北朝鮮ニューリッチの「青田買い」で予想される食糧争奪戦の熾烈化

デイリーNKジャパン / 2020年10月1日 6時32分

軍傘下の農場を現地視察した金正恩氏(2019年10月9日付朝鮮中央通信より)

朝鮮半島において旧暦の8月15日は、日本のお盆に当たる秋夕(チュソク)で、今年は新暦の10月1日がそうだ。韓国では連休となり、都会に住む人々は帰省して墓参りや先祖を供養する儀式を行う。供え物や親戚一同に供する大量の料理を作るとあって、各地の市場は大賑わいになるものだった。

その辺の事情は北朝鮮も概ね同じだが、新型コロナウイルス流入防止策として国境が封鎖され、貿易がストップしてしまったことで物価が高騰、寂しい秋夕となっている。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋は、市場で売られているほとんどの商品が中国製で、値段が高騰したままで下がろうとしないと伝えた。そのため、儀式の供え物を簡単に済ませようとする人が増えているとのことだ。

一方で、米政府系ラジオ・フリー・アジア(RFA)は、慈江道(チャガンド)の情報筋の話として、トンジュ(金主、新興富裕層)が物価の高騰を利用して一儲けしようとしていると報じている。

近年の北朝鮮は連続して自然災害の被害を受けているが、今年は3つの台風の被害を受けた「当たり年」だった。穀倉地帯では甚大な被害が発生、ただでさえ不足している食糧がさらに不足することが予想されている。

情報筋は、地域ごとに多少の差はあれど、協同農場も個人の畑も被害を受け、収穫量は昨年の半分以下となり、食糧事情は(1990年代後半の食糧危機の)「苦難の行軍」以降で最悪になるとの懸念が急速に広まっていると述べた。

「リスクがチャンス」とばかりに動き始めたのがトンジュだ。この時期は秋夕で穀物の需要が高まる上に、公式の貿易はいつ再開されるかわからない状況だ。秋の収穫を終えて翌年の春先から麦が取れる初夏までの間に、食べるものが底をつく「絶糧世帯」が増加することは目に見えている。

(参考記事:金正恩体制に暗雲…食べ物がない「絶糧世帯」が急増中

そこでトンジュは農村に出向き、協同農場の幹部にカネを渡して、収穫前にその田畑の穀物を買い取る「青田買い」を行っている。もちろん、穀物価格のさらなる高騰で大儲けするのが目的だ。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は、トンジュから受け取ったカネを当面の生活費としているが、そんなトンジュのやり口に不安と不満が拡散、国が統制すべきと主張している。しかし、当局は何ら対策を取ろうとしない。

今後予想されるのは、食糧争奪戦の激化だ。協同農場での収穫物の多くは国が買い上げることになっていて、「軍糧米」として軍に供給される。しかし、農場や農民は軍に召し上げられる量を少しでも減らすために、穀物を隠すなどして抵抗する。軍は農場に乗り込み、食糧を半ば強奪しようとする。トンジュも青田買いしたものを奪われるわけにはいかないので、この争いに加わることになるだろう。

(参考記事:兵士が農民に銃を向けて…北朝鮮「食糧争奪」で分裂の危機

農民は、種や営農資材を購入するために借金をして、秋の収穫物で返済しているが、その返済にも息詰まる。もし穀物すべてを軍に奪われることになれば、青田買いで受け取った代金の返済を求められることになる。

(参考記事:農民も借金取りも途方に暮れる北朝鮮の農村の冬

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