全作家とその志望者、本好き、文章を書く人(ブロガーも?)も必読! 筒井康隆による「小説作法」

ダ・ヴィンチニュース / 2014年4月22日 12時10分

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『創作の極意と掟』(筒井康隆/講談社)

 小説を読んで「これなら自分にも書けそうだ」と思って書いてみたがすぐ挫折した、という人は結構いると思う。それは、文章を書くことのハードルが低く思えることが原因なのではないだろうか。例えばミュージシャンなら歌を歌ったり楽器をこなすスキルや作詞作曲をする技量とセンスが必要だし、スポーツ選手になろうと思ったら常人離れした体格や身体能力がないと到底ムリだ。画家やマンガ家ならば絵が描けなくては話にならないし、俳優になろうと思えば確かな演技力と容姿(美醜だけではない)が重要になってくる。その点、文章というのは子どもの頃から誰でも書き、メールやSNSなどで作文を日常的にこなしているので特別なスキルが必要なさそうに思え、自分にもできそうな気がしてしまうのだろう。しかし人を驚かせ、楽しませる作品を完成させるには、並々ならぬ努力と才能が必要となる。

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 しかし作家の筒井康隆氏は「小説は誰にでも書ける」と『創作の極意と掟』(筒井康隆/講談社)で語っている。「この文章は謂わば筆者の、作家としての遺言である」という書き出しから始まる本書には、様々な小説技法のイロハが詰まっているが、筒井氏は本書を「いわゆる教科書でもなければ何なに読本の類いでもない」と説明、「ふざけたタイトルからもわかるように、単なるエッセイだ。老人が囲炉裏端で昔話を交えて語る繰り言と思って気楽に読んでいただきたい」と序言で断っている。

 しかし自作や古今東西の小説を引用しながら「凄み」「淫蕩」「展開」「文体」「形容」「会話」「人物」(インデックスは全て二文字の熟語になっている)など、小説を書く上で作家(とその志望者)が必ずブチ当たる問題についての解説は、一度でも小説を書いてみた人なら目から鱗が落ちる思いがするのではないだろうか。

 本書は基本的に「小説作法」についての話なのだが、小説を読む際に「作家はこういうことに気をつけて書いているのか」ということに気づいて、より面白く小説を読める効能や、文章を書く上で気をつけたいことについても書かれているので、どんな人にも役に立つ1冊だ。

 例えば単語や似たようなことを重ねていく「羅列」では、チリの作家であるホセ・ドノソや中島らも、そして自身の小説を引用し、羅列は異化効果(普段見慣れた表現や聞き慣れた言葉などを非日常的に表現することで、異質なものに変えること)を生むが、創作的意味がなければ読者に読み飛ばされてしまうものであると指摘している。また小説だけではなく、文章を書くときには必ず気をつけたい「語尾」についての記述などは、文章を書く人すべてに読んで欲しい項目だ。同じ語尾の重複が続くとリズムが悪くなるものだが、その語尾をなぜ使うのか、ということについて悩めば、悩んだ末に悟りの境地があると筒井氏は書き記している。これまで小説作法のようなものを書いてほしいという要望を断ってきたと言う筒井氏だが、「従来の小説作法にはない、そして他の作家や作家志望者に教えてあげることができそうな、そして小生のみに書けそうなことがたくさん浮かんできた」ことから本書を執筆することにしたそうだ。

 筆者は以前、新人賞にはとんでもない作品も応募されているという話を、ある賞の審査員を務めていた作家に聞いたことがある。たった数枚しか書いていない応募作が届き、冒頭だけの最後に「この続きが読みたければ、私に新人賞をください」と書いてあって(もちろん続きが読みたくなるような内容ではなかったそうだが)、その姑息な手段に全員がガックリと肩を落としたという。これは極端な例だが、応募要件を満たす枚数で小説としての体裁を整えることは(内容はさておき)やろうと思えば誰でもできることではある。しかし審査員を唸らせる作品を書いてデビューしたい、という人にはぜひ本書を参考にしてほしい。そしてメールやブログ、ツイッターなども含め、文章を書くすべての人が読んでくれたら、妙な文章を目にすることがなくなる…かもしれないのだが。

文=成田全(ナリタタモツ)

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