信玄とノムさんを融合させる松村邦洋至高の技が、歴史への扉を開く『DJ日本史』

日刊サイゾー / 2013年6月16日 16時0分

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しゃべりと笑いと音楽があふれる“少数派”メディアの魅力を再発掘! ラジオ好きライターが贈る、必聴ラジオコラム。

 歴史とはつまり「ワイドショー」であり、四次元版「すべらない話」である。数年に一度レベルの衝撃的事件という「点」の連続によって歴史という「線」は成立しているが、つまるところ個々の「点」は当然のことながら生々しい人間ドラマであって、単なる客観的事実の連続ではない。そんな人間臭い歴史のエンタテインメント性を如実に感じさせてくれる番組が、『DJ日本史』(NHKラジオ第1 隔週月曜21:05~21:55)である。

 番組MCを務めるのは、大河ドラマ狂であり日本史通として知られる松村邦洋と、江戸文化歴史検定一級を持つ「お江戸ル」の堀口茉純の2人。松村に関しては、テレビ(特に『電波少年』)におけるイジられキャラのイメージが強いが、ラジオの世界では『オールナイトニッポン』のパーソナリティーを担当していたこともあり、そのしゃべりの評価は高い。そしてこの番組はまさに、松村の芸人としての確かな力量をベースに作られている。

 しかし『DJ日本史』という番組名であるからには、DJは「日本史に登場する人物」でなければならない。ここで松村の、稀有な特殊能力が生きてくる。松村といえばビートたけしなどのモノマネ芸でおなじみだが、彼のモノマネには、二つの大きな特徴がある。一つは「発言の方向性までマネる」という技で、何を質問されても「本人が言いそうな答えをアドリブで返す」という能力を持っている。そしてもう一つは「モノマネのモノマネをする」というスタイルであり、この二つの能力が、松村の「偉人モノマネ」を可能にしている。

 番組内の要所要所で松村は、歴史上の偉人になりすましてフリートークを繰り広げる。彼のモノマネが似ているあまり、つい普通に受け入れてしまいそうになるのだが、そこで行われていることは、実のところ、とんでもなく複雑怪奇なことなのである。なぜなら聴き手である我々は、それら歴史上の人物本人のしゃべりを、まったく聴いたことがないからだ。それなのに彼のモノマネは間違いなく面白いし、似ているとさえ感じるのである。これは一体どういうことなのか?

 この偉人モノマネにも、二種類の型がある。一つ目のパターンは、「大河ドラマで徳川家康の役をやっていた津川雅彦のマネをする」というような、「モノマネのモノマネ」というスタイルである。松村は津川のモノマネを得意としている上、無類の大河ドラマ好きでもあるので、「徳川家康役の津川雅彦」のマネができるという図式が自然と成り立つ。これならばセリフもドラマ内のものが使えるため、聴き手のイメージも、ドラマ内の津川を通じて徳川家康に到達することができる。

 これだけでも十分に変則的なスタイルなのだが、問題はニつ目のパターンで、こちらははるかにスタートからゴールまでの経路がねじれている。たとえば松村は野村克也の口調で、武田信玄のマネをする。本人は信玄だと言っているのだが、そのボヤき口調は完全にノムさんのものだ。確かに「智将」というイメージは共通しているが、もちろんノムさんが信玄役をやったことなどない。信玄にボヤく印象もない。しかしその発言内容からは、それぞれの息子の名前が「勝頼」と「克則」で似ていて、ともに同程度に期待外れだったという共通点が、細い糸のように浮かび上がってくる。するとそのボヤき口調までが、不思議と徐々に信玄のものであるように思えてくるのである。これはちょっと異様な体験であり、ある種の発明であるといってもいいだろう。

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