マンガ『ホクサイと飯』レビュー 右手にお箸左手にお茶碗、いつも心にホクサイさんを

ダ・ヴィンチニュース / 2013年12月11日 11時40分

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『ホクサイと飯』(鈴木小波/KADOKAWA 角川書店)

 何かに追い詰められてにっちもさっちもいかなくなりそうな時、人はよく現実に背を向けて逃避をはじめる。

『ホクサイと飯』の中身(一部)が見れる記事はこちら

 試験前に辞書を探したその先で、本棚の埃に目が行きそのまま朝まで掃除をしていた高校時代。課題の進み具合が芳しくなく、頭を掻きむしったその時にふと枝毛に気付き、そのままハサミを手に枝毛と格闘してしまった専門学校時代。箱に詰めても詰めても終わらない蔵書の量に泣きそうになりながら、手を止めうっかり開いてしまったそのページから全何十巻のマンガを読破してしまって夜が明けた数年前の引っ越し時。すべて私のどうしようもない経験談だが、読んでいてぎくりとした箇所がまったくなかった人はきっといないはずだ。そう信じたい。

 そんなどうしようもない話はさておいて、『ホクサイと飯』(鈴木小波/KADOKAWA 角川書店)の主人公である山田ブン(漫画家・一人暮らし・女性)は、〆切の4時間前という本気でにっちもさっちもいかなくなりそうな現実を目の前に、朝ご飯を作り始める。

 しかもカップ麺とかトーストとかそんなお手軽なもんじゃなく、豆腐とわかめのみそ汁/サバの一夜干し/お新香/卵焼き/のりの佃煮/ご飯、という素晴らしき和朝食だ。身を乗り出してブンさんあなたの作ったみそ汁を毎日飲みたい、とプロポーズしてしまいたくなりそうなメニュー。これが〆切前、というシチュエーションでなければ。

 彼女は完璧な朝食を作り、食し、原稿に向かう。そんな彼女の一挙手一投足を、ぬいぐるみのホクサイさんがツッコミを入れながら見守っている。ああ、なんと満たされた朝食風景なのだろう。しつこいようだがこれが〆切直前の逃避によって生まれた風景でさえなければ。

 山田ブンさんは、どうやら漫画家としてはあんまり売れていない部類の人であるらしく、彼女はしょっちゅういろんな壁にぶちあたる。貧困とか編集長の容赦ないリテイクとか鬼のような担当とか。その度に彼女はおいしそうなものを作って逃避し、おそらく幸せそうな顔をしながらそれを食べ、ふたたび現実へと帰ってゆく。時に現実にヘコまされながらも、日々おいしいごはんを作り、食べながら頑張っている。

 そうだ、明日はちょっといい朝ご飯を作って食べよう、そして私も頑張ろう――
まあ、結局寝坊しちゃっていつもの手抜き朝ご飯なんですけどね。

文=kujira

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