もし“理想の恋人”が目の前に現われたどーする!?  情熱的で予測不能な彼女『ルビー・スパークス』

日刊サイゾー / 2012年12月7日 13時0分

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 誰しも頭の中には“理想の恋人”が暮らしている。子どもの頃に夢中になったアイドル、ずっと想いを寄せていた初恋の相手、若くて優しかった頃の肉親の面影……それらのイメージが混然一体化した最強の脳内恋人だ。一種の偶像崇拝であり、そんな理想の恋人は現実には存在しないことは分かっている。でも万が一、実在したら? 自分の頭の中から飛び出してきて、目の前に現われたら? でもってベッドを共にしたら? ライトノベルや深夜アニメで取り上げられそうな極めてチープでシンプルな題材に、映画『ルビー・スパークス』は堂々と挑んでいる。最初はたかをくくって観ていたものの、“理想の恋人”を演じたゾーイ・カザンの透き通った青い瞳にすっかり引き込まれてしまう。

 映画には実に様々な“理想の恋人”が登場してきた。映画『モテキ』(11)の幸世(森山未來)は七転八倒、悪戦苦闘の末に、みゆき(長澤まさみ)という最高の美女を手に入れる。でも、理想の彼女をゲットしたら、その後が大変だ。恋愛成就という非日常的イベントが、やがて日常風景へと変わってしまう。幸世は念願の恋人を手に入れた喜びと同時に途方に暮れてしまう。パトリス・ルコント監督の『髪結いの亭主』(91)の主人公(ジャン・ロシュフォール)は、少年の頃からずっと夢に見てきた理想の女性(アンナ・ガリエナ)と出会ってしまったばっかりに、残酷な仕打ちを受ける。甘くとろけるような幸福な日々の代償として、その後は空虚な人生を歩むはめに陥る。

 SFファンタジー『ある日どこかで』(81)で若き劇作家に扮したクリストファー・リーヴの場合はもっと悲惨だ。古い写真の中の美女(ジェーン・シーモア)に直接逢うために、催眠療法を使って70年近い“時間の河”をさかのぼっていく。運命の女性との遭遇を果たすが、その結果命を落とすことになる。理想の恋人と出会うことは、非常にリスキーなことなのだ。それでも逢ってみたい、理想の恋人に。心の片隅で誰もが願う深層心理が、映画というフィクションの世界を突き動かしていく。

 『ルビー・スパークス』のヒロインであるルビー(ゾーイ・カザン)は小説に出てくる女の子の名前。人づきあいが苦手で、犬の散歩以外は自宅に引き蘢っている小説家のカルヴィン(ポール・ダノ)が日記代わりに書き始めた小説の草稿に登場する。デビュー作は運良くベストセラーになったものの、その後はまったく小説が書けなくなってしまったカルヴィンは、精神科医に勧められ、自分が気に入っていることをテーマに文章を書き始める。恋人と別れて久しいカルヴィンは、自分が想像する理想の女の子との恋愛物語なら楽しく書けるだろうと軽い気持ちでタイピングを始めた。好奇心旺盛でちょっとエキセントリックな不思議ちゃん。家族のいない、どこか淋しげな影が差している。自分好みなルビーの容姿、性格、プロフィールを打ち込み、満足げに眠りに就くカルヴィン。そして翌朝、ベッドから起きると、小説の中で描いたまんまの女の子が目の前にいたのだ。彼女は自分のことを「ルビー」だと名乗るが、自分が小説上の存在であることには気づいていない。かくして、理想の恋人と過ごす理想の生活がスタートする。

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