怪談=故郷!? 稲川淳二が語る怪談観

ダ・ヴィンチニュース / 2013年8月6日 11時40分

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『ダ・ヴィンチ』9月号(メディアファクトリー)

 夏といえば怪談。怪談といえばこの人、稲川淳二! 『ダ・ヴィンチ』9月号では、稲川淳二を表紙に迎えて「稲川淳二が贈る真夏の怖い話」を大特集。怪談語りの第一人者であり、21年目の全国ツアーを敢行する稲川さんに、怪談のもつ怖くて楽しい魅力についてインタビューを行っている。

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 「わたしの怪談なんて、大したものじゃないんです。落語や講談のような芸術作品じゃない。もっと身近な、生活の中にあるもの。田舎のジジイがまた喋ってるなあ、という感じで聞いてもらうのがいいんですね。結局、怪談っていうのは“故郷”なんだと思います。今の若い人たちは、田舎の風景ってあまり見たことがないでしょう。でも、都会で生まれ育った人でも、怪談を聞けばなんとなく日本人の故郷を感じることができる。わたしが一生懸命やっているのは、日本人に故郷を届けることなんです。わたしは幽霊も背負ってますけど、故郷も背負ってるんですね(笑)。夏になるとやってくる故郷のジジイがまた怖い話をしているぞ、っていう感じですよねえ」

 こうした日本人の伝統や文化を大切にしながらも、怪談に科学的な目を向けることを忘れないのが稲川さんのユニークなところ。「怪談には電気的なものが関わっている」「心霊現象と磁場は関係がある」という理系な推論を立ててしまうのも稲川さんなのである。

「よく幽霊を見るのは“草木も眠る丑三つ時”って言いますけど、同じような言い伝えはヨーロッパにもある。ということは、単なる迷信じゃなくて、背後に理屈のつく説明があるんじゃないのかな、という気がずっとしていたんですよ」

 今号の表紙撮影時、稲川さんが持ってきてくれたラインホルト・メスナーの『死の地帯』は、そんな疑問を解き明かすヒントを与えてくれた一冊。世界的登山家のメスナーが、生死の境目に現れる特殊な意識状態に迫った、異色の山岳ノンフィクションだ。一見怪談とは関わりのなさそうなこの本が、当時30代だった稲川さんの怪談観を大きく変えた。

「登山家が命の危険に出会ったとき、どんなことを感じるのか。それが書いてあるんです。たとえばある外国の登山家は、崖から転落する瞬間、恐怖をまったく感じなかった。それよりも、ポケットに入っている大切なナイフのことを心配していたっていうんです。よく火事場の馬鹿力って言いますけど、あれに似ているのかもしれません。危機的状況に陥った人間には恐怖や苦痛をシャットアウトする仕組みが、生まれつき備わっているんです。これは霊の世界とも共通する話だなあ、という気がしましたね。この本に出会って以来、わたしの怪談観がちょっと変わりましたね。日本人の伝統を大事にしながら、人間科学のような考え方も意識するようになったんです」

 以来、科学者の実験室に足を運ぶなどして、霊の世界の探究を続けているという。怪談を楽しむこととその正体に迫ることは、稲川さんの中でまったく矛盾しないのだ。

「こういう話をすると『稲川さんは幽霊を信じてると思ってました』って言われるんですけどね、違うんですよ。本物があると言いたいから、偽物を否定しているんです。もちろん、作り話でも楽しいものはありますよ。フィクションでも素晴らしいものはたくさんある。でも、明らかな偽物をやられちゃうと夢を壊しちゃう。やっぱり怪談も夢ですからね」


取材・文=朝宮運河
(『ダ・ヴィンチ』9月号「稲川淳二が贈る真夏の怖い話」特集より)

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