北朝鮮、コロナ対策で「ネコ抹殺令」…従わねば人間も危ない
デイリーNKジャパン / 2021年3月1日 6時41分
1950年代の中国で行われた大躍進政策。15年以内に米国と英国に追いつくことを目標に、鉄鋼と農業生産量を大幅に増やすというものだった。しかし、お粗末極まりない政策の連続だった。
そのひとつがスズメの撲滅運動だ。農作物を食い荒らすからと、市民にスズメ退治を大々的に奨励したが、スズメがいなくなり生態系のバランスが崩れてしまったことでネズミ、バッタなどの害獣、害虫が激増し、農業生産は激減。数千万の餓死者を出す悲劇的な結末を迎えた。
それから60年。新型コロナウイルスが全世界で蔓延している今、北朝鮮が同じような愚を犯そうとしている。
平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えたのは、国境を行き来する動物の撲滅作戦だ。
社会安全省(警察庁)は昨年8月、国境近くの緩衝地帯に許可なく接近した人や野生動物を無条件で銃撃するとの布告を下し、実際に人や動物が次々に撃ち殺されている。それだけでは飽き足らず、昨年12月、防疫措置の一環として国境を行き来する動物を撲滅せよとの指示が下され、新義州(シニジュ)の国境警備隊と市民に対してはハトと野良猫をすべて抹殺せよとの指示が下された。
(参考記事:北朝鮮軍、国境地帯で密入国者を射殺し遺体を放置)
ハト退治が必要だとする当局の説明はこのようなものだ。
「ハトは、わが国(北朝鮮)でも中国でも食べるものを求めて飛び交うため、ウイルスを流入させるかも知れないので、見かけしだい始末せよ」
最近、日本で発生が相次いでいる鳥インフルエンザの感染源は、ハクチョウ、ツル、カモなど一部の渡り鳥だが、そこにはハトも含まれる。つまり、ハトだけをターゲットにする根拠は全くない。なお、鳥インフルエンザウイルスは通常ヒトには感染しない。一方で、新型コロナウイルスのハトを含めた鳥類からヒトへの感染例は報告されていない。
野良猫抹殺令の理由は、ほとんど陰謀論に近い。
「ネズミは人の食べ残しを食べてウイルスを移すが、中国でウイルスに感染したネズミが鴨緑江を渡って(北朝鮮)国内にいる野良猫に食べられれば、その野良猫が感染して人にウイルスを移す可能性がある」
厚生労働省の説明によると、新型コロナウイルスに感染したヒトからイヌ、ネコが感染した事例は報告されているがごくわずかで、その逆の事例は報告されていない。
感染症の大規模感染に対応できるだけの医療インフラが存在せず、「コロナ・パラノイア」とも言うべき状態に陥っている北朝鮮は、昨年12月から今年1月末にかけて、新義州を含めた中国との国境に接した地域では、野良猫はもちろん、家でペットとして飼われていた猫まで殺処分する措置が行われた。
中朝国境の東端にあたる咸鏡北道(ハムギョンブクト)の穏城(オンソン)では先月、野良猫退治令が下されていたが、ペットの殺処分まで行われていたのは今回初めて明らかになった。
(参考記事:いよいよ「野良猫狩り」にまで乗り出した北朝鮮)
科学的根拠を欠いたハトや猫の抹殺令に市民は「ひどすぎる」と批判しつつも、指示に従わなければ最悪の場合、政治犯扱いされる可能性すらあるので、しかたなく殺処分に応じている。実際、ハトや猫だけでなく、人間までもが「殺処分」の対象とされている現実がある。
(参考記事:「気絶、失禁する人が続出」金正恩、軍人虐殺の生々しい場面)
ただ、ハトや猫が姿を消したことで、さっそく問題が生じている。情報筋は「激増と言うほどでない」としつつも、ネズミが目に見えて増えたと伝えている。市民の間では「天敵の猫がいなくなったからネズミが増えているのではないか」「ウイルスを抑えようと何の罪もない猫を殺した」「これがまともな防疫措置なのか」などと、当局の方針に異を唱えている。
情報筋は「人間に害を及ぼすほどネズミの数が増えるかは、今後を見ないとわからない」としつつも、度重なる自然災害、制裁、コロナ対策の貿易停止で農業生産量が減少し、1990年代の大飢饉「苦難の行軍」の再来が囁かれている中で、60年前の中国が犯した愚を、北朝鮮は繰り返しているのだ。
(参考記事:90年代の大飢饉「苦難の行軍」と似てきた北朝鮮の状況)
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