グロ&シュール。古代日本人の奔放な生き様を堪能できる話題の古典漫画

ダ・ヴィンチニュース / 2013年5月29日 11時30分

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『漫画・日本霊異記』(ichida/メディアファクトリー)

 そのむかし、アメリカの文化人類学者ルース・ベネディクト女史は、著書『菊と刀』という、日本人の国民性の研究書の中で、日本人の文化は「恥の文化」であると規定しました。

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 キリスト教文明の欧米と異なり、多神教の日本では、神や仏の意識はそれほど強くなく、意識するのは世間の目で、他人に笑われたくない、恥をかきたくない、これが日本人の行動を決めるというのです。つまり、正しいかどうかではなく、世間がそれをどう思うかが重要ということですね。

 古代の日本ではこの傾向が顕著だったらしく、お金をだまし取っても、ひとさまの奥さんを寝取っても、気に食わない人を殺しても、「バレなければそれでよし」の人も多かったようです。そんな世の中を憂えた僧・景戒さんが、私利私欲に走る庶民に「良心」や「罪の意識」を教えるために全国各地を旅して集めた物語が、日本最古の仏教説話集『日本霊異記』。

 “仏教説話”なんて聞くと、お堅い説教話が収録されていると思われるかもしれませんが、実はオカルト・ファンタジーともいうべき面白い話のオンパレード! それもそのはず、お堅い話なんてしていたら、もともと仏教的な道徳観なんて持ち合わせていない庶民に興味を持ってもらえるはずはありません。まずは「本当にあった不思議な話」で読者を惹きつけておいて、そこから「悪い行いをしたら罰があたる」「善く生きれば報われる」といったいわゆる“因果応報”の理を示すストーリーを提示することで、人々を「仏の道」に正しく導こうとしたそうです。やはり人の心をつかむにはキャッチーで分かりやすいことが重要ということでしょう。

 この古典を、面白おかしくコミック化したのが『漫画・日本霊異記』(メディアファクトリー新書)で、発売後即重版されるなど、いまひそかに話題となっています。『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』(PHP研究所)などシニカルでシュールな作風が人気の漫画家ichida氏が、『日本霊異記』のなかから厳選した説話を独自の解釈でユーモラスに描いていて、例えば、狐を妻にして子供を生ませた男の話や、団子状の肉塊から異常誕生した娘の話、3年以上、法華経を読み続けた髑髏(どくろ)の話、舟を持ち上げる超怪力女の話など、ときに過剰なほどに残酷でエロティックだったり、前衛小説さながらのシュールさだったり、奇想天外なエピソードが14編収録されています。

 数年前、大きな話題となった『本当は恐ろしいグリム童話』では、おとぎ話の中に隠された残酷さ、狂気、不道徳の世界、男女の性愛などが、時代を経て修正する前の形で語られていますが、同じように『日本霊異記』でも古代の日本人の奔放な生き様やアクの強い知恵をなまなましく堪能することができます。単に「善く生きる」ことを推奨する教科書的な物語より、もしかしたらこういった内容の方が現代人にとってもよい教訓となるかもしれませんね。


(ダ・ヴィンチ電子ナビより)

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