マンガアプリ「マンガボックス」屈指の問題作『穴殺人』がついに単行本化

ダ・ヴィンチニュース / 2014年5月23日 7時20分

写真

『穴殺人』(裸村/講談社)

 覗くな、危険。これより先、怪物領域。

関連情報を含む記事はこちら

 『穴殺人』というマンガを端的に表すには、上記のような言葉が相応しい。
 
 昨年12月よりスタートした完全無料マンガアプリ「マンガボックス」で毎週100万人の読者が読んでいる裸村『穴殺人』(裸村/講談社)がついに単行本化された。

 帯文曰く、「ネット界の巨人から何度も削除され、糾弾され続けた、禁断の人気作」であるとのこと。物騒な謳い文句が目を引くこのマンガ、どんな話かというと――
 
 ひきこもりの青年、黒須は人生に絶望し、アパートの自室で自ら命を断とうとする。が、首を絞めるためのベルトを引っ掛けていたフックが壁から剥がれ、あえなく失敗。このフックさえ剥がれなけりゃ死ねたのに。しかし黒須は死に損ねたおかげで、人生に思いがけぬ光が差し込むことになる。フックが剥がれた跡にできた小さな穴、それを覗くと隣に住む若くて、綺麗で、巨乳のお姉さんの私生活がまる見えではないか。食事する時、着替えをする時、そしてエッチな表情をする時。彼女の全てを覗きみることで、黒須は生きる希望を取り戻す。

 自殺願望者が覗きで生きがいを見出す、というだけでも十分に変態的だが、話は当然これでは終わらない。
 
 ある晩、黒須はとんでもない光景を目撃してしまう。部屋に忍び込み、襲い掛かってきた男をお姉さんは殺してしまったのだ。今見たのは、夢か、現実か。

 その後、黒須はお姉さんと知り合うことになる。彼女の名は宮市莉央さん。大学院の転入で引っ越してきた年上のお姉さんは清楚で料理も上手く、とっても優しい。なんだ、こんな女性が人を殺すわけないじゃないか。安心するどころか、すっかり恋に落ちてしまった黒須だが、再び彼は見てしまう。

 宮市さんが部屋に現れた男を、しかも笑いながらカッターで切りつけ次々と殺す姿を。彼女は殺人鬼だったのだ。

 やがて黒須はピンチに陥る。宮市さんに部屋を覗いていたことがばれてしまったのだ。自分も殺されるのか。絶望する黒須に向かって彼女は意外な言葉を呟く。

 「私を認めて……」
 
 画こそ少年マンガの本道をいくタッチであれ、そこかしこに官能とバイオレンスがひしめく妖しい作品である。覗きで快楽をむさぼるうちに、主人公が越えてはならぬ境界線を越えてしまい狂気の世界を垣間見る展開は、江戸川乱歩の背徳感に溢れる探偵小説を思い起こさせる。

 最大の魅力は何と言っても愛くるしい殺人者、宮市莉央さんだ。

 彼女は殺人鬼である。野球観戦デートの最中に「人を殺す処女と人を殺さないビッチ、どっちがいい?」とかいきなり言い出すし、芸術家を気取る死体処理屋の延命寺(こいつも変態)みたいな知り合いもいるし、明らかに異常の側に身を置く人間であることは間違いない。しかし人殺しであることを除けば、彼女は美味しい料理と素敵な笑顔で年下の男の子を可愛がる、実に理想の恋人である。「お嫁さんにしたい殺人鬼コンテスト」を開けば、トップ当選は確実だろう。こうした両極端な性格を併せ持つキャラクターに黒須同様、読者も翻弄されながら虜になっていくはずである。

 ぶっ飛んだ登場人物とねじれた倫理観が惑わせる、エロスとスリルに満ちた危険な物語だ。みんな読んで宮市さんに恋しましょうね。殺人鬼だけど。

文=若林踏

ダ・ヴィンチニュース

トピックスRSS

ランキング