勝負は「落ちる」か「折れる」か。旧七帝大に伝わるもう一つの柔道の物語

ダ・ヴィンチニュース / 2013年8月26日 18時20分

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『七帝柔道記』(増田俊也/角川書店)

 七帝とは旧制の帝国大学七校、つまり北海道大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学のこと。『七帝柔道記』(増田俊也/角川書店)は、その七大学大会に文字通り命を懸ける体育会柔道部の青年たちを描く、熱すぎる青春ドラマなのです。

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 著者は『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』で一躍出版界の寵児となっている増田俊也さん。増田さん自身が北大柔道部出身で、部活引退後さっさと中退してしまったという経歴の持ち主。これは、著者の自伝でもあるのですね。

 七帝大のみの大会というと、エリート感丸出しの排他的な集まりと思う人もいるかもしれません。しかしさにあらず、講道館柔道が世界ルールとなり、実践的な高専柔道が廃れるのを惜しみ、帝大だけでも伝統を守ろうとして開催されたのが発端だそうです。投げ技で勝負が決まる講道館ルールでは体格や才能で予め勝負が決まってしまいますが、寝技で勝負が決まる高専柔道では練習量で勝負が決まるといいます。大学入学時には白帯だった選手が、練習を重ねることによって3段4段の相手を負かせるようにもなるそう。ちなみに寝技というのは、覆い被さって押さえ込むだけではなくて、グレイシー柔術やレスリングのように飛びついて関節を絞めたりする技もあるというのを私は本書を読んで初めて知りました。

 七帝大のみで行われている高専柔道なので、将来五輪に出られるわけでもないし、それで食べていけるわけでもない。それどころか勝っても柔道雑誌にすら載らない。しかし、部員たちはひたすら練習します。それも講道館ルールより長時間の乱取りを気が遠くなるほど。気が遠くなるどころか実際に絞め落とされて三途の川を見たりもしている。さらに、柔道を続けるために留年したり、卒業しないで転部して部活を続けたり。周りの大人も柔道部へのコミットメントが深すぎて、例えばコーチが離婚したり、定時に帰って部員の指導をするためにデスクワークを辞めて肉体労働に転職したりしているのです。旧帝大卒の、簡単に大企業に就職できる人たちが、です。空手バカならぬ柔道バカです。しかも上には上がいてそこまでしてもなかなか勝てない。勝つためにはより激しい練習を続けなくてはなりません。ときには負傷をしてでも。

 しかし読み進むうちに、そこまでする彼らの気持ちに圧倒され、共感してしまうのです。こんなに打ち込めることがあり、仲間に恵まれ、うらやましいとさえ思えてくる。「秘伝」という、巻頭特集が空手家の滝行だったりするコアな武道誌に連載されていた作品ではありますが、女子も感動することは間違いなし。老若男女の心を動かす本だと断言できます。

文=遠藤京子
(ダ・ヴィンチ電子ナビより)

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