【美空ひばりを豆粒大で撮った男】「ウルトラマン」などの映像作家『実相寺昭雄研究読本』が発売

ダ・ヴィンチニュース / 2014年6月9日 7時20分

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『実相寺昭雄研究読本』(洋泉社)

 燃えるようなオレンジの夕陽に包まれた街、古びたアパートの一室に置かれたちゃぶ台の前に、学校の上履きのような胴体を持った宇宙人が胡坐をかいている。

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 『ウルトラセブン』第8話「狙われた街」のワンシーンである。地球侵略を企む凶悪な宇宙人がちゃぶ台に座る、というシュールな構図は幼い時分にビデオで見て以来、脳裏に焼き付いて離れない。おそらくリアルタイムで見た当時の子供たちの衝撃はさぞ大きかっただろう。

 「狙われた街」を監督した実相寺昭雄は、多岐にわたるジャンルにおいてアバンギャルドな作品を残した映像作家である。この度洋泉社より発売された『実相寺昭雄研究読本』は、出演者・スタッフなどのインタビューを多数交えた本格的な実相寺作品の研究書だ。『エヴァンゲリオン』の庵野秀明など後進のクリエイター達に多大な影響を与えており没後も根強い人気を保つ監督だが、意外にも評論書の類は刊行されていなかった。それだけにこの『研究読本』の発売は実に嬉しい出来事だ。

 先ほど実相寺の仕事について「多岐にわたる」と書いたが、これは誇張でも何でもない。円谷プロを中心とした子ども向け特撮番組をはじめ、『無常』などのATGや『帝都物語』といった大作映画を手掛けるだけでなく、テレビコマーシャルやミュージカル、果てはアダルトビデオまで、ありとあらゆる分野で実相寺は実験的映像の創出を試みた。従ってその全仕事を追うだけでも大変なのだが、このムックではTBS時代の1960年代から晩年までを作品毎に丁寧に解説している。なかにはビデオカメラのデモ映像といったものまで取り上げていて、網羅性については大満足の一言だ。

 さらに実相寺ファンにとって有り難いのは「ウルトラマン」以前、つまりTBS演出部に入って間もないころの音楽番組やドラマについての詳述だ。『ウルトラマン』第23話「故郷は地球」といった、アナーキーなメッセージを独特のカメラワークや照明使いで演出する特撮ドラマで名を馳せた実相寺だが、テレビ演出家としての出発点は「歌う佐川ミツオ」という歌謡ショーだった。ここで実相寺は中継のさなかに「しあわせ」そうな市民たちの「戦争観」のインタビューをモンタージュするという、当時の娯楽音楽番組としては余りにも型破りな演出を行っている。それよりも凄まじいのは63年の大晦日に生中継された「歌くらべオールスター大行進」だ。何と実相寺は昭和の大スター・美空ひばりが歌い始めるとカメラを思い切り引き、ひばりを豆粒大ほど小さく映したかと思えば、今度は顔をどアップで撮ったりするなど、「歌い手をしっかりうつす」という音楽番組の大前提を全否定するかのような大胆なカメラワークを取り入れたのである。これにはさすがに視聴者から抗議が殺到したとか。実相寺はその映像作家としてのスタート地点からして既に、定まった枠からはみ出た人物だったのだ。

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