作品をつくるときに実感しました。どの作品も、もともとのデザインを使い回すことはせず、マイキーもキーホルダーや箸置きなど、つくるものに合わせて表情やデザインを変えていました。ビンテージ作品を復刻する際も、同じものをそのまま出すのはつまらないと言って、なにかしらアレンジをしてくれて。今思えば、古くからリサの作品を集めていたコレクターへの配慮もあったのかも知れません」(佐々木さん)
北欧を代表する陶芸家として輝かしい実績を残し、公の場では「私の作品は1000年残るわ」と雄弁に語ることもあったというリサ。その反面、ものづくりに対する姿勢は至って謙虚で、焼き上がった作品を窯から取り出す時はいつも、「今度こそ、きっと傑作を!」と念じていたという。
「リサは作家としてのプライドはありましたが、決して偉ぶらず、どちらかというと控えめな人でした。リサの家に行くといつも小さな作品をくれるのですが、渡すときも”気に入ってくれるかしら”という謙虚な感じで、その人に合うものを真剣に選んでくれているのも伝わってきました。
リサがティッシュの中から取り出した柴犬の置物
あるときには、リサが”ちょっと来て”といって私を玄関に呼び出して、握りしめていたティッシュの中から小さな柴犬の置物を取り出したんです。私へのプレゼントだったのですが、ドキドキした様子で反応をうかがうリサがなんともかわいらしかったです」(佐々木さん)
かつては、量産を容認する姿勢から、スウェーデンの権威的な機関やピュアアートの世界からは認めてもらえず、ジレンマを抱えていたというリサ。その一方で、ユニークピース(一点もの)も多く制作し、さまざまな作品を通じて広く知られる存在になっていった。
「リサはすべての陶器の原型を自分の手でつくり、職人たちに事細かな指示を出しながら型を完成させていきました。型を使う以外は1つ1つ手仕事で仕上げられていて、それが量産といえどもオリジナリティにあふれた作品を生み、日本でも多くの人に愛されたのでしょう」(勝木さん)
2022年には、91歳になっても意欲的に創作を続けるリサのもとに吉報が届く。それは、スウェーデンの芸術文化への貢献により、政府から勲章を授与されるという名誉なものだった。「私がつくっているのは無用なもの」とこぼすこともあったが、リサの尽きることのない想像力と制作意欲により、自らジレンマを吹き飛ばしてみせた。
≫【連載をはじめから読む】すべては一通の手紙から始まった——北欧を代表する陶芸家リサ・ラーソンが日本で愛された17年
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連載の第4回は、今まであまり知られてこなかったリサ・ラーソンの素顔について。近日公開予定です。
トンカチ
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文=田辺千菊(Choki!)
撮影=深野未季、平松市聖(3ページ目2枚目)
提供写真=トンカチ
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