「在日の人が抱える疎外感を代弁したかった」 ―田村優之の小説『月の虹』が泣ける!

ダ・ヴィンチニュース / 2014年7月7日 17時0分

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『月の虹』(田村優之/ポプラ社)

 2年前に文庫化された小説『青い約束』が、いまビジネスマンの間で話題になっている。過去と現在、青春時代のロマンと日本経済の現実が交錯する本作品と、同じく文庫化され6月に発売された『月の虹』で共通して描かれるのは、ある年齢に達した人間が誰しも抱く喪失感だ。しかし田村さんは物語の力でその向こうに再生と希望の光を照らし出している。男が読んで泣ける物語の秘密がここにある。

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 あのとき開けなかったドアの向こうに何があったのか

 自分はなぜここにいるのだろう?
 今までの選択はほんとうにこれでよかったのか?
 やり直しのきかない人生の過程でふと胸に浮かぶこんな思い──。

「あのとき開けなかったドアの向こうや曲がらなかった道の先に何があったんだろう? そんな思いをずっと引きずったまま40代を過ぎた頃、この物語を書きました」

 そう語る田村優之さんの小説『青い約束』が、いま30~40代のビジネスマンを中心に売れている。田村さん自身も現役の新聞記者で、この作品の親本である単行本『夏の光』を出版したのは7年前。それに加筆修正し文庫で発売したところ、男が泣ける隠れた名作として口コミがどんどん広がっているのだ。

 物語の冒頭に出てくる一枚の絵の描写がまず脳裏に焼き付く。森の中から見上げた上空に見えるのは「美しい青の中に、光がまばゆく交錯している」空の色。すべてを忘れて飛び立って行きたくなる青空と光が、青春のきらめきや若き日の可能性を意味していることに気づかされるのは、しばらく読み進めた後だ。

「40を過ぎてから、自分はもう若くないことを痛感するようになりました。それと同時に、どれだけ一生懸命働いても個人の豊かさや幸せには結びつかない日本社会と経済に対する疑問や苛立ちも感じはじめた。でも自分自身は長いものに巻かれるだけ巻かれて、理想を求めて闘うようなきらきらした人間じゃないしそこまでタフでもない。でも小説だったら、純粋に誠実に闘い続ける心が折れない強さを持った男の話が書けると思いました」

 主人公の宮本修一は、「人間を幸せにする経済の仕組み」を研究することが夢だったが、今は証券会社の敏腕チーフアナリストとして働いている。その修一が、二十数年前の”ある事件”を機に音信を断っていた親友で新聞社の経済記者として働いている有賀新太郎と偶然再会する。40代になり、理想とはほど遠い社会のなかで孤高に信念を貫こうとしている修一と有賀。”あの事件”で失ったひとりの死者への思いを胸に、それぞれの道を走り続けてきた二人。その再会から修一の胸に蘇ってくるのは、当時の彼女だった純子と有賀の彼女だったサチを含む男女4人の高3の夏。有賀と共に汗を流したボクシング。純子に勧められて読んだ高野悦子の『二十歳の原点』……。そういったきらめくような青春時代の回想と、金融業界という名のいびつなリングの上で権力と闘う二人の話が交互に進んでいく。

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