イギリス人フードジャーナリストが食べ歩いた、日本人の知らない日本食

ダ・ヴィンチニュース / 2013年12月13日 11時50分

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『英国一家、日本を食べる』(マイケル・ブース:著、寺西のぶ子:訳/亜紀書房)

 「ステーキを食べるとさぁ、体中がすっげぇ気持ちいい~ってならない? もう、脳から快感物質がドバーッと出てくるみたいな…」。

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 以前、友人が興奮気味に口にしたセリフを思い出した。マイケル・ブース『英国一家、日本を食べる』(亜紀書房)を読んでいる最中のことである。

 『英国一家、日本を食べる』は、著者が家族とともに日本中を食べ歩きした旅行記。3カ月の間、東京、北海道、京都、大阪、福岡、沖縄と移動をしながら、多種多様な“日本食”をとにかく食べまくる。愛をこめて評するならば、それは「食い意地の張った気のいいイギリス人のオッサンが、心ゆくまで日本を味わい尽くす旅」だ。

 この食紀行の面白さは、なんと言っても、ブースが食のプロであると同時に、食という体験を楽しむ名人だという点にある。著者のブースは、イギリスのフードジャーナリスト兼トラベルジャーナリスト。パリの名門料理学校「ル・コンドン・ブルー」で1年修業を積み、ミシュラン三ツ星レストラン、ジュエル・ロブションのレストランで働いた経験を持つ、“確かな舌”の持ち主だ。しかし、本書はいわゆる日本料理の名店をめぐるようなガイドブックではない。

 まず、スタートからしておかしい。彼ら一家の日本旅行は、夜の新宿で呆然と立ち尽くすところから始まる。迷い込んだのは、「日本最大の歓楽街」歌舞伎町。イギリス人男性とその妻、そして4歳と6歳の男の子が、である。

 そこで、「日本に着いた最初の夜だけに、何か特別なものを食べてみたかった」ブースが向かったのは、狭い路地に古い居酒屋が軒を連ねる思い出横丁。そのうちの1軒に入って初めての焼きそばを噛みしめて、思う――「冷静に判断しても、癖になる味だ」。

 かと思えば、銀座で高級天ぷらに舌鼓を打ち、料理人に「あんなにカリカリした、ちょっと太めの小枝みたいなきつね色の衣の中に、ふわふわで熱々の野菜や魚が入っているのはなぜか」をしつこいまでの勢いで聞き出そうとする。かようにして、本書には日本食を「未知なるもの」として発見していく様子が生き生きと描かれているのだ。

 その後も、ブースは「スモウ・モンスター」のひしめく相撲部屋でちゃんこ鍋を食べ、ビストロSMAPの収録現場を見学し(香取慎吾はバスター・キートンみたいでおもしろいやつ、中居正広はカリスマ性があるエネルギーの塊だけど、他の三人はパッとしない)、札幌のバターコーンラーメンのおいしさに衝撃を受け(スープを口に入れた瞬間、「ラーメン天国にいる気分になった」)、「世界最速のファストフード」の街・大阪で串揚げが「いまだに世界で旋風を起こしていないのはなぜなのか、理解に苦しむ」など、大忙しだ。

 一方で、京都の老舗で豆腐や流しそうめん、鮒寿司を堪能したり、日本酒造や味噌蔵を訪れたり、日本の二大調理師専門学校で服部幸應、辻芳樹両氏から日本食の伝統と現在を聞き出したりと、ストレートに日本食へ切り込んでもいる。

 焼酎、日本酒、だし、味噌、寿司、豆腐、串カツ、麩、そば、ラーメン…。ブースは、異国の食文化を自国の読者に伝えようと、日本食の歴史や製法、味わいと感想を丁寧に説明する。これを読めば、きっと自国、そして自国の食文化について、いかに無知かを実感することだろう。

 ブースが食べた日本は、日本人にとってもわくわくするような驚きと発見に満ち満ちている。

文=有馬ゆえ

ダ・ヴィンチニュース

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