くまモンは幻想!? 本当に恐ろしい「羆」の話(ブックレビュー)

ダ・ヴィンチニュース / 2013年4月16日 11時30分

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『羆嵐』(吉村 昭/新潮社)

 この作品、『羆嵐』と書いて「くまあらし」と読む。「羆」という見慣れない漢字は単独で「ヒグマ」。北海道の開拓村を襲い、複数名を死に追いやった、規格外の体格を有するエゾヒグマ(身長約2.7m、体重約380kg)と、残された村民との攻防戦を描いたもの。

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 作者はノンフィクション小説の大家として名高い吉村昭。1977年に発表されたこの作品が電子書籍化されている。純粋なノンフィクションではないが、モチーフは日本史上最大・最悪の獣害とされる「三毛別羆事件」。これは大正4年の12月9日から14日にかけて北海道苫前郡苫前村三毛別六線沢で発生し、7名の死亡者を出したヒグマ獣害事件で、作者はこの事件を詳細に調べ、さらに当事者・関係者を徹底取材した上で物語にまとめた模様。つまり、限りなく事実に近いフィクションであり、故にそのリアリティは圧倒的である。

 いわゆるネイチャーサスペンスではあるのだが、全編に漂う底冷えするかのような恐怖と緊迫感が尋常でない。ヒグマの登場するこの手の作品と言えば、以前レビューした北林一光の『ファントム・ピークス』などが挙げられるが、それらより年代的にかなり古いハズのこの作品、迫力と説得力で全く引けを取っていない。少なくともヒグマという「猛獣」の描き方に関しては、おそらくこの『羆嵐』がいちばん正確な上に、いちばん怖いのではないだろうか?

 とにかくクマという動物に対し、我々は幻想を抱きすぎているきらいがある。プ●さん、最近ではくま●ンなど、クマをモチーフにした子ども向けキャラは昔からいつでもそばにあったし、現在でもぬいぐるみの定番はテディベア。幼稚園・保育園では、きっと今でも「森のクマさん」を熱唱する子どもたちがいるだろう。大人ですら実際に山道でクマに出会ったら、死んだふりでお茶を濁す人がほとんどな気がする。

 前記の通り、ヒグマは日本最大にして最強の「猛獣」である。雑食で、下手すれば人間を襲って食べることもあるし、死んだふりなどはまず通用しない。もちろん、森で出会っても「お逃げなさい」とすすめてくれるワケがないし、落とし物を届けてくれたりもしない。戦おうにも、ほとんどのヒグマの体長は2.5mを超える。プロレスラーの故・アンドレ・ザ・ジャイアントより30cmも背の高いヒグマを重火器を使わずにKOできる人間が存在するのであれば、僕は問答無用でその人を世界最強と認めるであろう。

 そんな猛獣の本当の姿、生態を知ることは絶対に必要な気がする。特に北海道、しかも野生のヒグマの生息地近辺に居住する人たちは、冗談でなくマストで読んでおいてほしいほど。この作品は実際に起こった事件を元に描かれているから、ヒグマの真の恐ろしさがイヤでもわかることと思う。

 ヒグマのくだりだけでなく、大正期・開拓民の生活を細かく描写し、当時の過酷さをリアルに伝える構成も見事。北海道の近代史に興味のある人なら、きっと格好の資料となるはず。

 当然、ノンフィクション好きは必読。さらに、サスペンス愛好家にもオススメ!

文=サイトウタクミ
(ダ・ヴィンチ電子ナビ「エディターレビュー」より)

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