「ゾンビ」の生活はエコ? ゾンビ発生を、国際政治から真面目に考える

ダ・ヴィンチニュース / 2013年8月17日 7時20分

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『ゾンビ襲来:国際政治理論で、その日に備える』(ダニエル・ドレズナー:著、谷口功一、山田高敬:訳/白水社)

 ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの期間限定アトラクション「バイオハザード・ザ・リアル」。ゲームや映画さながら、銃をぶっ放してゾンビを倒すアトラクションだ。しかし7月31日現在、5万人以上が参加したにもかかわらず、いまだに生還は0人という難易度の高さだそうだ。また8月10日から公開中のブラッド・ピット主演の映画『ワールド・ウォーZ』にも大量のゾンビが出てきて、「ゾンビの動きは遅い」という概念を根底から覆すほどのスピードで動き、さらに凄まじい数のゾンビがブワーッと一気に襲ってくるシーンは驚愕必至だ。映画評論家の町山智浩氏によると、史上最高の数のゾンビが出てくる映画であり、低予算で作られることの多いゾンビ映画の中でダントツの200億円という高額制作費をかけているそうだ。

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 もちろんこれらはフィクションの話だが、もしも生還率0%がリアルだとしたら? 俊足ゾンビが一気にドッと襲ってきたら、果たして私たちは逃げ切れるのだろうか?

 その問題を真面目に考えたのが、『ゾンビ襲来:国際政治理論で、その日に備える』(ダニエル・ドレズナー:著、谷口功一、山田高敬:訳/白水社)だ。著者のダニエル・ドレズナー氏は、タフツ大学フレッチャー法律外交大学院で国際政治学の教授を勤めている人で、この学校の卒業生には元国連事務次長の明石康氏や、民主党の野田政権で民間人として初めて防衛大臣を務めた森本敏氏などがいるという、国際関係学では世界屈指の名門校なのだ。

 ドレズナー教授によると、ゾンビ映画などで描かれるモチーフというのは、医学的疾患、暴徒による支配、マルクス主義的弁証法の重要なメタファーなのだそうだ。バイオテロや致死的なパンデミック、テロ、クーデター、国家間の問題や政治のパワーゲーム、紛争や戦争などが絡まり合って、ゾンビ発生問題はさらに厄介なものになる。ちなみに『バイオハザード』では「アンブレラ社」の開発した生物兵器である「T-ウィルス」が下水道に流出してネズミが感染したことがパンデミックの原因だし、『ワールド・ウォーZ』(マックス・ブルックス:著、浜野アキオ:訳/文藝春秋)では、とある国が奇病によるゾンビ化の事実を伏せていたことから感染が爆発、国家間の問題や核戦争にまで発展していく物語だ。

 本書では「リアリスト(現実主義)」「リベラリスト(自由主義)」「ネオコン(新保守主義)」「コンストラクティビズム(構成主義)」など、現代の様々な政治的なスタンスから「ゾンビが発生したら、彼らはどういう行動を取るのか? どんなことが起こるか?」を解説している。例えばネオコンは、極めて迅速に脅威と紛争を発見することから、ゾンビが発生したら「電撃的な勝利を可能にする軍事革命を前提」として「対ゾンビ戦争」を仕掛けるという。これは「普通の世界」でも同じことだ(2003年のイラク戦争を思い出して欲しい)。また軍需産業はゾンビの軍事転用を考え、殲滅することに反対することもありうるという。ゾンビが発生すると、様々な国や人の思惑が絡み合ってくるのだ。

 知ろうとすると非常に難解な国際政治理論だが、本書では「ゾンビ」という異物を絡ませることで、入門者にも国際政治が理解しやすい内容になっているのが特徴だ。さらにはゾンビが低速で動こうと高速だろうと、その拡散には因果的影響が与えられない理由(どっちにしろゾンビは増える)や、ゾンビは大量消費行動も差別もせず、エコな生活をしている(どこにでも歩いて行き、オーガニック食材である人肉しか食べない)ことを明らかにしたりなど、ユニークな視点もある。もしもゾンビが発生した際、犠牲にならないために「国際政治」から学んでみてはどうだろうか。

文=成田全(ナリタタモツ)
(ダ・ヴィンチ電子ナビより)

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