災害復旧の人員不足で北朝鮮軍の兵役延長、広がる不安感
デイリーNKジャパン / 2020年11月4日 5時50分
台風9号(メイサーク)が朝鮮半島に上陸したのは今年9月。北朝鮮最大の亜鉛の産地、咸鏡南道(ハムギョンナムド)端川(タンチョン)市の検徳(コムドク)鉱山では、坑道全てが浸水し、数多くの死者、行方不明者を出した。
鉱山のイルクン(幹部)と労働者は、朝鮮労働党検徳鉱山委員会に対して台風の危険性を説明し、台風が来る前にすべての設備と労働者を撤収させるべきと提言したが、党委員長は聞き入れず、大きな被害を招いた。
(参考記事:北朝鮮最大の亜鉛鉱山、台風で坑道すべて水没し死者多数)
被災地には朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士が投入され、復旧作業に当たっているが、最近、人民武力省の隊列補充局(人事管理の部署)が下した命令が波紋を呼んでいる。世界で最も長い10年にも及ぶ兵役を終えようとしている満期服務生(兵役終了予定者)の兵役期間を延長しようとしているというのだ。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
デイリーNKの軍内部の情報筋によると、今年10月に兵役満了を控えていた兵士らに対して、満了を来年2月まで延長するとの命令が下された。隊列補充局は今回の命令文で、「復旧現場の軍技術人力の空白を懸念する」と、その理由を明らかにしている。言い換えると、人手不足ということだ。
朝鮮人民軍は、通常毎年春と秋の2回に分けて除隊を行うが、今回の命令に伴い、検徳地区に投入された人員に限って、兵役を4〜5ヶ月延長することになった。ただし、中央大学(一流大学)の入学が割り当てられている者は、その対象から除外された。
北朝鮮では現在、来年1月に開催予定の朝鮮労働党第8回大会に向けて「80日戦闘」が繰り広げられている。金正恩党委員長が繰り返し現地指導を行うなど、災害復旧と80日間戦闘に関心を寄せているだけあって、年末までの作業完了は至上命題だ。
「第8回党大会を控えて行われている80日戦闘の期間、祖国防衛と経済建設の2本の柱の最前線を人民軍に任せた党の信任と期待に、期日の保証で応えるには、今の現場の人員だけでは難しい」
「結局は、党の呼びかけに応えるため、満期服務生(兵役終了予定者)の除隊時期を遅らせるという特別な措置を行ったものだ」(情報筋)
(参考記事:「80日戦闘に火をともす」金正恩氏、災害復旧現場を現地指導)
隊列補充局は、来年春に兵役が再延長される可能性はないとしている。しかし兵士の間では、以前も農村や鉱山で建設作業に当たっていた満期服務生が、そのまま現場に集団配置されたり、志願を強いられたりしたことがあることから、来年に無事除隊できるかわからないとの不安が生じている。
復旧作業の完了後は、事故により不足している鉱山で働く人員を集団配置で賄うのではないかとの見方も出ている。
なぜ集団配置をそんなに嫌がるのか。それは、国の立場からすると重要だが、誰も行きたがらない場所に有無を言わさず送り込まれるからだ。
生まれ育った故郷から遠く離れ、生活インフラも整っておらず、副業で商売をしようにもまともな市場すらない。そんな集団配置先に嫌気が差して、勝手に故郷に戻ってしまったり、中には脱北したりする人もいる。
(参考記事:北朝鮮で深刻な人手不足、頼みの「除隊軍人」も次々失踪)
2015年には、海外への出稼ぎに行かせるとの触れ込みで、除隊を控えた兵士を集め、両江道(リャンガンド)白岩(ペガム)のジャガイモ農場に集団配置するという詐欺的行為が行われた。話が違うと離婚する夫婦が続出し、家庭不和の末に自ら命を断つ人が現れるなど、大きな騒ぎとなった。
(参考記事:北朝鮮、海外派遣のはずが山奥の農場へ…騙された軍人たち、怒り心頭)
カネもコネもある家族を持つ兵士は、今後ありうる集団配置の対象から免れるために、すでに「事業(工作)」を進めている。家族は、権力者詣でに必死になっているだろう。一方で貧しい家の出の兵士は、為す術もなく集団配置させられる。労働環境の極めて悪い炭鉱の暗い坑道で、石炭まみれになって人生を棒にふることになりかねないのだ。
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