Amazon発の衝撃作をレビュー ―鬼とは誰か、疑心暗鬼の6人の中で、血みどろのサバイバル劇が始まる

ダ・ヴィンチニュース / 2013年11月22日 12時10分

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『お前たちの中に鬼がいる』(梅原涼/主婦の友社)

 TULLY’COFFEEの「マンゴータンゴスクワール」というのがなかなか美味しいですな。フローズンマンゴージュースの上からマンゴーピューレをぶっかけるという恥知らずの蛮勇で、お汁粉にぜんざいをかけて食べさせるにも似た開き直った発想がいささか人を「ひるませ」はするのでありますが、食べてるとなにか憑りうつるのか、こうなったらステーキで焼き肉巻いてもってきても俺には闘う用意があるという破れかぶれの気持ちになってくるおいしさです。

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 ミルフィーユというのも好ましいお菓子です。層になったパイ生地の懐にカスタードなんかがしのばせてあって、どうかするとイチゴなんぞも隠されており、フォークが口元を行き来するたびに、いろいろな味わいが繰り返し舌に訪れるという。

 そういう“段”がまえの面白さでできているのが本書『お前たちの中に鬼がいる』(梅原涼/主婦の友社)であります。鬼のミルフィーユ。

 物語は語り手の高校教師・須永彰が、意識の断続感はないのに、ふと気がつくとどこか見知らぬ部屋の椅子に座っており、自分に関する記憶がすべて失われている、そういう奇妙な状況から始まります。でもこれね、こういうの、けっこう使われるシチュエーションですよね。ふと目を覚ますと見知らぬ場所で、「ここはどこ? 私は誰?」っていうやつ。

 ちょっと聞くと謎めいてそそる感じがするのですが、ネット小説や、とくにゲームの世界ではアドべンチャーゲームなどに、めっちゃ多用されている設定なんではないでしょうか。『ドラゴンクエスト』を4までしかやったことのない私でも、こんな感じのゲームにふたつくらい出くわしてますもの。ちなみに私たちが旺盛にゲームをやっていた頃の、マイベスト1ソフトはスーパーファミコンの『イーハトーヴォ物語』でありました。

 そこで「あーあ、またかぁ」感触があったことは確かなんです、冒頭で。ゲームっぽい。まあそこは大人のレビューワーですから、おさえておさえて、黙ってしばらく読んでいくと、ほら出ました、主人公が身の回りから次々と情報を集め始めるのですわ。

 そこはどうやら地下室らしく、うっぷしていたテーブルには「お前たちの中に鬼がいる」の落書きが。部屋を出るとほかに5つの部屋があり、そこには鎖で繋がれた中学生から成人の女性まで5人が監禁されていて、それぞれの部屋の鍵を須永はもっていた。

 これ逆に言うとですね、ゲーム好きの諸氏にはぴったりの始まり方でもあるわけですわ。鍵開けて女性たちといろいろ情報交換してるとですね、リセットがやってくるんです。つまり、ある一定の時間がたつと、全員もとの部屋に、でもランダムな順番で、戻されてしまう。やがて地下室の探査をほぼ終了して階段を上がると、そこにはさらにゲーム心をくすぐる設定が待ち構えている寸法になっております。

 だけど最初にいったように、ただゲーム的なだけでは美味なミルフィーユとは言えない。まずゲーム的な滑り出しで始まった物語は、6人のうちにいる鬼を殺せば脱出できるという展開から血みどろのホラーを彩りながら、さまざまに錯綜する人物の思惑を命がけの駆け引きで乗り切っていく心理小説の片鱗をみせ、後半に入ってからは怜悧な探偵役の登場によりミステリーサスペンスと姿を変え、どこまでもどこまでも読者を引っ張っていく。

 鬼とは誰か、それが溶けたとき大きなカタルシスがやってくる。

文=岡野宏文

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