『あまちゃん』春子だけじゃない!? 夢負い人が陥る構造的な悲劇とは

ダ・ヴィンチニュース / 2013年8月7日 12時10分

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『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』(渋谷直角/扶桑社)

 現在、日本中を熱狂の渦に巻き込んでいる『あまちゃん』。物語は終盤に差しかかり、主人公のアキはアイドルグループを脱退せざるを得なくなってしまったが、その背景にあるのが、プロデューサーの荒巻太一と母・春子の間にあった過去の因縁だった。

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 ドラマでは、かつて歌手を目指して上京した春子が、デビューしたばかりの女優・鈴鹿ひろ美の影武者として『潮騒のメモリー』を歌い、名前の出せない歌手デビューを果たしていたという過去が判明。これが20年以上も尾を引き、娘の脱退というところまで影響を与えてしまった。

 もちろんこれはドラマの中での話だが、例えばAKB48を思わせる巨大グループのヒエラルキー構造など、現実世界の実情を巧みに引用しながら物語を組み立てている宮藤官九郎の手法を考えると、これもひとつの“芸能界あるある”と言えるのかもしれない。

 そんな「歌手デビューを夢見る女性にのしかかる厳しい現実」を生々しく描いたのが、渋谷直角のマンガ『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』(扶桑社)。最初は「鉛筆ラフ描き、コピーしてホチキス留め、50部だけ販売のきったねえマンガ」として世に出たという本作は、ツイッターなどで徐々に評判が広がり、ついには単行本として出版に至ったという異色の短編集だ。

 物語の主人公は、「有名になりたい…!!!」の一心でデビューを目指す35歳の女性歌手。テレフォンオペレーターで食い扶持を稼ぎながらミニライブを重ね、流行りの音楽を取り入れ、ときに枕営業までしながらデビューのチャンスを虎視眈々と狙っている。そんな中でようやくつかんだのが、「カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバー」アルバムに参加する一歌手としてのCDデビューだった。

 プロデューサーに強要された変態プレイに耐えてまでつかんだチャンスだったが、CDのセールスは不発に終わり、次につながることなく尻すぼみとなった。しかも、過去の枕営業が望まぬ妊娠という結果になり、絶望の中で歌手の夢は終演を迎えた。

「ウソでしょ!? まさかでしょ!? これから…これからCDデビューするのよ!? ボサノヴァのカバーをきっかけにして…。ユニクロのCM曲やって、中田ヤスタカにプロデュースしてもらって、アパレルブランドを立ち上げて、モデルも兼ねたアーティスト活動して、TVブロスとかマーキーで連載コラム書いたりするんだよ…!? その始まりがようやく来たんだよ…!? なのに…なのに、しかもあんなサイテー男の…………………!!」

 何とも悲痛な主人公の叫びだが、この物語を「夢見る女子を食い物にする鬼畜業界人の悪行」と見るか、「無根拠な野心や選民思想的な自意識をこじらせた女の自業自得」と見るかは読む人によって判断の分かれるところだろう。

 しかし、こういった悲劇の背景には、読み物や音楽を「コミュニケーションツール」と見なし、お金をかけないで消費することに慣れてしまった現代人のライフスタイルが存在していることも確かだ。“みんなが知ってる歌”ばかりが求められてしまったら、アーティストの個性など不要なカヴァーアルバムが横行するのは必然かもしれない。

 本書は“サブカルクソ野郎”を風刺したマンガに見せかけて、その実「現代人の消費スタイル」を批判している毒気たっぷりの作品といえそうだ。


文=清田隆之
(ダ・ヴィンチ電子ナビより)

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