局アナの枠を飛び出したマジカルな思考回路の冒険『安住紳一郎の日曜天国』

日刊サイゾー / 2012年8月4日 8時0分

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 放送局に所属する男性アナウンサーの中で、いま最も「フリーに近い男」。安住紳一郎がそう呼ばれるには理由がある。その理由とは、当たり前に聞こえるかもしれないが、彼が断トツに面白い人間だからである。ルックスや仕切り能力が評価されているのはもちろんだが、それだけでは業界内で一流の評価は得られない。だが、その面白さの発揮される余地が、テレビにはほとんどないというのも事実。彼の真価はラジオでこそ100%発揮される。『安住紳一郎の日曜天国』(TBSラジオ/日曜10:00~11:55)とはつまり、人間・安住紳一郎の魅力が高濃度でパッキングされた番組である。彼の評価を根底で支えているのは、間違いなくこの番組なのだ。

 ラジオでの安住は、「アナウンサー」ではない。安住だけでなく、ラジオで冠番組を持つすべての「アナウンサー」が、ラジオにおいては「アナウンサー」ではない。ラジオのしゃべり手は、芸人であろうと歌手であろうと俳優であろうとアナウンサーであろうと、みな平等に「パーソナリティー」と呼ばれる。つまりラジオという戦場は、職種を剥ぎ取られた裸一貫の状態での、個の勝負の場として設定されている。ラジオを面白くするには、自らが見栄っぱりな衣を脱ぎ捨て、弱みも情けなさも変態性もあらわにしてリスナーにぶつかっていくしかない。『日曜天国』で明らかになる安住の魅力とは、まさにそういった、アナウンサーとして一見マイナスイメージとも取られかねない、人間らしい性質の数々である。そういう意味では、伊集院光が深夜ラジオで放つ魅力に近い。ただ安住のほうが、ルックスの爽快感と隠された毒性のギャップが大きい分、衝撃は大きいかもしれない。しかもこちらは日曜の朝からである。

 安住の最大の魅力は、その独特の思考回路にある。人間の性格とはつまり、「何をどういう順番で考えるか」ということであって、魅力的な思考回路は人間的魅力に直結する。番組は毎度、丁寧な挨拶と天気の話題から入り、最近安住の身のまわりに起こったことをきっかけに、飛行機が徐々に離陸するように約30分のフリートークが展開されてゆく。ほかにも、生姜焼きマニアやマリンバ奏者など珍しいゲストを迎えるコーナーや、ほのぼのとした雰囲気ながらも毒の効いたメッセージ紹介コーナーなどもあるが、やはり長尺のオープニングトークがこの番組の肝だろう。

 例えば、ある日のフリートーク。いつも通りの気候の話から、安住はその日が素晴らしい陽気であるということを伝えるのに、こんな話をする。その日の早朝、徹夜明けの安住は徒歩で帰宅途中、自転車を颯爽とこぐ女性に遭遇した。ごく普通の話だ。だが安住は、すれ違いざまに見たその女性の、まるで鼻歌を歌う寸前のような、口笛を吹く寸前のような恍惚とした表情になぜか衝撃を受ける。俺もあんな顔をしてみたいと強く思う。しかも今すぐに、家に着くまでの間に。安住は顔を変形させ、なんとかその女性そっくりに恍惚の表情を作り出そうと試みるが、どうしても再現できない。そこで、「なぜ俺はあの人と同じ気候のもと過ごしているのに、同じ顔ができないんだ」と考えた安住は、「ああ、俺は今さほど心地よくはないんだ」と急に気づき、「じゃあ、できないや」と、あっさりあきらめたという。

 そう、それだけの話だ。単に「自転車をこぐ女性の恍惚の表情から、気候のいい朝だと気づいた話」というだけなのだが、しかし何かが決定的に狂っている。まず自分が心地よくないことに気づくのが遅すぎるし、そもそも他人が浮かべた恍惚の表情を見たからといって、どうしてもそれをマネしたいと思うだろうか? しかも、相手は異性である。同じ顔などできるはずがない。それ以前に、「同じ顔ができれば同じ感覚を共有できる」という発想が、根本的に間違っている。夢中になったわりには、ラストのあきらめも妙によすぎる。よく考えてみると、全部がおかしい。考え方も考える順番も、感覚も狂っている。まるで夢の論理である。なのになぜか話の流れは異様にスムーズで、特に身に覚えもないのに共感できる上、なんだか意味不明な説得力さえある。この「異様な思考回路をスムーズに伝える」能力は、やはりアナウンサーだからこその特性なのかもしれないが、普通の局アナにこんな思考回路はおそらくない。あったとしても、それを的確に伝える言語感覚を持っていない。だから安住紳一郎はすごい。

 ほかにも安住は、「入浴中に額からしたたる汗を見て、ここから『俺の塩』ができるのではないか」と考え実際に自力で塩を精製したり、独自の理論でパンダの名前を予想してことごとく的中させたり、「アメリカンチェリーが日本に普及した歴史」をきっちり説明した上で、「あれはパン食をいつの間にか日本に根づかせたGHQの戦略と同じく、アメリカの陰謀だ!」と声高に唱えたりする。こういうと完全に危険人物だが、彼の話は決して独りよがりな妄執ではなく、その語り口には、同時に自らを冷徹に見つめる客観性をも強く感じさせる。そこには、少年のように純朴かつ感覚的な思いつきを、客観的な理論と知識で突き詰めていく知的な面白さがある。それはやはり、すべての根底にある彼の思考回路が抜群に面白いということだろう。『日曜天国』リスナーにとってラジオとは、パーソナリティーの思考回路が飛び出してくる魔法の箱なのである。
(文=井上智公< http://arsenal4.blog65.fc2.com/
>)

※画像は『安住紳一郎の日曜天国』


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